主要国の多くはまだ、ステーブルコイン規制を整備していない。例外は日本。この分野で先駆的なポジションを占めている。
日本では6月、ステーブルコインについて定めた改正資金決済法が施行された。これは重要な事例だ。なぜなら、ステーブルコイン規制が実際に可能であることを示しているからだ。これは当然のことに思えるが、実はそうではない。
例えばアメリカでは、議会がまだこの問題で争っており、ステーブルコイン規制が法律として成立した例はない。EU(欧州連合)では2024年からステーブルコイン規制がスタートするが、グレーゾーンが残っている。
日本にとっても、容易な道ではなかった。最近まで、米ドルや円のような現実資産に連動して価値を保持するよう設計されたこの種のデジタル通貨は、基本的に禁止されていた。発行者にとってはゼロからのスタートとなる。
規制のハードルに加えて、ビジネス上の課題もある。安全で収益性の高いステーブルコインを発行できるシステムをどのように構築するかだ。
大きな可能性
可能性は大きい。ステーブルコインの現在の時価総額は1240億ドル(約18兆6000億円)以上と推定されている。大手企業も進出している。ペイパル(PayPal)は最近、独自ステーブルコインを発行した。
ユースケースも幅広い。通貨の切り下げや高インフレに悩む国の投資家は、ドル連動型ステーブルコインを価値の保存手段として利用している。他の投資家は、シンプルに暗号資産(仮想通貨)との取引手段として利用している。
一方で、暗号資産業界においてステーブルコインが存在感を増すにつれて、いわゆる「安定性」についての懸念が広がっている。2022年5月、アルゴリズム型ステーブルコインプロジェクトの「テラ/ルナ(Terra/Luna)」が破綻、数十億ドルが失われた。
ニューヨークタイムズが「The Coin that Could Wreck Crypto(暗号資産を破綻させ得るコイン)」と呼んだ、時価総額最大のステーブルコイン、テザー(USDT)については、その準備金について以前から懸念が広がっている。つまり、投資家が一斉にステーブルコインをドルに戻そうとすれば、ドルが不足して取り付け騒ぎになり、破綻してしまうというシナリオだ。
日本のステーブルコイン規制は、ステーブルコインについての最大の懸念に対処しようとしている。すなわち、発行者は本当に裏付け資産(準備金)を保有しているのか? 仮にそうであっても、不透明でリスクの高い投資に使われることなく、準備金に簡単にアクセスできるようにするにはどうすれば良いか? などだ。
準備に1年
こうした問題を解決することは簡単ではない。つまり、日本でのステーブルコイン発行は、すぐではない。実際、ステーブルコインをはじめとするデジタル資産の発行・管理基盤を手がけるProgmatの代表取締役 Founder and CEOの齊藤達哉氏は日本初のステーブルコインの発行は、早くても2024年6月頃と述べている。改正資金決済法の施行から、ライセンス要件を満たし、規制当局の承認を得るまでには少なくとも1年はかかるということだ。
9月、Binance Japan(世界最大の暗号資産取引所バイナンスの日本法人)と三菱UFJ信託銀行は、Progmatのステーブルコイン発行・管理基盤「Progmat Coin(プログラマコイン)」を活用したステーブルコイン発行に向けた共同検討の開始を発表した。
参考記事:Binance Japanと三菱UFJ信託銀行、2024年中のステーブルコイン発行を目指す──「Progmat Coin(プログマコイン)」基盤を活用
齊藤氏は米CoinDeskに対して、日本でのステーブルコイン発行を検討している10のプロジェクトと話を進めていると語った。10プロジェクトすべてが、ドル連動型と円連動型の2つのステーブルコイン発行を検討しているという。さらに10のうち、いくつかは海外企業。ただし、同氏によると、これらのプロジェクトはいずれも正式にはライセンス手続きを開始していない。まだ検討段階だ。
ステーブルコインの上場を希望する暗号資産取引所も同様に新たなライセンスを申請しなければならないが、正式に手続きを開始したところはないという。齊藤氏は「取引所もまだ準備中」と語る。
海外事業者への高いハードルと解決策
時価総額2位のステーブルコイン「USDコイン(USDC)」を手がける米サークル(Circle)も日本市場を視野に入れていると公言している。
現在、日本でステーブルコインを発行できるのは、銀行、信託会社、資金移動業者のみ。銀行預金型、信託型、資金移動型などと呼ばれる。つまり、ステーブルコイン発行者は、日本国内で銀行業免許を取得したり、信託会社を設立したり、資金移動業に登録しなければならない。いずれもお金を扱うだけに、厳しい要件があり、海外のステーブルコイン発行者にとっては、きわめて高いハードルだ。
しかし齊藤氏によると、日本の規制をクリアできる、現実的な方法があるという。つまり、日本の信託銀行と提携することで、自社ブランドのステーブルコインを発行できるという。準備金の日本国内での保管と管理も信託銀行に委託することができる。
ビジネスの課題
だが忘れてはならないことは、日本の規制には、ステーブルコインの裏付け資産(準備金)を保護する厳しい規定があることだ。信託銀行と提携して、ステーブルコインを発行する場合(現状、日本でステーブルコインを発行する際の最も一般的な方法となると想定される)、「ステーブルコインの裏付け資産となる法定通貨(例えば、ドルや円)は100%日本国内の信託に保管されなければならず、運用先は日本国内の銀行預金に限られる」とアンダーソン・毛利・友常法律事務所のパートナー、波多野恵亮氏は語った。
この要件は裏付け資産の安全性を確保するためにはプラスかもしれないが、ステーブルコイン発行者にとっては収益をあげることが難しくなる可能性がある。
「円連動型ステーブルコインにとっては、ここが問題。現在、日本の銀行預金の金利はきわめて低い(ほとんどの場合0.1%以下)」
波多野氏は、ドル連動型ステーブルコインの方がまだ条件は良いと指摘。
「ドルをすべて日本国内の銀行に預金する必要はあるが、ドル預金の方が金利が高い」
世界が注目する日本での進展
日本でステーブルコインに携わっている他の人たちも、発行者は現実的なビジネス上の課題に直面していると述べた。
「ステーブルコインは日本で成功するか? なんとも言えない」と、片岡・小林法律事務所のパートナー、佐野史明弁氏は述べる。
「裏付け資産(準備金)を投資することはできないし、もし、取引手数料が高すぎれば誰も利用しない。ではビジネスモデルは? コンプライアンスコストも高く、マネタイズの方法を見つけなければならない」
佐野氏は、新たな規制がビジネス上の課題をもたらす可能性がある点を他にもあげた。
例えば、資金移動型の仕組みで「取引所が海外のステーブルコインを扱う場合、1回の取引につき上限100万円という制限がある」。
「海外のステーブルコイン発行者が、信託を通して独自の発行スキームを構築した場合、そのような制限はない。しかしその場合、日本で発行されるステーブルコインは、グローバルに流通するステーブルコインとは異なるものになる。例えば、サークルがUSDCの代わりにUSDCJを発行するようなもの。同じ流動性を持ち得ないだろう」
セキュリティと収益性の適切なバランスを取ることは、まさにステーブルコイン規制の整備に時間がかかる理由のひとつであり、他のさまざまな法域でステーブルコイン規制がまだ法制化されていない理由のひとつでもある。
日本がリアルタイムでこうした課題を乗り越えていく様子は注目に値する。
|翻訳:CoinDesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:日本の古い紙幣(Dennis Elzinga/Wikimedia Commons, modified by CoinDesk)
|原文:How Japan Is Leading the Race to Regulate Stablecoins