ブロックチェーンの国内外における最新動向をレポートした『ブロックチェーン白書2019』(発行:N.Avenue)が2019年8月29日、刊行された。業務でブロックチェーンに関わっている多くのビジネスパーソンや金融業界関係者からは既に高い評価の声が届きつつあるが、「ブロックチェーンは仕事では直接関係しない」「ブロックチェーンについては知りたいが、どうやって使えばいいのか分からない」という人も少なくないだろう。そこでブロックチェーン白書2019制作委員会では、本書を読む際のポイントや活用方法について、執筆・構成を担当した勝木健太氏と、編集を担当したCoinDesk Japanコンテンツプロデューサーの久保田大海氏に聞いた。
Webの検索では得られない“網羅性”
──今回『ブロックチェーン白書2019』を出版した理由、また白書の役割を教えてください。
久保田:ブロックチェーン技術は、「インターネット以来の発明」と呼ばれています。産業への応用範囲は広く、仮想通貨や決済など金融だけではなく、物流や流通、サプライチェーン、公共事業、コンテンツ、IoT、データビジネスなど潜在的市場規模は67兆円(経済産業省、2016年)と言われます。
一方で、応用可能な領域が広いために、ブロックチェーンの最新技術、消費者・事業者や各国の動向、法規制の現状、各産業でのユースケース(事例)など、全体像を把握するのは難しいのが現状です。その課題を解決するために、重要な情報やデータを網羅的に整理したものが『ブロックチェーン白書2019』です。
今回、執筆・構成を担当いただいた勝木さんは、国内を代表する大手金融機関で実務経験を有しており、またグローバルなコンサルティングファームでのプロジェクト経験を通じて、ブロックチェーン技術に関する体系的な知見を備えています。過去にも『未来市場 2019-2028』(日経BP社)や『ブロックチェーン・レボリューション』(ダイヤモンド社)といった書籍に執筆協力してきたプロフェッショナルです。
特に動きの早いブロックチェーンの世界において、最新トレンドや全体像を俯瞰するというコンセプトのもと、勝木さんを中心として白書を出版することにしました。
勝木:本領域においては、基本的な知識や国内外の動向を体系的かつ網羅的にカバーするようなコンテンツが他の分野と比べると相対的に不足していると感じていました。ブロックチェーン技術は、その性質上、応用される領域が非常に広範にわたることが想定され、その全体像を掴もうとしても、単純にWebで検索すれば「答え」が出てくるとは言いがたいところがあります。
白書の役割としては、自社の事業にブロックチェーン技術を導入することを検討する経営企画/新規事業開発の担当者にとっての「羅針盤」というイメージです。羅針盤という役割を持たせる上で、特に「目次」にはこだわりました。
ブロックチェーンという広い海にいきなり放り込まれて右も左も分からない、そんな状況に陥っている方が、本書の目次をベースに情報収集やアイデア出しを実施していただくことを想定して構成しています。
──白書はどういった方に役立つと思われますか?
勝木:仮想通貨やブロックチェーンに直接的に関与している方だけでなく、デジタル変革に関わるすべてのビジネスパーソンに読んでいただきたいと考えています。具体的には、事業会社の経営企画/新規事業企画/デジタル推進部署/コンサルティングファームの方々でしょうか。
久保田:そうですね。ブロックチェーンビジネスや仮想通貨に携わる人、特に新規でビジネスを立ち上げようとしている経営企画やR&Dに従事している方々、またスタートアップの方にオススメです。また事業のパートナーとしてチームに入るコンサルタントや開発会社の方々、ブロックチェーンビジネスの全体像を俯瞰して把握したい、しなくては仕事にならない方々にとって、基本的な知識を得るのにうってつけの一冊になっていると考えています。
他の業界と比べて統計が少ないブロックチェーン分野
──白書はアンケートに多くのページを割いています。なぜでしょうか?
久保田:白書の刊行にあたり、3方向からの切り口でのアンケートを実施しました。2000人以上を対象とした消費者アンケートから、仮想通貨の認知度・利用状況から金融商品・決済手段としての役割、メディアや取引所の利用状況、ブロックチェーンの認知度などの実態が浮き彫りになっています。
また、事業会社約60社に対する独自アンケート調査により、ブロックチェーン事業への取り組みの実態や意向、投資状況などを調査。ブロックチェーンに携わっている事業者と、携わっていない事業者のブロックチェーンへのスタンスの違いを見ることができます。
そして仮想通貨交換業者11 社に対してのアンケートでは、交換業における課題やシステム管理・マーケティング・カスタマーサポート体制などの現状を見ることができます。
このアンケートに基づいて、仮想通貨ホルダーが何を考えているのか、事業者や仮想通貨交換業者が何に課題を感じているのかなどを、アンケートを通じて生の声を読み取っていただけるのではないでしょうか。
勝木:この業界はまだまだ動き出したばかりということもあって、客観的な統計データが他の業界と比べると相対的に少ないと感じています。今回の白書に記載されている統計データは、ビジネス上の意思決定を行う上で、社内やクライアントを巻き込む際の説得材料の一つとして使っていただくことを活用方法の一つとして想定しています。
──法律・会計・税制の解説に力を入れている理由は?
久保田:これまで登場してきたAI、IoT、VR/ARなど他のテクノロジーキーワードと比べて、特に制度(レギュレーション)と関係が深いのがブロックチェーン技術であり、仮想通貨です。ビットコインが最初のユースケースとなったこともあり、通貨、決済、証券、資産管理など金融からイノベーションが起こっており、ゆえに法律・会計・税制面の現状を知ることなしには新たなビジネスを企画できませんよね。
勝木:今回の白書は、ブロックチェーンに関わる法律・会計・税制面のすべてのコンテンツに対して、弁護士・会計士・税理士の監修を受けています。具体的には、法律面に関しては、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合健先生、長瀨威志先生、会計面に関しては、お名前は出せていないものの、国内有数の大手監査法人に所属する会計士の方、税制面に関しては、仮想通貨税務に精通した専門家集団として知られるAerial Partners株式会社の岡田佳祐先生に監修をいただいています。
特に日本は法律面に関しては世界で最も整備が進んでいる国の一つと言われることがあります。白書を読めば、そうした法規制の中でブロックチェーン・仮想通貨で何ができて、何ができないのかがクリアになるでしょう。法規制の側面から見るだけでも、世界最先端の情報を体系的に把握することができます。みなさんの今後の事業活動に、大いに役立てることができると考えています。
ブロックチェーンビジネスの成功率を上げるために
──今回の白書は、Webのニュースで得られる知識と何が違うのでしょうか。
久保田:ニュース記事の情報を、すばやく自社のビジネスのために取り入れるためには、「この情報がなぜ大事なのか」「このニュースがどういったことに影響を与えるのか」などの文脈が必要です。ブロックチェーン白書が提供する価値の一つは、こうしたブロックチェーンビジネスや仮想通貨ビジネスの「コンテクスト(文脈)」を把握するためのものと考えています。
勝木:ニュース記事は最新情報から時系列軸でコンテンツが提供されている一方、今回の『ブロックチェーン白書2019』は、より体系的・構造的な形で当該領域でビジネスを行う上で必要な知識を網羅的に記載しています。
最初にお話をしたとおり、本書はブロックチェーン業界を進むための羅針盤という位置づけです。目次をベースに情報収集やアイデア出しをしてもらうことを想定していますので、基礎情報として読みすすめていただきたいと思っています。
また、出典の正確さについても言及しておきたいところです。適切な意思決定を行うには、適切な情報ソースに基づいて得られた仮説構築が必要不可欠ですので、基本的にすべての項目に対して出典元を明示していることも、今回の白書の大きな特徴と言えます。
「ブロックチェーン技術・ビジネスの全体像を最短で把握できる」
──最後に、ビジネスシーンでの活用方法をお聞かせください。
久保田:ざっと目次のタイトルをながめて、「なぜこの分類になっているのか」「どういう産業へ応用されやすいのか」などを把握いただけると、より全体像をつかみやすくなるように編集しました。ぜひブロックチェーン技術を応用して、自社のビジネスの新たな展開に活かしてください。成功の確率を上げるため、必要な情報が詰まっています。
勝木:ブロックチェーン技術の実社会への浸透は、金融領域から進んでいくという見方があります。その意味で、金融機関に所属する方々には是非とも読んでもらいたいと考えています。また、ブロックチェーン技術は適用可能な領域が多岐にわたることが想定されるため、金融業界以外の方々にとっても、ブロックチェーン技術は決して他人事ではなく、全体像を体系的に理解しておく必要があると考えています。
私見ですが、ある特定の分野において、体系的な知識を短期間で獲得することを目指す場合、10冊〜20冊の書籍を一気に読み切ることが有効であると考えています。そのプロセスをショートカットし、全体像を最短で把握することができるのが今回の白書の特徴です。
書籍の場合だと、どうしても情報を料理した後に、著者のバイアスがかかった結論が並んでしまっていることが多いものです。今回の白書は、スクリーニングされたキーワードと解説を並べる構成となっています。いわば、料理する前の「素材」がそろっているようなものです。
「価格(冊子+PDF:180,000円+税 / PDFのみ:150,000円+税)が高いのでは?」と感じてしまう方もいらっしゃると思います。ですが、大手コンサルティングファームに対して、この白書の内容に相当するレベルでリサーチを発注する場合、単月で数百万円以上の費用が必要となることも想定されます。
そういったコスト面のバランスを考えると、白書のデータを適切に活用することは、結果的にはリーズナブルであるとも言える、といった点も強調したいところです。
いろいろな情報が錯綜し、従来のテクノロジーとは段違いのスピードで情報が更新されているブロックチェーン技術。本書の位置付けは「ブロックチェーンの大海での羅針盤」です。漕ぎ出すための一助として読み、そしてうまく利用して使っていただければと思います。
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識者の声──坂井慶大教授、國光gumi会長ほか
「噴火寸前のマグマの記録」坂井 豊貴氏(慶應義塾大学経済学部教授)
ブロックチェーンは社会を横断する技術なので、いま何が起きているのか、総体を理解するのはとても難しい。本書は散逸しがちな重要な情報をまとめあげ、その総体を手際よく眼前に示してくれる。産業の現状から、法制度や会計、国際比較まで、この一冊で概要が分かるのはありがたいことだ。私は本書を読んで、噴火する寸前のマグマの記録のように感じた。未来の段階では第一級の歴史資料になっているだろう。
「可能性を信じるすべての人必読の書」國光 宏尚氏(gumi 代表取締役会長)
仮想通貨バブルの崩壊以後、国内からグローバルNo.1のブロックチェーンゲームが誕生するなどスタートアップを中心にブロックチェーン市場が急速に立ち上がっている。本書は、ユーザ・事業者動向を最新の事例をもとに紹介しており、急速に変化するブロックチェーン市場にキャッチアップするための良書となっている。ブロックチェーンビジネスの可能性を信じるすべての者必読の一冊!
「情報収集の効率が格段に上がる」渡辺 大和氏(電通イノベーション・イニシアティブ プロデューサー)
ブロックチェーンに限らず、世の中に新しく現れた技術領域においては、ビジネス検討メンバー間で認識しているファクトにばらつきがあったり、そもそもの領域知見が曖昧・不十分なまま事業上重要な意思決定が進んだりしがちです。しかし、こうした白書の存在があれば、検討メンバー全体の認識レベルを高次にそろえることができるため、大変ありがたいと思いました。特に学びになった点としては、主要な国内外VC・ファンドの投資先やジャンル別のブロックチェーン事業者が国内外合わせて網羅的にまとまっている点です。具体的には、各国のレギュレーション関連情報の詳細が、日本語で網羅的にまとまっている点が挙げられます。ほかにも周囲のステークホルダー、決裁者を巻き込むための後押しとなるような事例が満載です。目指す事業の方向性と合致した事例の研究により、事前の情報収集フェーズの効率が格段に上がると思います。
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◼️『ブロックチェーン白書 2019』 概要
編集:ブロックチェーン白書編集委員会
執筆・構成:勝木 健太
編集協力:岡田 佳祐(Aerial Partners株式会社)、河合 健・長瀬 威志(アンダーソン・毛利・友常法律事務所)、柳内 海人
仕様:A4判・326頁
発行所:N.Avenue株式会社
編集:CoinDesk Japan 広告制作チーム
構成・写真:赤藤央伸