世界最大の流通量を誇るステーブルコイン「USDT」を発行するテザー(Tether)社は、十分な質と量の準備資産を保有しているのか?──業界で長年議論が続くこの話題を巡って、米証券会社の経営トップが発したコメントに注目が集まっている。
米証券会社キャンター・フィッツジェラルド(Cantor Fitzgerald)のハワード・ルトニック(Howard Lutnick)CEOは16日、USDTの裏付け資産は「十分」とブルームバーグTVの番組で発言した。
ウォール街の著名人による証明
これは、著名で影響力のあるウォール街の人物から出た発言であり、テザーにとっては強力な証明となる。ルトニックCEO率いるキャンター・フィッツジェラルドは、ウォール街で最も有名な債券取引会社の一つ。米国債のプライマリーディーラー25社のうちの1社であり、連邦準備制度との直接取引が可能だ。
テザー社は、時価総額950億ドル(約13兆7750億円、1ドル145円換算)を超え、世界で最も広く使用されているステーブルコインであるテザーの裏付けを行っていることで長い間注目されてきた。
ルトニック氏は、「私は彼らの資産の多くを管理している」とした上で、「私が見た限り、そして私たちは多くの仕事をしたが、彼らは持っていると自称するお金を持っている」と述べた。
ルトニックCEOの発言は、テザー社の最新の証明報告書に言及したものとみられる。この報告書では、9月30日時点で832億ドル(約12兆640億円)の負債に対して864億ドルの準備資産を保有していることが示された。
テザー社の準備資産の質が問題に
テザー社の準備資金の大部分をコマーシャルペーパーが占めている状態が何年も続き、一部のウォッチャーは懸念していた。しかし、最新の証明報告書によると、テザーの裏付け資産の大部分は世界で最も安全な資産の一つと考えられている米国債となっており、コマーシャルペーパーは保有していない。
それでも、業界はテザー社の保有する資産の質について完全に納得しているわけではない。直近では、信用格付け会社S&Pグローバル(S&P Global)がテザーに低い格付けを付けた。「テザーを裏付ける資産の質」だけでなく、「規制と監督、ガバナンス、透明性、流動性と償還可能性、実績などの他の分野の弱点」といった特性を判断してのことだが、それによって懸念が強まった。
テザーのユーザーは証明報告書よりも企業の正確な実態を明らかにすることができる公式監査が行われるのも待っている。
ルトニックCEOは以前、テザーのファンだと表明していた。キャンター・フィッツジェラルドは、テザー社の資金のカストディアンを務めている。
ステーブルコインの価値に言及
現在暗号資産(仮想通貨)ニュースでより注目を集める話題である、ビットコイン現物ETF(上場投資信託)の承認と上場についての質問をめぐっては、ルトニックCEOはアメリカ人にとってのビットコインとステーブルコインの本当の価値に疑問を投げかけ、暗号資産は投機として魅力的だが、アルゼンチンやベネズエラ、トルコなどの国の人々は、より本質的な理由で暗号資産を保有していると主張した。
ルトニックCEOは、「我々にとっては投機資産だが、アルゼンチン、ベネズエラ、トルコのような国にとっては、こうした暗号資産は重要であり、それらの国ではステーブルコインも重要だ」とし、「ドルを維持するための方法になっている」と説明した。
|翻訳・編集:林理南
|画像:World Economic Forum
|原文:Wall Street CEO on Tether Controversy: ‘They Have the Money’