激動の2023年から、攻めに転じる2024年──bitFlyer Holdings代表取締役CEO 加納裕三氏【2024年始特集】

2024年、創業から10周年を迎えるbitFlyer。創業者の加納裕三氏は、日本の暗号資産・ブロックチェーンとともに歩んできた人物のひとり。2023年3月にbitFlyer Holdings代表取締役CEOに復帰し、再びbitFlyerグループの指揮を執ることになった加納氏に大きく揺れ動いた2023年を踏まえたうえで、2024年の暗号資産、日本の状況、さらに同社の取り組みについて聞いた。

激動の1年

──3月に社長に復帰し、多くの人を驚かせました。市場は「暗号資産の冬」と言われながらもビットコインは年初から2倍以上になり、一方で業界を見ると、バイナンスがマネーロンダリング対策違反で米当局に43億ドルという巨額の罰金を支払い、チャンポン・ジャオCEOが辞任しました。2023年をどのように振り返られますか。

加納:2023年はbitFlyerグループの指揮を再び執ることになり、私自身にとっても激動の1年になりました。引き続き課題はありますが、総じて良い1年にすることができました。代表に復帰してからの9カ月間は朝から晩まで会議で缶詰になり、社員と議論を交わし、前経営陣が残した多くの問題解決を最優先に対応しました。その結果、会社はかなり良い状態になり、2024年には反転攻勢をかけられる素地を整えることができたと思います。

バイナンスについては、米司法省の長官がバイナンスのマネーロンダリングに言及し、企業として米史上最大級の罰金を支払うことになるとの声明を発表しましたが、以前からバイナンスにはそうした懸念が指摘されていました。最終的に43億ドルという巨額の罰金を支払うことになったと報道されていますが、引き続き業界への影響の有無について慎重に状況を注視したいと思っています。

──FTXの崩壊から始まって、2023年は暗号資産業界に潜んでいたネガティブな勢力が一掃されたと考えてよいのでしょうか。

加納:まだすべてが排除されたわけではありません。ですが、いずれマーケットから退場することになるのではないでしょうか。間違いやミスとは言えない法令違反を何度も当局から指摘されても無視を続けているところはまだ存在していると思います。最終的に業界を巻き込むような事態が起きてしまったら、業界全体がまた冬の時代になってしまいかねません。国際的な問題として取り締まることができない現在のルールを悪用して、レギュラトリー・アービトラージ(規制を回避する行動)を行っているとも言えますので、このような状況は国際的に改善していく必要があるかと思います。

60倍の市場がビットコイン購入の原資に

──一方で、まもなくアメリカでビットコイン現物ETFが承認されるとの期待があり、4月頃にはビットコインの半減期も予想されています。ビットコイン価格は2023年末にかなり上昇しましたが、2024年はよりポジティブな展開になると考えてよいのでしょうか。

加納:ビットコイン現物ETFが承認されれば、非常にポジティブなことになると考えています。ビットコイン価格が具体的にどうなるかはわかりませんが、既存の株式市場は全世界で約100兆ドルくらいの規模があります。日本円にすると1.5京円です。

それに対して、暗号資産(仮想通貨)の時価総額は約1.7兆ドル、250兆円ぐらい。約60倍大きなマーケットが存在し、ETFというプロダクトを通じて資本が暗号資産の方に入ってきます。ビットコイン現物ETFを証券会社が組成するためには、まずビットコインを購入しなければなりません。言ってみれば、株式市場に流れ込んでいる巨額の資金がビットコインを購入する原資となるわけです。非常に大きなインパクトを与えると思います。

半減期に関しては、ビットコイン価格が上昇すると言われていますが、半減期の到来は、理論的には事前にわかっていることです。ビットコインは発行上限が2100万BTCと定められていますから、半減期は価格に織り込まれていると考えることができます。ただし、多くの人が半減期によってマーケットに流通する新しいビットコインの数が減り、価格が上昇すると考えたために、年末に向けて価格が上昇したと考えられます。

半減期を控えて、これまでと同じような現象になるのではないかと予想していますが、先ほど述べたようなレギュラトリー・アービトラージはまだ一掃されておらず、引き続き、グローバルで見ればレギュレーションが厳しくなっていく事態も想定できます。新たに逮捕者が出たり、罰金などが発生したときに、顧客資産が本当に守られるかどうかを心配しています。アメリカの規制当局の動き次第では、それほど楽観視できないのではないでしょうか。

──市場には冬が終わり、「雪解け」を迎えたという論調が出ています。

加納:雪解けは来ていると思います。雪は解けているけれど、雪が解けたからといって一本調子に上昇していくわけではなく、リスク要因はまだ存在していると考えています。

世界で最も先進的な規制

──少し広い視点で捉えると、日本はセキュリティ・トークン(デジタル証券)市場の成長、世界に先駆けたステーブルコイン法制の施行などがあり、規制の予測可能性でグローバルから注目されています。「1周遅れの先頭」などという声もありますが、今の日本の状況をどう捉えておられますか。

加納氏:「1周遅れの先頭」はその通りだと思います。2018年にコインチェックの流出事件があり、規制が非常に厳しくなりました。暗号資産取引所にとっては非常に厳しい環境になり、退場する企業も出ましたが、ここに来て厳しい規制が功を奏しました。具体的には、2022年11月にFTXが崩壊し、世界中の子会社が影響を受けましたが、FTX Japanの顧客は日本の厳しい規制のおかげで資産を守ることができたと報道されています。今回のバイナンスの件でも、日本の顧客資産はバイナンスジャパンへの移行が行われたことによって守られたとも言えるのではないでしょうか。日本のユーザーは金融庁の取り組みによって守られたと言っても過言ではありません。

日本の暗号資産取引所は多くのコストを投下して、厳しい規制を遵守し続けてきました。そして今、セキュリティが確保され、しっかりしたガバナンスが実現できている状態で次のステージに進もうとしています。それがステーブルコインであったり、IEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)の整備です。私は、ビットフライヤーUSAとビットフライヤーEUROPEも経営していますが、日本には日本ならではの規制があり、グローバルで見ても、本当に最も進んでいる先進的な規制だと思っています。

規制面で見ると、逆にアメリカやヨーロッパは1周遅れています。例えば、ステーブルコインをやっていいのか、いけないのか不明瞭です。NFTも日本は規制が明確になっているので、必要な条件を満たせば発行してよいとなります。

──税制改正も進み、第三者保有の暗号資産についても期末時価評価課税の対象外とすることが、自民党の2024年の税制改正大綱に盛り込まれ閣議決定されました。

加納:これはWeb3業界にとって大変うれしいニュースです。業界団体が一致団結して税制改正については日本政府へ要望を続けていますが、自由民主党のブロックチェーン推進議員連盟やweb3PTなどでご活躍されている先進的で理解のある国会議員の先生方のご尽力に深く感謝しています。私も、日本ブロックチェーン協会(JBA)の代表理事としてライフワーク的にロビー活動に力をいれています。2023年度の改正で、自社発行の暗号資産については期末時価評価課税の対象外となりましたが、他社発行の暗号資産を保有している場合は課税対象のままになっていました。

今回の税制改正が国会を経て実現すれば、ようやく車両の両輪が揃うことになります。例えばベンチャーキャピタルファンドや当社のような取引所、あるいはブロックチェーンのバリデーターが投資、あるいは何らかの貢献の報酬としてプロジェクトから暗号資産を受け取ることのハードルが下がります。現状だと、報酬として暗号資産を受け取った場合、課税対象となってしまって、むしろ負担が大きくなってしまうケースもありました。これが解消されることで、海外からの日本への投資も進むのではないでしょうか。

──国による規制整備はポジティブな影響をもたらしているのでしょうか

加納:間違いなくポジティブだと思います。大きな痛みを伴いましたが、規制が強化されガバナンスも整いました。日本の暗号資産取引所は金融機関として規制を受けていますから、堅牢なガバナンス体制を整え、厳しいAML/CFT(アンチマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策)を行っています。海外の取引所と比べるとはるかに取り組みが厳しい。日本に進出した海外企業が撤退してしまうケースが見られましたが、こうした要求に耐えられなかったのではないでしょうか。

UI/UXを刷新、攻めに転じる

──2024年、ビットフライヤーが注力して取り組むことは何でしょうか。

加納:当社の強みは「創業以来ハッキングゼロ」であることです。高いセキュリティレベルを実現し、お客様に信頼していただけるプラットフォームを提供していくことは、引き続き、注力していきます。

プロダクトの数も増やしていきますし、プロダクトのUI/UXの刷新も予定しています。お客様目線で改めて使いやすさを考えていきたいと考えています。また、もう公言していますが、IPOに向けても注力して日本のWeb3業界・暗号資産業界を盛り上げていきたいと思います。

──2024年はさまざまな変化が期待できますね。

加納:2023年は過去の負債を整理することに追われた面がありましたが、2024年は攻めに転じていきます。冬は明けたと思っていますし、日本が再び暗号資産の中心としてグローバルから認識される年になると思っています。また2024年は当社にとって創業から「10周年」にあたり、そのタイミングで第2次加納体制が本格的にスタートします。飛躍の年として攻めに転じて、お客様に本当に喜ばれるサービスを提供していきたいと思っています。

加納裕三
2014年、bitFlyerを共同創業。以降、暗号資産の国内の法改正に関する提言や自主規制ルールの策定などに尽力する。2018年、自主規制団体として一般社団法人日本仮想通貨交換業協会(現、日本暗号資産取引業協会:JVCEA)を発起人として設立。現在、bitFlyer Holdings代表取締役CEO、bitFlyer代表取締役、bitFlyer Blockchain代表取締役、bitFlyer USA, Inc.のDirectorを務めるほか、一般社団法人日本ブロックチェーン協会(JBA)代表理事を務める。

|文・編集:増田隆幸
|写真:小此木愛里