スペインの大手銀行、サンタンデール(Santander)は、銀行としては初めて、パブリック・ブロックチェーンを用いて債券発行に関する全ての業務を管理すると発表した。
同銀行は2千万ドル(約21億6,000万円)の債権発行にイーサリアム上のトークンを用いただけでなく、カストディ口座の現金に紐づく別のERC-20トークンで決済したことが明らかになった。
誰かにソーシャル・メディア(SNS)で質問をして、その答えがポストカードで郵送されるのを待つ事態を想像していただきたい。ブロックチェーン上で証券を発行する一方で、取引の決済にアナログで時代遅れのシステムを用いるのは、まるでそのようなことなのだ。しかしサンタンデールは、この例え話でいえば、両方の作業をデジタル化した。
これまでにも、世界銀行(World Bank)が類似のブロックチェーン債券を発行したが、それに用いられたのはイーサリアムのプライベート・ブロックチェーンだった。フランスの銀行、ソシエテ・ジェネラル(Societe Generale)は今年、イーサリアムのパブリック・ネットワークで債券を発行したが、現金については触れなかった。
トークン化した証券と現金のための暗号鍵の管理をサンタンデール・セキュリティ・サービス(Santander Security Services)が行うことも含め、全てのプロセスをデジタル化、自動化、オンチェーン化したのだから、サンタンデールは鼻高々であろう。
しかしながら、ソシエテ・ジェネラル(Societe Generale)の場合と同様、サンタンデールも自身にブロックチェーン債券を発行したため、外部の投資家は関与していない。
「これは革新的な一歩です」とサンタンデールのコーポレート・投資銀行でデジタル投資銀行業部門の部門長を務めるジョン・ウィーラン(John Whelan)氏はCoinDeskに語った。「流通市場はまだ出来ていませんが、その方向に動いています」
巨大銀行サンタンデール、どこまで仮想通貨とブロックチェーンに取り組むか
このプロジェクトを「実際のお金で行うパイロット版」だと表現するサンタンデールのファンディング部門の部門長、アントニオ・トリオ(Antonio Torío)氏は、1年満期、四半期ごとの利払い、標準金利1.98%のごく普通の債券取引だったと述べた。
「サンタンデールにとって、これは純粋に金融面の課題というより、断然に技術革新の課題という色彩が濃いです。我々は今回が、さらなる複雑な取引を行う前の重要な最初の一歩だと考えています」と同氏は述べた。
トークン化した現金は、「発行者が取引に同意し、証券の受渡しと資金の決済を同時に行うDVP(delivery versus payment)の指示を出し、ブロックチェーン上で実行されるまで、イーサリアムのパブリック・ブロックチェーン上のスマート・コントラクトの第三者預託(エスクロー)」で保管される、とウィーラン氏は述べた。
サンタンデールのカストディ・サービスは、ビットコイン(bitcoin)やイーサ(ether)のような本格的なデジタル資産も同等に保管することができるのか、との質問に対し同氏は、技術的には可能だが銀行の計画には入っていないと述べ、以下のように付け加えた:
「銀行として、我々は仮想通貨に直接的な興味は持っていません。根底では同じテクノロジーを使用しますが、我々も、我々のお客様も、従来のドル、ユーロ、ポンドなどに関心があり、そこが我々の居場所なのです。」
ブロックチェーン債券と、債券のデジタル化
サンタンデールは、(自らが出資する)ロンドン拠点のテクノロジー・プロバイダーであるニバウラ(Nivaura)に発行のデジタル化支援を依頼した。
ブロックチェーン債券を作成することは難しくなく、基本的にはスマート・コントラクトを用いて、認証された形式で情報を作成するだけだ、とニバウラのCEO、アバタル・セラ(Avtar Sehra)氏は指摘した。
「これは厳密には債券のデジタル化ではありません」と同氏は述べた。「本当のところ登録と決済のプロセスをデジタル化しているだけですし、決済のパートに至っては、ブロックチェーン上に現金を置いていないので、対処しているのは問題の半分に過ぎません」
ニバウラは、データを暗号化することで、発行に関連する全てのドキュメンテーションや交渉のデジタル化を可能にし、PDFをメールで送り合うようなこととは違って、各当事者は書類の特定部分しか見られないようにすることが可能となる。
「ここに、サンタンデールの取り組みが持つ主な意義が認められるのです」とセラ氏は述べた。「『すべてのプロセスをデジタル化しよう』とサンタンデールは言っています。もはや我々は債券の発行を旧態依然とした方法では行っていません。データを手動で不確かなやり方でブロックチェーンに入力し、それをトークン化する、そして現金でも同じことをする、だなんて、そんなのは無茶ですよ」
銀行業界はイーサリアムを信頼するのか
サンタンデールや他の銀行の取り組みからは、銀行界は少しずつ、しかし着実にイーサリアムを信頼する方向に変わってきているという結論を導き出すことができる。
この2番目に規模の大きなブロックチェーンが運用を開始してから約5年が経過したことを考えれば、これは驚くようなことではないのかもしれない。
ビットコインとイーサリアムはローンチ後、稼働率100%というユニークな特性を持つことを、ウィーラン氏は指摘する(この点について、同氏が思いつく限り地球上のコンピュータ・システムにおいて他に類を見ない)。
同氏は以下のように締めくくった:
「イーサリアムが単なるインターネットの一部であることが明らかになってきたと考えています」
翻訳:石田麻衣子
編集:T. Minamoto
写真:Shutterstock
原文:Santander Settles Both Sides of a $20 Million Bond Trade on Ethereum