ビットコインETFで、新たな権力闘争が始まる
  • ビットコイン現物ETF(上場投資信託)の登場は、ブラックロック(BlackRock)やゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)のような大手金融機関がビットコイン市場に参入したことを意味する。
  • ウォール街は、グリーンエネルギーを使ってマイニングされたビットコインや、違法な行為に関わっていないことが証明されたビットコインを優遇する可能性がある。
  • そうした動きは、2017年に始まった「ブロックサイズ戦争」のような、ビットコインの将来をめぐる争いを引き起こす可能性がある。

スイスで開催された世界経済フォーラム、いわゆる「ダボス会議」で、大手金融機関による暗号資産(仮想通貨)コミュニティが存在感を示したことは、この業界に内在する葛藤を浮き彫りにした。

一方では、ビジネス界に受け入れられたいという願望があり、もう一方では、ビジネス界と関わることで、暗号資産のディスラプティブで反抗的な精神が損なわれるのではないかとの懸念がある。

TradFi(伝統的金融)の台頭

2024年は伝統的金融(TradFi)が台頭する年になりそうで、その葛藤は特に顕著なようだ。米証券取引委員会(SEC)がビットコインETF(上場投資信託)を承認したことで、ブラックロックやフィデリティ(Fidelity)のような巨大資産運用会社や、ゴールドマン・サックスやJPモルガンのような巨大銀行がビットコイン市場に参加する舞台が整った。

問題は、これら金融機関の参加がビットコイン自体のパワーダイナミクスに影響を与えるかどうかだ。これらの規制を受けた大規模な金融機関が関与し始めることで、検閲への抵抗や分散化に高い価値を置く「ビットコイン・マキシマリスト(至上主義者)」や「ディジェン(全財産を賭けてしまうような恐れを知らない暗号資産トレーダー)」は、ビットコインに対する影響力が低下するのだろうか?

例えば、ブラックロック、ゴールドマン、JPモルガンは、再生可能エネルギーでマイニングされたコインや、特定されていない個人や組織と過去に接点のない「クリーン」なコインのみを購入すると主張するだろうか?

彼らのビットコインに対する需要は、そのような方針がマイナーを始めとする他の関係者の行動を大きく変え、ビットコインそのものの構造を変えてしまうほど大きなものだろうか?

見極めるにはまだ時間が足りない。もどかしい回答かもしれないが、この疑問をめぐる予測可能性の欠如は、ビットコインの非常に分散型で多様なエコシステム内の複雑なパワーダイナミクスに起因している。

その複雑さはビットコインの魅力の一部であり、長期的に見れば、ウォール街の大手金融機関がビットコインを大きく変えることはできないだろうと私が考える理由でもある。

ニューヨーク協定の前例

この点を考える際に参考になるのが、2017年のいわゆる「ブロックサイズ戦争」の結果だ。

当時、58の暗号資産企業が、各ブロックのメモリ容量を増やすビットコインのコアプログラムの「ハードフォーク」を支持するよう働きかけた。

このいわゆるニューヨーク協定は、ネットワークの遅延を減らし、それらの企業がより多くの取引を処理できるようにすることで、より多くの手数料を得ることを目指していた。

どのブロックをマイニングするかを選択するマイナーが、ソフトウェアの新バージョンが採用されるかどうかを決定する力を持っていたため、多くのマイニングプールがメモリ容量のアップを支持すると表明したことを受けて、多くの人はそれを既成事実化されたと考えた。

しかし、開発者とユーザーの中核的なグループは、ブロックチェーンの検証を行うノードを運営者にとって、データストレージのコストが上昇するという理由で、ブロックサイズを既存の2MB以上に増やすことに反対した。つまり、小規模な参加者を圧迫し、より中央集権的なネットワークにつながると主張した。

その代わりに、彼らはSegregated Witness(SegWit)と呼ばれる変更を提唱し、各取引に必要なデータ量を下げると同時に、ライトニング・ネットワークのようなレイヤー2ソリューションがオフチェーンで取引を処理し、オンチェーンでの手数料を最小限に抑えることを可能にしようとした。

彼らはいわゆるユーザー・アクティベート・ソフトフォーク(UASF)を開始し、ブロックサイズの拡大に反対する者は、それを支持するマイナーによってマイニングされたコインの受け入れをボイコットすることになった。

結局、容量アップ反対派が勝利した。この勝利は、ビットコイン・ネットワークの最終的な受益者であるユーザーが真のパワーを持つという考え方の勝利、そして小さき者の勝利として祝福された。

新たなクジラたち

「小さき者」がビットコインの方向性を決定し続けられるかどうかを疑問視する理由の1つは、ETF誕生後の新規参入者が非常に大量のビットコインを所有する可能性が高いことにある。

多くのアナリストが、ビットコインETFの需要は1000億ドル(約14兆8000億円、1ドル148円換算)に達する可能性があると推定している。もしそうなれば、当記事執筆時点で8000億ドル強のビットコインの時価総額の約8分の1を占めることになる。非常に大きいが、完全に支配的というわけではない。

しかし、ここでいわゆる休眠ビットコインを考えてみよう。5年以上移動していないビットコインの多くは、今後も移動しないと考えるのが妥当だ。熱狂的なホドラー(長期保有者)によって管理されているか、所有者が秘密鍵を紛失したかのいずれかだ。

グラスノード(Glassnode)によると、これらのコインは現在、時価総額の約30%を占めており、アクティブなビットコイン・エコシステムの規模を推定する際には考慮に入れる必要がある。

つまり、1000億ドル相当のETF需要は、約5810億ドルの「アクティブな」ビットコイン市場の17%に相当することになる。こうなると、大手金融機関が影響力を持つ可能性があるように見え始めてくる。大手金融機関が影響力を行使するようになれば、2017年のような「小さき者」の勝利はもはや難しくなるかもしれない。

とはいえ、ビットコインの大口保有者はウォール街だけではない。現在、1000BTC以上を保有するいわゆる「クジラ」アドレスは約1500あり、合計でビットコイン総供給量の約40%を支配している。その多くは、何年も長期保有を続けてきた真のビットコイン信奉者たちだ。

彼らはクジラたちの間で、あるいは自分が所有するアドレスの間でビットコインを移すことができ、そうすることで「小さき者」が勝利したときと同じような方法で、マイナーや他の参加者に対抗することができる。ビットコインの元祖大物たちはまだ影響力を持っているのだ。

ひとつ確かなことは、ビットコインの精神をめぐる戦いが勃発するとすれば、ブロックサイズ戦争が激戦であったように、きわめて厳しい戦いになるということだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:After the ETF: ​​Bitcoin’s Coming Power Struggle