あるゲームで入手したキャラクターは、ほかのゲームでは使えない。また、あるゲームで入手したアイテムは、同じアイテムなら価値が同じ──。
そんなこれまでのゲームでの“常識”を覆しつつあるのが、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)を利用したブロックチェーンゲームだ。
現在、世界ではブロックチェーンを用いたゲームが100以上ある(データサイト「Dapp Rader」より、24時間で1人以上のユーザーがいるゲーム。2019年9月24日現在)。さらにはゲームの垣根を超えてキャラクターが相互に使えるようになりつつある。ゲーム単体で楽しむだけでなく、あるゲームで育てたキャラで別のゲームを楽しめるようになるかもしれない。ブロックチェーンゲームは、新たなエコシステムを形成しつつある。
ブロックチェーンゲームとは──資産(アイテムやキャラ)がNFT
ブロックチェーンゲームとは、その名の通り、ブロックチェーン技術を使ったゲームのこと。キャラクターやアイテムの状態をブロックチェーンで管理するなど、ゲームの裏側にこの技術が使われている。
ブロックチェーンゲームで使われるキャラクターやアイテムなどの資産(アセット)は、ノン・ファンジブル・トークン(NFT)に位置づけられる。NFTとは、この記事で分類を示したとおり、「代替不可能なトークン」のことを指す。
デジタルの世界では、基本的にデータは複製可能だ。そのデジタルな世界で、一点ものの“実物”を生み出せるのがNFTだ。
ブロックチェーンゲームの代表格といえば、先述の記事でも紹介したデジタル猫の収集育成ゲーム「クリプトキティーズ」(Dapper Labs)だろう。このゲームでは、ユーザー(プレイヤー)が猫を取得し、育てるのだが、あるプレイヤーが育てた猫(デジタルコンテンツであり、アセット)と同じ猫は他に一匹も存在しない。代替不可能なノン・ファンジブル・トークンを活用しているので、固有の猫を存在させられる。
ゲーム大国・日本からも代表的なブロックチェーンゲームが生まれている。世界有数のユーザー数を誇る「マイクリプトヒーローズ(マイクリ)」(double.jump.tokyo)で、このほかにも固有の豚を収集・育成する「くりぷ豚」(GoodLuck3)などが人気を集めている。
以上のゲームでは、猫、ヒーロー、豚というデジタルアイテムをNFTとしている。
このほかにも、米大リーグ(MLB)が2018年に始めた「MLBチャンピオンシップ」では、野球選手のフィギュアを集め育てる。また米プロバスケットボール協会(NBA)も、バスケットボール選手を収集して対戦するゲーム「NBAトップショット」を2019年後半にも開始する。
またブロックチェーンゲームではなく、既存のVRゲームでブロックチェーンを活用してアイテムをNFT化する事例も登場している。よむネコ社のVRゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」で、同ゲームに登場するアイテムをNFTとして発行するという。
「有名なプレイヤーが使った剣」に高い価値?
NFTを活用していない従来のゲームでは、同じキャラクターやアイテムの間では差は生まれなかった。たとえば何か有名なRPGを思い出して欲しい。ゲーム内で何個も存在する武器などのアイテムは、他の同じ名前の武器と「価値は同じ」だったはずだ。
だがNFTなら、同じ名前のアイテムであっても価値に違いを生むことができ、ブロックチェーン上で売買、交換ができる。
たとえば剣やバットというアイテムではなく、「有名なゲームプレイヤーが戦いで使った剣」「野球ゲームの世界大会で優勝したときに使ったバット」であれば、高い価値を見出して欲しがるプレイヤーは多いだろう。
別々のゲームでNFTを相互活用
ブロックチェーンゲームが数多く生まれている中で、今度は「ゲーム間でアイテムやキャラクターを相互活用する動き」も生まれている。
これまでは“そのゲーム内でしか利用できなかった”アイテムやキャラクターが、“別のゲームで”活用できるようになる。
CryptoGamesが運営するブロックチェーン・カードゲーム「クリプトスペルズ」は前出のマイクリとの間で、一部のキャラクターを互いに利用できるようにしている。
あるゲームで取得したキャラクターであっても、ブロックチェーン上で管理されているため、他のゲームでも利用できるようになる。このことは、デジタルキャラクターを中心とした“エコシステム”が生まれる可能性を示唆している。
NFTの流通額は月12億円超
デジタルキャラクターやデジタルアイテムが流通する場も整い始めており、既にNFTの流通市場には、世界で月間約12億円超の流通額がある(メタップスアルファ「ブロックチェーン市場レポート」8月)。
特にマーケットプレイスとして有名なのは海外の「オープンシー(Opensea)」だが、日本からもBlockbaseの「バザー(bazaaar)」や、メタップスアルファの「ミーム(miime)」などが提供されている。
売買だけでなく、貸し出しも可能になりつつある。スマートコントラクト基盤のEOSではデジタルアイテムの貸し出しアプリが生まれている。複数のブロックチェーン間でのデジタルアイテムの移動も提案されている。
マーケットプレイスや貸し出しアプリの誕生は、NFTの流通の土台が整い始めていることを表していると言えるだろう。
金融庁は「仮想通貨に該当しない」との見解
NFTを活用したブロックチェーンゲームの市場規模は、これからも拡大が期待されている。
国内最大級のゲーム情報サイトGameWithは2019年7月、クリプトスペルズの運営会社への出資を明らかにした。同社はCoinDesk Japanに対し、「ブロックチェーンゲームの今後の拡大余地は大きい」と語った。
こうした新たなデジタル資産のやり取りが拡大するかどうかは、法令や規制官庁の見解に大きく左右される。とくにNFTはトークンの一種で、これが仮想通貨とみなされれば、ゲームの開発企業が参入に及び腰になる可能性もある。
しかし、見解を見るかぎり、金融庁の姿勢がNFT市場の拡大にとって直接の障害にはならないだろう。金融庁は9月3日、「ブロックチェーンに記録されたトレーディングカードやゲーム内アイテム等は…(中略)…(基本的には)仮想通貨には該当しない」と述べている。機能面に配慮すれば、トークンでも仮想通貨に当たらないとの見解が改めて示されたことになる。
ブロックチェーンゲームが拡大するための課題とは
ブロックチェーンゲームには、まだまだ乗り越えるべき課題がある。ゲームとしての面白さを追求することはもちろん、デジタルアイテムを保管するウォレットや必要な取引手数料などは大きな問題だ。
ブロックチェーンゲームを楽しむには、現在では事実上、仮想通貨を持っている必要がある。仮想通貨・暗号資産に触れたことのない人が気軽に始められる状況とは言いがたい。
ブロックチェーンゲームは多数生まれたなかで、既にサービスを終えたものもある。今後はそうした淘汰の過程も経ることになるだろう。
2018年の世界ゲームコンテンツ市場は前年比約2割増の13兆1774億円(『ファミ通ゲーム白書2019』)。同じゲームの枠内でしか使えなかったコンテンツが他のゲームでも使えるようになり、また育てたアイテムやキャラを売買・交換できるようになれば、市場規模は従来より大きくなる可能性もある。
NFTを活用したブロックチェーンゲームは、新たなエコシステムを生むと予感させるだけの、大きな可能性を秘めている。
文:小西雄志
編集:濱田 優
写真:Shutterstock