ダーウィニズムがまもなく、ビットコイン(BTC)マイナーの一部を打ちのめすかもしれない。4年に一度起こる、新しいビットコインを生み出すマイニング報酬が50%カットされる半減期によって、来年4月に「適者生存」の戦いの幕が開くからだ。
半減期に備える
この破壊的なイベントに備えるため、大企業はより新しく効率的なマイニングマシンを確保している。しかし、半減期を生き残り、利益を得るにはどうすればよいかを考えるなかで、より小規模のマイナーを吸収することも考えるかもしれない。
ハッシュレート(ビットコインネットワークを運営するための演算能力)で最大の上場マイナーであるマラソン・デジタル(Marathon Digital)に聞いてみればわかる。同社は先週、現金とビットコインで8億ドル(約1160億円、1ドル145円換算)以上の資金を蓄えており、半減期に先駆けて「業界再編を含む戦略的機会を活用する」ために資金を増やしていくと述べた。
一方、こちらも大手マイナーのハット・エイト(Hut 8)は、非上場企業USビットコイン(US Bitcoin)との合併を完了したばかりだ。
マイナーのクリーンスパーク(CleanSpark)は、弱気市場が始まって以来、下落した暗号資産を買い集めており、「半減期がもたらすかもしれない機会を利用する」ために、約1億7000万ドル相当を確保していると述べた。
また、機関投資家グレードのマイナーであるライオット・プラットフォームズ(Riot Platforms)は、競争に勝ち残るため、2億9050万ドルで6万6560台の新しいマイニングマシンを発注したばかりだ。
熾烈な競争の舞台が整いつつある。
「半減期に至るまで、そしてその余波のなかでマイナーは戦略的なプランニングを重視する必要がある。『成長していないなら、死んでいる』という格言が当てはまる」とギャラクシー・マイニング(Galaxy Mining)の元代表で、業界向けコンサルティングサービス会社を立ち上げたアマンダ・ファビアーノ(Amanda Fabiano)氏は語った。
実際、マイニングコンサルタント会社のブロックブリッジ(Blocksbridge)によると、10を超える上場マイニング企業が2023年これまでに、すでに12億ドル以上に相当するマイニングマシン購入を約束しており、そのうち約7億5000万ドル分はこの2カ月で契約が結ばれたという。
何がなんでも成長
では、なぜこのような事態になったのか? そしてなぜマイナーたちは半減期に備えようと躍起になっているのか?
ビットコイン半減期は、簡単に言えば、新しいビットコインの入手やマイニングをより困難にする。半減期はビットコインのインフレ圧力を軽減するためのビットコインネットワークのコードにあらかじめ設定されたものであり、ビットコインブロックのマイニングに成功した場合の報酬が半分になる。
暗号資産(仮想通貨)に詳しくない人のためにわかりやすく説明しよう。金や石油のような有限の天然資源を地中から採掘することを考えてみてほしい。採掘すればするほど、残りの資源は少なくなり、資源の価値は上がるが、採掘コストも上がる。
これをビットコインと暗号資産マイニングに置き換えたものが半減期であり、需給サイクルが希少性主導の資産価値を生み出す典型的な例だ。ビットコインの生みの親、サトシ・ナカモトが信じていたことであり、実際、ビットコインは金よりも希少価値が高いかもしれない。
過去を振り返ると、半減期はビットコイン価格を飛躍的に上昇させ、投資家に莫大な富をもたらした。しかし、マイナーたちにとっては難しいイベントだ。
2020年の3回目の半減期では、ビットコインの価格は数カ月で約8500ドルから1万8000ドル近くまで上昇したが、ブロックのマイニングに成功した場合の報酬は12.5BTCから6.25BTCに引き下げられた。
次の半減期では、さらに3.125BTCに下がり、マイニングの競争は一層激しくなる。
以前の半減期では、大規模なマイナーはそれほど多くなく、上場しているマイナーはさらに少なかった。2021年の強気相場が始まるまでの間に、多くの企業がこのセクターに参入し、ピーク時には90%近い利益率を得た。ビットコイン価格が7万ドルに近づくにつれ、マイナーはますます利益をあげ、その多くはより速く成長するために出費を重ねて負債を抱えた。
伝統的な金融会社をはじめとする投資家は、マイナーの成長を促進するために現金を惜しみなく提供し、猛烈な支出と成長を奨励した。
2022年の弱気相場で、そのすべてが崩れ去った。採算は悪化し、いくつかの大手マイナーは破産を申請。資本市場へのアクセスは遮断された。現在も操業を続けているマイナーの多くは、かろうじて生き延びている状態で、次の強気相場が彼らを救ってくれることを待っている。
2023年のビットコイン価格の上昇は、主にアメリカの規制当局がブラックロック(BlackRock)などによるビットコインETF(上場投資信託)を承認するという楽観論に煽られたもので、マイナーは多少助けられている。
しかし、ビットコインネットワークのハッシュレートは史上最高を記録し(競争が激化している証拠)、ブロックのマイニング難易度も過去最高を記録、エネルギー価格の高騰、規制当局の厳しい監視、そして依然として枯渇した資本市場などマイニングの状況は依然として厳しい。
業界再編の波
急成長しすぎたマイナーは現在、資金繰りに苦しみ、希望の光を求めている。苦境にあえぐマイナーは、コスト削減、バランスシートの補強、資本増強を必要としており、これらはすべて、業界におけるM&Aのきっかけとなる可能性がある。
コスト削減は「マイニング業界に今後押し寄せる再編の大きな原動力となるだろう。役員報酬、保険料などの経費は、半減期後の環境における規模の経済から恩恵を受ける」とマイニングサービス会社ルクソール・テクノロジーズ(Luxor Technologies)のイーサン・ヴェラ(Ethan Vera)COOは語った。
M&Aにはさまざまな形があり、複雑になることもある。しかし、ヴェラ氏によれば、目立つかもしれないトレンドのひとつは、非上場マイナーと上場企業の合併だ。
「ビットコイン価格の勢いを受けて、非上場および上場マイニング企業の株主は、上場企業を通じてこのポジションの一部を清算する道を探すだろう。そのため、多くの非上場企業は、流動性へのアクセスを得るために、上場事業会社やシェルカンパニー(企業買収を目的としたペーパーカンパニー)と合併するはずだ」とヴェラ氏は述べた。
マイナーはおそらく、ハット・エイト(Hut 8)の合併を「強力なバランスシートと高い成長機会をあわせ持つ事業体を合併させるケーススタディとして利用するだろう」とヴェラ氏は付け加えた。
ファビアーノ氏も、どのような展開になるのかという質問に対して、同じように答えた。
「中堅・小規模マイナーは、コスト曲線の下限に位置することを優先すべきだ。市場に資本の制約があることを考えると、M&Aもひとつの道。一方、大規模マイナーは、ライバルと一線を画す成長ストーリーに集中すべきだ」
「弱肉強食」というジャングルの掟が、マイニング業界にも解き放たれようとしている。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin Halving Is Poised to Unleash Darwinism on Miners