【市場分析】ビットコイン、年初から2倍に:要因はETFへの期待感のみではない
  • ビットコインは今週、3万4000ドル(約510万円、1ドル=150円換算)を超えて上昇し、2022年の厳しい低迷の後、年初から106%上昇している。
  • 直近の急騰は、スポットETF承認の可能性をめぐる興奮が後押しした考えられているが、他の要因もあるのだろうか?
  • 供給の抑制、投資不足の市場参加者、問題を抱えた伝統的市場や地政学的混乱からのセーフヘイブン(安全な逃避先)としてビットコインが輝きを取り戻したことなどが検討する価値のある要因だ。

2つの誤報

ビットコイン(BTC)は先週、完全な誤報とわかったビットコインETF関連のニュースを受けて、モンスター級の上昇を見せた。

誤報と判明した後も、価格がほとんど下落していないことから、上昇を牽引しているのはETFへの期待ではないかもしれない。

振り返ると、ビットコインは数週間にわたり約2万7000ドル~2万8000ドルの狭いレンジで推移していたが、10日前、あるメディアがブラックロック(BlackRock)のビットコインETF申請が米証券取引委員会(SEC)の承認を得たとツイートした後、3万ドルを超えた。数分以内にツイートは誤りであったことが明らかになり、ビットコインはすぐに、その上昇分の一部(すべてではない)を失った。

そして今週、一部の観測筋は、ブラックロックのビットコインETFのティッカーがアメリカの証券清算・決済機関DTCC(デポジトリー・トラスト・アンド・クリアリング・コーポレーション)のWebサイトに掲載されていることに気づいた。

市場参加者はこのニュースを、SECによる承認が間近に迫っているサインと読み取った。この強気シグナルはショート投資家やディーラーの不意を突き、23日夕方には価格は3万5000ドルまで急騰した。

しかし、翌24日夕方には、ティッカーは数カ月前から掲載されており、ビットコインETFの承認に関して、何の意味を持たないことが明らかになった。

だが、ビットコイン価格は23日の高値にきわめて近い水準にとどまり、当記事執筆時点の3万4400ドルは過去10日間で30%近く、年初からでは100%以上の上昇率となっている。

ETFでないとしたら?

一部のアナリストは、増え続ける政府支出とそれに伴う債務残高の増加、不安定な株式市場や債券市場、そして暗号資産の供給がますます抑制されていることを指摘し、ビットコインにはセーフヘイブン資産として需要があると主張している。

デジタル資産ヘッジファンドのカプリオール・インベストメンツ(Capriole Investments)創業者チャールズ・エドワーズ(Charles Edwards)氏は「現在、世界最大の資産運用会社が法定通貨の価値が下がり、世界的な緊張と戦争が激化するなか、ビットコインを『クオリティへの逃避』とアピールしている。これ以上は望めないだろう」と語った。

「2022年、多くの人がデジタル資産は株式や債券と相関関係にあると騙された後、多くの人が『新しい』オールドノーマル(旧常態)という状況に困惑している」と暗号資産に特化した資産運用会社アルカ(Arca)の最高投資責任者ジェフ・ドーマン(Jeff Dorman)氏は指摘。

さらに「債務スパイラルは、銀行や政府に対する信頼の喪失と、記録的な供給量の中でのリスクフリーレートの再評価につながる。これは債券や株式評価モデルには不利だが、代替的な富や通貨の創造には好都合だ」と続けた。

ヘッジファンド界の大物ポール・チューダー・ジョーンズ(Paul Tudor Jones)氏は、地政学的リスクと「手に負えない」米国債務水準が株式の保有を困難にするとしたうえで、ゴールドとビットコインを魅力的な投資オプションとしてアピールした。

株式60%/債券40%という伝統的なポートフォリオが最悪期を迎えている今、ビットコインのような伝統的資産と相関性を持たない資産は分散投資の有力な候補になり得ると、デジタル資産ブローカレッジのK33リサーチ(K33 Research)およびデジタル資産運用会社コインシェアーズ(CoinShares)はそれぞれ主張している。

アメリカと中国の銀行危機

3月、シリコンバレー銀行やシグネチャーバンクなどが破綻したアメリカの地方銀行危機の際、ビットコインは2万ドルから約2万8000ドルまで急騰した。

スイスを拠点とする投資運用会社21シェアーズ(21Shares)は先週のレポートで、中国のシャドーバンキング(影の銀行)システムにおける最近の危機も同様にビットコインを後押しした可能性があると指摘した。

同レポートでは、中国の不動産大手、恒大集団(エバーグランデ)と融創中国(サナック)の破綻を受けて、中国人民銀行は今月、銀行システムの流動性を補強するため、過去3年間で最大となる1000億ドル以上相当を貸出ファシリティに注入したと説明されている。

中国人民銀行が2020年1月、中国経済への1150億ドルの資本増強に相当する、金融機関向けの預金準備率を引き下げるという介入を行った際、BTCは13%上昇し、アクティブなビットコインアドレスは48%増加したとレポートは指摘している。

長期債の利回りが5%近くまで急上昇するなかで一部の銀行は巨額の債券含み損を抱えており、米銀行システムの健全性に対する懸念を煽っている。

実際、バンク・オブ・アメリカは先週、満期保有目的(HTM)ポートフォリオで第3四半期に1310億ドルの損失を計上した。株式市場の投資家はこれに注目し、同行の株価はその後、約8%、年初からでは24%下落した。

21シェアーズのアナリストは「銀行危機はしばしば人々をクオリティへの逃避としてのビットコインに頼るように促し、進展するマクロ経済の影響と地政学的状況におけるヘッジとしての暗号資産のユースケースを強化している」と指摘した。

ビットコインETFはまだ大きな要因となり得る

ビットコイン現物ETF承認の可能性が高いにもかかわらず、多くの市場参加者はビットコイン価格が上昇する可能性に関して行動を起こさずにいた、と暗号資産運用会社ギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)のリサーチ責任者アレックス・ソーン(Alex Thorn)氏は語る。

ソーン氏は24日、「多くの人は上昇に対するポジショニングが甘かった」と語った。

今週の急騰でオプションディーラーは不意を突かれ、上昇の爆発力を助長したとソーン氏は今週初めに指摘。歴史的に流動性の低い市場であり、長期投資家が保有するビットコインの量が過去最高であったことが供給ショックのベースを築いたと同氏は付け加えた。

最後にアクティブだったのが1年以上前と5年以上前だったBTCの数(Galaxy Digital、Glassnodeのデータを使用)

グラスノード(Glassnode)のデータによると、ビットコインの供給量の約70%が1年間動いておらず、30%は5年間、保有者が変わっていない。

「我々は皆、デジタル資産に対する投資家の投資不足と、価格に大きな変動をもたらすために必要な新規資金の額がいかに少ないかを過小評価していた」とアルカのドーマン氏は語った。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:CoinDesk
|原文:Bitcoin Is Up 100% This Year. It’s Not Just Because of Spot BTC ETF Hype