ビットコインETFがもたらす巨大なチャンスとは

ビットコイン(BTC)は、主権国家とつながりのないデジタルワールドの基軸通貨で、投資運用の観点から見ると、バランスの取れたポートフォリオをさらにユニークかつ安価に分散化し、リスク調整後の総リターンを向上させることができる。

ETF承認への険しい道のり

しかし、暗号資産(仮想通貨)の頂点にあるビットコインへのエクスポージャーを得る方法は数多く存在する一方で、長い間、ひとつの大きな穴、逆に言えば、ビットコインへのアクセスにおける至高の目標が存在していた。ビットコインETF(上場投資信託)だ。

アメリカにおけるビットコインETFへの道のりは長く険しいものになっている。ウィンクルボス兄弟が10年以上前に初めて承認を求めて以来、SECは10社以上からの30件を超える申請をすべて却下してきた。

しかし、運用資産残高9兆ドル(約1350兆円、1ドル150円換算)、世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)が6月にビットコインETFを申請し、グレイスケール(Grayscale)が過去の申請却下処分を取り消す裁判でSECに勝利し、最近ではビットコイン先物ETFとイーサリアム先物ETFが承認されるなど、ビットコインETF承認はかつてないほど現実に近づいているように思える。

実際、著名な業界アナリストは現在、2024年1月初旬までにビットコインETFが承認される可能性を90%と予想している。グレイスケールが手がけるGBTC(グレースケール・ビットコイン・トラスト)の純資産価値(NAV)に対するディスカウント率も年初の45%から13%へと縮小し、承認/転換に対する市場の予測可能性が一段と高くなっている。さらに、ビットコインは、ETF承認への期待を少なくともひとつの要因として、年初から110%も上昇している。

ではなぜ、それほどにインパクトが大きいのだろうか?

GBTCのNAVに対するディスカウント率の推移

アメリカの市場規模

アメリカの資本市場の規模が非常に大きいため、アメリカのビットコインETFは大きなチャンスと言える。SIFMA(米国証券業金融市場協会)の推計によると、アメリカは世界の債券資産と株式の時価総額の40%を占めている。さらに、アメリカでは総資産に対してETFが占める割合が他の地域よりも高く、株式・債券資産の7%となっている。一方、ヨーロッパは4%、アジア太平洋地域は2%だ。

つまり、アメリカのETF市場は7兆ドルにのぼり、ヨーロッパの1.5兆ドル、アジア太平洋の1.0兆ドルの数倍の規模を誇る。

別の見方をすれば、アメリカのブローカー・ディーラー、銀行、投資顧問が運用する資産は合計約50兆ドルにのぼり、運用資産会社やブローカーの資産のごく一部がビットコインETFに移行するだけでも大きな変化がもたらされる。

また、ブロックチェーン調査会社チェイナリシス(Chainalysis)の「Global Crypto Adoption Index(世界の暗号資産普及指数)」で4位にランクインするなど、アメリカの暗号資産普及率は高く、大きな投資につながることが予感できる。

アメリカ(左)、ヨーロッパ(中央)、アジア太平洋地域(右)におけるFICC:債券・為替・商品(赤)と株式(青)のETF市場規模(単位:兆ドル)

ETFの強み

アメリカのビットコインETFがこれほど大きな話題となるもうひとつの理由は、他の取引手段に対する優位性と、その結果、さらに大きな普及の可能性が高まるからだ。

現物、先物、OTC取引信託、私募ファンドなどと比較して、ETF(上場投資信託)は手数料/取引コスト、流動性、トラッキングエラー、運用の複雑さなどにおいてユニークな強みを持つ。さらに、ビットコインのカストディにまつわる煩わしさを軽減することは言うまでもない。

2021年後半からいくつかのビットコイン先物ETFが存在しているが、先物ベースのETFには、トラッキングエラー、税効率の悪さ、ロールコストなどの顕著な欠点があり、一般的に言えば、長期的には深刻なアンダーパフォーマンスにつながるため、ビットコインがポートフォリオにもたらすメリットをより良く活用するバイ・アンド・ホールド戦略よりも短期売買に適している。

端的に言えば、アメリカのビットコインETFは、ビットコインに正当性を与え、規制の不確実性を排除し(現在、多くのコンプライアンス部門はビットコイン取引を許可していない)、資産クラスとしてのビットコインに信用を与え、強力な監督と投資家保護を確保し、全体として便利で身近な投資手段となる。

さらに、アドバイザーの間で高く評価され、ほぼすべての主要な資産プラットフォームでその商品が販売されているブラックロックが提供する可能性があれば、投資マネジャーやアドバイザーが突然、投資に踏み切る理由も容易に理解できるだろう。

実際、Digital Asset Council of Financial Professionals(金融専門家のデジタル資産協議会)によると、現在、顧客にビットコインを推奨しているファイナンシャルアドバイザーはわずか12%に過ぎない。だが、アメリカでビットコインETFが利用可能になれば、77%が推奨する予定と答えている。

金ETFという先例

新しい資産クラスを扱う場合、資金流入とその結果としての価格への影響をめぐる予測は言うまでもなく難しいが、ETF導入と金市場への影響はおそらく最も良い比較対象となるだろう。

ビットコインと同様、金は(比較的)供給が固定されており、2004年後半にステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズが初の金ETFとしてSPDRゴールド・トラスト(GLD)を発売する以前は、金も投資家がアクセスすることは難しい商品だった。

しかし、SPDRゴールド・トラストはわずか3日で10億ドルを集め、当時の記録を更新。現在は約550億ドル規模となっている。

今日、金ETFは3200トン以上の金(約2000億ドル相当)を保有しており、これは全供給量の約1.5%に相当する。さまざまな条件が異なるため、ビットコインと金を単純に比較することはできないが、最初の金ETFが導入されて以来、金価格は4倍以上に上昇している。

さらに(流動性の問題はさておき)、ビットコインの時価総額は2004年当時の金のわずか27%であるため、ビットコインが新たに獲得する純投資額1ドルあたりの価格へのインパクトは金よりも大きいと想定できる。ETFは金市場を一変させたが、ビットコインにも同じことが起こるかもしれない。

ETFが保有する金(単位:トン、青)と金価格(赤)の推移

もちろん、ETFが集める資金や、その結果としての価格への影響は言うまでもなく、承認にはまだ決して確実ではない。

また、以前の強気相場と比較して相対的にセンチメントが落ち着いているためか、それとも承認を期待して価格がすでに上昇しているためか、あるいはイーサリアム先物ETFのデビューが冴えなかったためか、短期的な資金流入が期待外れとなる可能性は十分にあり、おそらくその可能性は高い。

しかし、アメリカの市場規模、ETFの優位性、そしてETFが金に与えた影響を考えると、世界はビットコインと暗号資産全体にとって、真にイノベーティブな瞬間を迎えようとしているのかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Sizing the Massive Spot Bitcoin ETF Opportunity