仮想通貨や暗号資産について知ろうとすると、必ず登場する「トークン」。辞書を見ると、「証拠」「代用貨幣」などと定義されているが、仮想通貨の文脈では、ブロックチェーン上で発行された「仮想通貨」を指すことが多い。
仮想通貨を発行して資金を調達するICO(イニシャル・コイン・オファリング)のブームが過ぎ、最近ではSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)が注目されている。今後ブロックチェーンを基盤とした「分散型金融」が広がることも予想されており、トークン活用の重要性はビジネス、金融においてますます高まるだろう。
そこで「トークンとは何か、一体どのようなものなのか」について、一つの分類方法から確認しておこう。
他のトークンと「代替可能か」で3種に分類
JPモルガン・チェースやマイクロソフト、アクセンチュアなども加盟するイーサリアム企業連合(EEA)が2019年、ブロックチェーン基盤のトークン分類法を確立するために「トークン分類イニシアチブ」を発足させた。
イニシアチブによれば、トークンは以下の3種に分類される。分類のポイントは「同じ種別の他のトークンと代替できるかどうか」ということだ。
- ファンジブル・トークン(FT)──代替できるトークン
- ノン・ファンジブル・トークン(NFT)──代替できないトークン
- ハイブリッド・トークン(HT)──上述2つの中間に位置するトークン
ここからは対象を「トークン」に限らず、「代替できる」とはどういうことかということをおさえておこう。
ファンジブルとは──「ビットコイン」「現金」など代替可能なもの
ファンジブルとは“代替可能な”ことを表す。ファンジブル・トークンとはつまり、同じトークンであれば、他のトークンと取り替えても価値は変わらないということだ。
ファンジブルな資産の一例が「現金(キャッシュ)」だ。ある1万円札は、他の1万円札と同じ価値を持つ。自分が持っている1万円札を、誰かの1万円札と交換しても、「1万円」の価値は同じで、同じように1万円札として使うことができる。
仮想通貨はどうだろうか。「ビットコイン」などの仮想通貨もブロックチェーンを基盤としたファンジブル・トークンといえる。なぜなら1ビットコイン(BTC)は、他人が持つ1BTCと交換しても、価値は同じ1BTCと同じだからだ。
ノン・ファンジブルとは──「絵画」など代替不可なもの
ファンジブルが“代替可能”であることから分かるとおり、ノン・ファンジブルとは“代替不可能な”ことを意味する。ノン・ファンジブル・トークンは、同じ価値を表すほかのトークンが存在しないものを指す。つまり代替がきかないトークンということだ。
例えばある画家の直筆の「絵画」。まったく同一のものは存在せず、他のもので代替できない。絵画の場合、そもそも複製ができないので代替しようにも「同じトークン」が存在しないが、基本的に複製が可能な「デジタルコンテンツ」ではどうかというと、ノン・ファンジブル・トークンの例は存在する。
その代表的な例が、デジタル猫の収集育成ゲーム「クリプトキティーズ」だ。ユーザー(プレイヤー)が猫を取得し、育てるこのゲームでは、同じゲーム内で使えるデジタルコンテンツ(デジタル情報)である猫はユニーク(一意の、固有の)であり、他に同じ猫は存在しない。
このゲームでは、固有の猫を表現するために、代替不可能なノン・ファンジブル・トークンを活用している。一部の猫は時価1000万円を超える値段で取引されたことも話題になった。
ハイブリッドとは──代替可能でも不可能でもある「中間」に位置するもの
ハイブリッドとは、代替可能でもあり不可能でもあるもので、ファンジブルとノン・ファンジブルの中間に位置するものと言われる。ハイブリッド・トークンはセミ・ファンジブル・トークンとも呼ばれる。
例として挙げられるのがコンサートのチケットだ。席の一つひとつには固有の番号が付いており、座席は区画に分かれているため代替性を持たないが、コンサートのチケットとしては代替可能性をもつ。
またゲームで使われる同じ武器のアイテムが1000個あった場合、1000個の武器はそのどれもが武器としての性能は同じだ。この意味ではファンジブルだ。
しかし、その武器にシリアルナンバーが振ってある場合、ゲームプレイヤーの中には「シリアルナンバー1番」の武器に、ほかの999個にはない価値を見出すコレクターがいるかもしれない。その人にとっては、シリアルナンバー1番の武器はノン・ファンジブルといえる。
技術的には非代替トークンだが、ユーザーからすれば代替可能でもあるので、ハイブリッドと整理される。
さらに新たな分類方法も登場
代替可能かどうか、という観点から見れば、トークンは以上のように3つに分類できる。またこれとは別に、代替不可能なトークンを“分割”する方式(リ・ファンジブル・トークン)など、新たなトークンの試みもある。単純な分類ではなく、トークンの運用実態を見て整理することも必要になる。
今後、分散型金融が広がり、STOの事例も増えていくことが予想されるなかで、「トークンとは何か」ということへの理解は欠かせない。
文:小西雄志
編集:濱田 優
写真:Shutterstock