誤報で価格上昇──ビットコインETFになぜ大騒ぎするのか?

ビットコイン(BTC)は誰でも取引できる。それがビットコインのようなオープンプロトコルの意義だ。では、なぜビットコインにアクセスするための代替手段のために、これほど多くの時間とエネルギーが費やされているのだろうか?

特に、似たような商品──先物ベースのETFや上場取引型金融商品(ETP)などがすでに存在しているのに、なぜ現物ベースのビットコインETF(上場投資信託)がこれほどもてはやされているのだろうか?

誤報でビットコイン上昇

10月16日、資産運用会社ブラックロック(BlackRock)のビットコインETFがついに承認された(実際にはまだ承認されていない)という噂が流れただけで、価格は2000ドル(約30万円)も跳ね上がった(そして下落した)。ビットコイン現物ETFについては、明らかに何か積もり積もった需要のようなものか、あるいは少なくともETF関連のニュースで取引する機会を待っている傍観者のマネーが存在している。

Cointelegraph(コインテレグラフ)がETF承認を伝える記事をツイートし、人気のニュースアグリゲーターなどに取り上げられたが誤報だった。

ブラックロックは、ビットコイン現物ETFの承認申請はまだSEC(米証券取引委員会)が審査中であることを認めた。SECが控訴裁判所への訴えを諦めたことで、グレイスケール・ビットコイン・トラスト(GBTC)のETF転換が再び動き出したというニュースが伝えられ、市場ウォッチャーはETF関連のニュースを探す態勢に入っていた。

世界最大の資産運用会社という期待

ブラックロックのETF申請の場合、その興奮の多くは、申請を行ったのが世界最大の資産運用会社であり、暗号資産市場への参入に関心を持っているという事実に結びついている。

ブラックロックのETF申請だけで、暗号資産業界全体が承認を受けたような形になり、どの国の政府にも縛られない暗号資産はますます魅力的になると主張したブラックロックのラリー・フィンク(Larry Fink)CEOのコメントはさらに砂糖を振りかけたようなものになった。

ビットコイン現物ETFを望む気持ちは、ビットコインへのエクスポージャーに関心を持つ多くの人々、企業、ファンドがまだそれを実現できていないという事実に由来する。

そのため、ビットコインという斬新なアセットクラスを伝統的な金融商品の形にすることは、傍観している資金に橋渡しをすることになる。ビットコイン現物ETFには何十億ドルもの資金が流入するとの試算もある。ただし、少なくとも理論上の話だ。

却下に次ぐ却下を経ての希望

とはいえ、ビットコイン現物ETFへの関心の高さは、一般的な投資家がこれまでアクセスを否定されてきた事実とも関係している。

SECは、2013年のウィンクルボス兄弟による申請を皮切りに、現物ベースのビットコインETF申請をことごとく却下してきた。SECの主張は通常、ビットコインの相対的な非流動性(流動性はビットコインを上場している数多くの取引所に分散している)と満足な市場監視システムがないことをその要因とし、市場操作のリスクを中心に展開されてきた。

少なくとも、14日深夜、SECが裁判所から、グレイスケールのビットコインETF転換申請を却下したことを見直すようとの命令に控訴しなかった時点まではそうだった。

GBTCは、初期のクローズドエンド型ビットコイン信託の1つであり、現在も最大の信託を管理しているが、オープンエンド型ETFへの転換を望んでいる(大きな違いは、人々がより簡単に取引でき、資産の償還もより簡単にできるということ)。

SECは当初、すべてのビットコイン現物ETF申請に対して抱いていたことと同じ懸念(市場操作と監視不足)を理由に、グレイスケールの申請を却下した。しかし、グレイスケールがこの決定を不服として控訴したところ、裁判所はSECの理由を「恣意的」かつ「気まぐれ」と判断した。

1月10日までにデビューする確率は90%

SECは、ビットコイン現物ETFが、現在アメリカで問題なく取引されている先物ベースのETFよりも危険であることを示すことはできなかった。

つまり、グレイスケールの申請は再び有効になり、SECが再び却下する根拠はないということだ。ビットコインは16日の早朝に4.5%上昇し、GBTCのディスカウント率は2021年12月以来の最低水準まで縮小した。ブルームバーグのアナリストは、ビットコイン現物ETFが1月10日までにデビューする可能性は90%と述べた。

問題は、グレイスケールがETFのドアを最初に通過するかどうかだ。前述したように、ブラックロック、フィデリティ(Fidelity)、ヴァンエック(VanEck)など、伝統的な金融会社の多くがこの領域に参入しようとしている。

SECが暗号資産企業に敵対的であることを考えると、こうした伝統的金融会社のいずれかが最初に認可を受ける可能性がある。SECのゲーリー・ゲンスラー委員長は、多数の市場監視ツールが適用されることを見込んで、ブラックロックに申請するよう密かに促したのではないかと疑う者さえいる。

実際の投資につながるか

しかし、別の意味では、誰が最初に市場に出るかは重要ではなく、ビットコイン現物ETFが、ビットコインに対する機関投資家の関心と投資の拡大につながるかどうかだけが重要だ。

ビットコイナーは過去にも、ビットコインはインフレヘッジになるとか、10万ドルになるのは間違いないとか、世界の基軸通貨として広く普及するといった主張を含めて、「金融アドバイス」ではないものの、大きく的外れな発言を繰り返してきた。

ブロックワークス(Blockworks)が報じたように、ビットコインの1日の取引高の8%を占めるバイナンス(Binance)のBTC/USDT市場は、ブラックロックのETF承認に関する誤報が投稿された約30分後に、7%の上昇を記録した。

2022年にウォルマートがライトコイン(LTC)での支払いを受け入れるというフェイクニュースで一度、暗号資産業界は恥を晒している。

暗号資産市場は(特に誤報で1億ドル以上のオプションが清算されたことで)新たな資金を必要としており、多くの人々はまだ、マスアダプションが可能であるという考え方を当てにしている。

誇張されすぎている?

ビットコイン現物ETFが機関投資家の採用を促進するという考え方はもっともらしいが、誇張されすぎている可能性が高い。4年ごとのビットコイン半減期から、イーサリアムの「Merge(マージ:PoS移行)」まで、事前に知られていた大きな暗号資産イベントのように、市場はこれらのイベントをすでに「価格に織り込み済み」であるにもかかわらず、人々はそうしたニュースを取引してきた。

ビットコイン現物ETFへの関心は、何か希望を見出したいという尽きることのない欲求から生じているところが大きいと思う。

さらに、市場がETFに恵まれてこなかったという事実は、ETFをより魅力的なものにするだけだ。業界の「規制の明確化」を求める声と同様で、規制の進展が満足のいくものであれば、将来の普及のための基盤になると思われる一方で、同時に一部の活動を抑制することになる。

フロイトの行動経済学の精神分析のように聞こえるかもしれないが、経済は人間でできており、人間には「ないものねだり」を含む衝動や欲望があることを忘れないでほしい。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Beneath Blue / Shutterstock.com
|原文:What’s All the Fuss About Bitcoin ETFs?