アメリカ金融大手ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)は、同社初のブロックチェーンプラットフォームで運用される、米ドルと連動したステーブルコインの開発を進めている。
「ウェルズ・ファーゴ・デジタル・キャッシュ(Wells Fargo Digital Cash)」と名付けられたこのトークン化されたドルは、まずは同社内の業務において社内決済用に試験運用される。
ウェルズ・ファーゴは2019年9月17日(現地時間)のプレスリリースで、今回のデジタルトークンは同社のグローバルネットワークにおいて、国境を超えた社内決済を可能にすると述べた。同社の国際拠点も、このトークンを利用してお互いに資金を移動させることができる。
銀行サービスがますますデジタル化していくなか、ウェルズ・ファーゴは「伝統的な国境に関する摩擦をより緩和することへの需要の高まりと、現在のテクノロジーはその実現に向けて自社を力強い立場に位置づける」と感じていると同社イノベーショングループの責任者、リサ・フレーザー(Lisa Frazer)氏は述べた。
ウェルズ・ファーゴは、同社独自のデジタル台帳技術(DLT)プラットフォームによって、「ほぼリアルタイム」に「基礎となる勘定科目、取引転記、突き合わせインフラに影響を与えることなく」資金を動かすことが可能になると述べた。
さらに同社の国際拠点が通常の業務時間外に資金を動かし、外部支払い仲介業者の必要性をなくし、そうした取り引きに関わる時間とコストを削減することを可能にする。
R3のテクノロジー
ウェルズ・ファーゴはCoinDeskに対して、同社のDLTは、R3のブロックチェーンテクノロジーの有料の企業向けバージョン「コルダ・エンタープライズ(Corda Enterprise)」上で構築されていると述べた。
「R3のコルダ・エンタープライズは、金融機関によって、金融機関のために設計されている。適切なデータの機密性コントロールを可能にし、銀行の取引量とスループットに応じてスケールし、ウェルズ・ファーゴの業界規制基準を満たす情報セキュリティデザインをサポートする分散型台帳ソリューション」と同社広報担当者のロジャー・カブレラ(Roger Cabrera)氏は述べた。
ウェルズ・ファーゴがテストしているものと、JPモルガン(JP Morgan)のJPMコインおよびその銀行間情報ネットワーク(Interbank Information Network:IIN)の間には、明らかに類似点が見られる。IINは最近、ネットワークに参加する300以上の銀行にドイツ銀行(Deutsche Bank)を加えた。
これは(ときに不都合な)相互運用性の問題を引き起こした。JPMの銀行間支払いシステムとコインは、イーサリアムのプライベートバージョンであるクォーラム(Quorum)上で構築されている。コルダとクォーラムには互換性はない。
この点について、カブレラ氏は次のように答えた。
「JPMコインとの関連で言うと、ウェルズ・ファーゴ・デジタル・キャッシュは、現在、金融サービス市場に登場してきている他のいかなるデジタルキャッシュソリューションと接続されていない、独自の社内DLTネットワーク上で運用される」
タイムライン
2020年に予定されている試験運用は、米ドルの送金から始まるが、他の通貨への拡大が見込まれている。最終的にウェルズ・ファーゴの世界中すべての支店へと拡大される予定。
フレーザー氏は次のように述べた。
「我々はDLTはさまざまな用途への利用が期待できると考えており、このテクノロジーを重要かつスケーラブルな方法で銀行業務に適用する大きな一歩を踏み出すことに我々は活気づいている。ウェルズ・ファーゴ・デジタル・キャッシュは、ウェルズ・ファーゴが世界中の複数の市場において、複数のアカウント間でのリアルタイムの金融取引を行うための障害を取り除く可能性を秘めている」
ウェルズ・ファーゴはこれまでにも、銀行業務プロトタイプや、コットン市場向け貿易金融プラットフォームなど、複数のブロックチェーンプロジェクトをローンチしてきた。同社はブロックチェーン金融スタートアップ「アクソニ(Axoni)」にも投資している。
社内決済に加えて、DLTプラットフォームを他の「複数の」用途に使うことを計画しているとウェルズ・ファーゴ述べた。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Wells Fargo image via Shutterstock
原文:Wells Fargo to Pilot Dollar-Linked Stablecoin for Internal Settlement