「理解しないことで給料をもらっている人に、理解させることは難しい」──これは、小説家アプトン・シンクレア(Upton Sinclair)の有名な言葉だ。
同じことが、パレスチナの武装集団ハマスの攻撃は、暗号資産(仮想通貨)による寄付で賄われているという考えを主張し続ける人にも言える。
都合の良い嘘
はっきり言ってしまおう。嘘の方が都合が良いので、彼らは真実を受け入れない。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は先週、ハマスに関連した武装集団が数千万ドル相当の暗号資産を受け取り、その資金が現在の中東での戦争を支援するために使われていると報じた。
チェイナリシス(Chainalysis)やエリプティック(Elliptic)などのブロックチェーン分析企業はその後、この報道に反論し、資金提供は数千ドルの範囲だろうと述べた。
しかし、この反論でウォール・ストリート・ジャーナル紙が訂正することはなく、エリザベス・ウォーレン上院議員やシェロッド・ブラウン上院議員をはじめとする有名議員たちが、暗号資産の取り締まりを推進し続けることを止めることはできなかった。
上院銀行委員会を率いるブラウン議員は10月26日、暗号資産を含むテロ資金供与に対する追加的な行動を求めた。そしていまや、多くの議員が、暗号資産は存在するだけで人を殺したり傷つけたりする人間に恩恵を与えていると、信じようとしているようだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道を受けて、102人の議員が米財務省に書簡を送り、暗号資産がテロ資金に使われることを防ぐために何が行われているのかについての情報を要求した。
政策決定を左右する報道
「インパクト・ジャーナリズム」とはこのことだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道は、その主張を支えるデータが明らかに間違っているにもかかわらず、暗号資産を取り締まろうとする議会のうねりを生み出した。
自社のデータがウォール・ストリート・ジャーナル紙に誤って解釈されたエリプティックは「公に最も知られた暗号資産による資金調達キャンペーンは、親ハマスの報道機関Gaza Nowによって運営されている」と述べている。その金額は2万1000ドルに過ぎず、当局によって大部分が凍結されているようだ。
so just to recap
— nic 🌠 carter (@nic__carter) 2023年10月25日
– WSJ journalists (Angus Berwick & Ian Talley) write a flurry of articles citing Elliptic data claiming that PIJ (Hamas affiliate) raised $93m in crypto (and cites BitOK claiming Hamas raised $41m) [1]
– Sen Warren uses this article to claim that Hamas raised…
要約すると
– ウォール・ストリート・ジャーナルのジャーナリスト(Angus Berwick & Ian Talley)がエリプティックのデータを引用し、PIJ(ハマスの関連組織)が暗号資産で9300万ドルを調達したとする記事を相次いで発表(ハマスが4100万ドルを調達したとするBitOKの記事も引用)[1]
– ウォーレン上院議員はこの記事を使って、ハマスが資金を集めたと主張している… さらに表示
著名なベンチャーキャピタリストでCoinDeskのコラムニストであるニック・カーター(Nic Carter)氏は、暗号資産がハマスらに資金を提供しているという考えが定着しないよう、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に記事を撤回するよう求める動きを先導した。しかし、彼のキャンペーンは遅すぎたかもしれない。
仮にウォール・ストリート・ジャーナル紙が訂正したとしても、議会はすでにこの考え方に沿って動き出しており、このような文脈では、事実は無関係なものになりがちだ。暗号資産/議会/ハマスについての報道を何気なく追っている何十万人もの人々が今、事実ではないことを信じている。
メディアに反感を抱く暗号資産業界
こうしたことから、暗号資産業界の多くが中央集権的メディアに嫌気がさしていることは理解できる。彼らは長年にわたって、バランスの取れた報道を実現することに苦労し、明らかに個人的な思惑を持っているにもかかわらず、自分たちを真実の聖職者のように描くジャーナリストに反射的な反感を抱いている。
この業界を9年間取材してきたジャーナリストとして、このような反感的な態度は、ときとして受け入れがたいものだ。
私たちジャーナリストのほとんどは、正しい記事を書こうとベストを尽くしており、ひとまとめにされることはつらい。暗号資産業界の全員がサム・バンクマン-フリード氏でないように、すべてのジャーナリストが同じではない。
しかし、ハマスの資金調達のストーリーが展開されることを見ていると、事実誤認をする記者に嫌気がさしている暗号関係者に同情しないわけにはいかない。
エリプティックやチェイナリシスなど多くから誤りを指摘されたことを受けて、ウォール・ストリート・ジャーナル紙はすぐに報道を訂正することができた。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、それが最高レベルの政策決定に直接関係しているにもかかわらず、そうしないことを選択した。
これは大手メディアの間違いを示すものであり、シンクレアの格言の正しさを裏付けるものだ。ウォーレン議員やウォール・ストリート・ジャーナル紙などが、明らかに事実と異なる考え方を押し通す唯一の理由は、彼らが真実を知りたくないからだ。彼らの目標やエゴにとって不都合だから、嘘を売り続けている。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:dennizn / Shutterstock.com
|原文:The Hamas Funding Story Is Why Crypto Is Sick of the Mainstream Media