駆け引きしている──ニューヨーカーはSECと暗号資産の戦いをどう見ているか

米証券取引委員会(SEC)が暗号資産(仮想通貨)業界に対して続けている消耗戦は、税金の有効な使い方なのだろうか? 業界は何年も前から、規制当局による仲介を求めてきた。

SECのゲーリー・ゲンスラー委員長と、SEC執行部門の責任者ガービル・グレワル(Gurbir Grewal)氏は一貫して、SECの提訴は正当と主張している。

サンフランシスコを拠点とする取引所クラーケン(Kraken)に対する90ページに及ぶ訴状でグレワル氏は次のように述べた。

「我々は、クラーケンが証券取引法を遵守する代わりに、投資家から数億ドルを得るというビジネス上の決断を下したと考えている。この決断は、投資家の資金を危険にさらす利益相反が蔓延したビジネスモデルを生み出した」

SECには、安全かつ健全な方法で資本形成を促進し、情報開示を通じて金融の透明性を徹底することでアメリカの投資家を保護するという使命がある。では、実際に消費者はどう考えているのだろうか? 暗号資産は規制されるべきなのだろうか? SECの「執行による規制」という手法は有用なのだろうか?

市民に聞く

CoinDeskでは市民の意見を知るために、ニューヨーク市近郊に住む市民を対象にアンケートを実施した。回答は過去数年間、暗号資産のニュースは、詐欺事件や破産申請、価格下落が中心だったことを考えても、まちまちだった。

例えば、エマ・サンチェスさんは暗号資産そのものについては態度を決めかねていたが、少なくとも一般的には「規制は良いことだ」と考えていた。一方、ジェイソン・Dさんは、暗号資産は既存の金融業者との競争であり、規制当局が暗号資産に対してこれほど攻撃的なアプローチをとっている理由は明らかに「嫉妬だ」と答えた。

正直なところ、クラーケンに対するSECの訴訟や、それ以前にコインベース(Coinbase)やバイナンス(Binance)に対して行われた同様の措置について知っている人はほとんどいなかった。弁護士のマーク・Bさんは、勝てるとは思えない、あるいは追及する正当性があるとは思えない訴訟をSECが起こすことは考えにくいと述べた。

アメリカで最も長い歴史を持つ暗号資産取引所のひとつであるクラーケンは、顧客の資金を流用し、未登録の証券を上場し、独自のマーケットメイク部門とプロップデスク(自己勘定取引)部門を運営し、顧客を危険にさらしていたとして告発されている。SECの訴状によると、クラーケンは一時、330億ドル以上の顧客の暗号資産を保有していたという。

さらに、SECが引用した、2023年に監査法人が行った調査によると、同社は記録管理に問題があり、2020年から2021年にかけて利用者の資金に関する財務諸表に「重大な誤り」があり、「内部統制の不備」により、顧客資金を保管していた銀行口座が営業経費の支払いに使われることがあったという。

サンチェスさんは、クラーケンが無認可の取引所、ブローカー・ディーラー、清算機関として運営されていたという主張も含まれる告発の概要を聞いた後、「(告発は)良いことのように思える」と述べた。

訴訟には法的根拠があるのか?

同様の告発は、同じくサンフランシスコに拠点を置くコインベースと、バイナンスに対しても行われた。SECがクラーケンとコインベースという2つのアメリカ企業に対して同じ訴訟を起こすことに意味があるのかと問われたサンチェスさんは「犯罪は犯罪」と答えた。弁護士で、Web3のコンプライアンス・ソリューションを手がけるLexproofの創業者@Orlando_btcは、この動きを「2度目のチャンスとして利用している」と指摘し、適切な登録の重要性を叩き込む方法だと述べた。

しかしSECは循環論法とも言える形で、バイナンスとコインベースに対する自らの訴訟で「有価証券」とされたものを上場しているから、クラーケンも未登録の証券を上場していると述べていることを@Orlando_btcは指摘。この「自己参照的な主張は法的な効力を持たない」と付け加えた。これは「トークンがSECの管轄下にあるかどうかに訴訟の結果が左右される」ことを考えると、重要な点かもしれない。

しかし、SECが主張するように、本当に顧客に「重大な損失リスク」があったのだろうか? クラーケンは小規模ながら非常に信頼されている取引所だ。創業者で元CEOのジェシー・パウエル(Jesse Powell)氏は長い間、セルフカストディの支持者であり、顧客の資産を保管することは実際には同社にとってリスクと責任を意味すると繰り返し述べていた。

この訴訟に対して、クラーケンの担当者は、SECの訴訟と暗号資産全体に対する批判的な見解は「法的に正しくなく、事実認定において誤りであり、政策として壊滅的である」と述べ、クラーケンは法廷で「徹底的に抗弁する」計画であり、「法律は我々の味方だ」と主張した。

規制の妥当性の決め手

クラーケンは、専門家マルコ・サントーリ(Marco Santori)氏が率いる数十人の弁護士で構成される、暗号資産業界でも最も洗練された法務・コンプライアンス部門を誇っている。クラーケンは今年、トークンを集団プールに預けたユーザーに利回りを支払うという、「投資契約」に類似したステーキングプログラム(現在は廃止)をめぐってSECから提訴されたときには最終的にSECと和解した。

当時、パウエル氏は、ステーキングはリスクがないわけではないが、アメリカ市民が自分のお金で何をするか決定できるようにすべき明確な例だと主張した。クラーケンや、ステーキングプログラムの終了を余儀なくされた他の中央集権型取引所は、ユーザーが自力で行うにははるかに困難な取引の代替策を提供していた。

今にして思えば、クラーケンはこの戦いをすぐに諦めるべきではなかった。間違いなく、クラーケンには何のメリットもなかった。ステーキングは、一般市民に対して暗号資産が意味をなす、数少ないユースケースのひとつでもある。貯蓄口座のようなものだが、リターンはより良く、リスクもより高い。

タッカホーのアレックスさんは、暗号資産は「クールなものになる可能性がある」としながらも、暗号資産を「何か有益なことのために使おうとする人」の話ではなく、暗号資産を使って「きわめて短期的にお金を稼ごうとするデイトレーダー」の話しか聞いたことがないと述べた。しかし彼女は、SECのような機関が必ずしも干渉すべきだとは考えていない。

「いいえ、規制は無意味だと思う。規制する必要はないように思える。ゲームのようなものだと私は考えている」と、アレックスさんは語り、次のように続けた。

「究極的には、個人がつけ込まれているかどうかだと思う。つけ込まれているならば、訴えるなり、規制することが妥当だと思う。しかし、訴えている人たちも駆け引きをしているのだと思う」

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:rafapress / Shutterstock.com
|原文:‘They’re Playing a Game’: What New Yorkers Think of the SEC’s War Against Crypto