暗号資産(仮想通貨)の自動両替機を展開するガイアが、能登半島地震を受け、1月11日に暗号資産での寄付金募集を開始した。ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、カルダノ(ADA)のほか、日本円での寄付も受け付けている。集まった暗号資産は、被災地の状況に応じて、寄付金または必要物資に換えて直接支援される流れだ。暗号資産での寄付金募集にはどういう思いがあるのか。また、ガイアは国内で唯一の暗号資産自動両替機「BTM」の運営でも知られるが、今後、個人の暗号資産の活用は進むのか。ガイア代表取締役の小倉基宏氏に聞いた。
──暗号資産での寄付金募集を始めた背景とは。
阪神淡路大震災や東日本大震災のときもそうだったが、震災直後にはまず赤十字が立ち上がる。それから県や行政機関によるさまざまな寄付プロジェクトが始まるが、被災者に寄付金がいつ、どこに、どのような形で届くのかが非常に分かりづらいことが、まず問題意識としてあった。
例えば、東日本大震災が起きた当初は我々も寄付金を募ったものの、集まった寄付金は一般社団法人が独断で現場に寄付していたことがある。震災による津波で壊滅的な被害を受けた宮城県石巻市の幼稚園や保育園に対して文具を寄付したり、心のケアとしてケーキを出したり、服やおもちゃを購入するための資金を支援したりしていた。その一方で、こうした取り組みは、ごく一部の人にしか喜びを届けることができず、平等からかけ離れていると感じていた。確かに、赤十字や行政機関は、預かった寄付金をいかに平等に配分するかを決める責任がある。ただ、平等の定義は非常に難しいことから、実際の支援まで時間がかかってしまうことを今後の教訓として生かしたいと思っていた。
我々は資産交換業者として、現金だけでなく暗号資産での寄付を受けることで、迅速かつ透明性の高い寄付が実現する。完全な平等には届かないかもしれないが、通常の寄付行為ではカバーしきれない部分を少しでも支援したいという思いで寄付のプロジェクトを立ち上げた。
──暗号資産は法定通貨での寄付よりも簡単にできる利点がある。
暗号資産と寄付の相性は抜群に良い。特に海外からの送金を考えたときに、海外から赤十字への現金の寄付は非常に煩雑だが、暗号資産であれば簡単に行える。弊社には、1月18日の時点で約167万円分の寄付が集まっている。件数的にはまだまだ少ないが、数カ月で寄付活動を止めるつもりはない。長いスパンをかけて、暗号資産がこういう場面でも役に立つという理解を世の中に広めていきたい。また、寄付金額は弊社ウェブサイト(https://tasukeaino.network/)で誰でも確認できるようにしている。ほぼリアルタイムで更新しており、暗号資産取り扱いの可視化にも力を入れている。
──2022年に暗号資産自動両替機「BTM」の運営を開始した。2023年は暗号資産市場が落ち込んだ時期でもあったが。
2023年は市場が冷え込んだこともあり、BTMの取引量は芳しくはなかった。ただ、潜在的な利用者の考えや市場調査ができた年になったと思う。依然として、多くの人が暗号資産を投機目的として捉えていることに加え、やはり税金の問題を気にする人が多いことが、暗号資産ひいてはBTMの利用拡大を阻んでいるように思う。例えば、暗号資産を換金すると、その半分を税金として徴収されるなどといった誤ったイメージが定着している。これが元で、BTMの利用で税金を取られると感じている人も多い。暗号資産交換業者としては、暗号資産のリスクを伝えることも責務ではあるが、ネガティブなイメージを払しょくし、暗号資産の活用方法をいかに定着させるのかが課題であると考える。
──ガイアが暗号資産交換業者として果たす役割は何か。
弊社は「暗号資産を投資から日常に」をビジョンに掲げている。今、ビットコインを持つ理由としては、ほとんどの人が利益を目的にしていると思う。我々は暗号資産を投機目的ではなく、日常生活で使えるようにしていきたい。暗号資産がまずは「通貨」として注目された以上、通貨として日常に取り入れたいという目標は最初から変わっていない。
──日常での暗号資産の利用促進に向け、2024年の意気込みは。
金融サービスを利用する事業者の目線ではなく、顧客の目線で、暗号資産を日常の経済活動と直結できるような年にしたい。例えば、ネット銀行の受け入れが進んだ背景には、コンビ二ATMを介して現金を入金・出金できるという「いつでもお金に換えられる安心感」があってこそ成り立ったものだと思っている。実際、日常生活の中で現金を入金・出金する機会は減っており、「現金は必要ない」という声もある。しかし私は、現金は必要なくても、いつでも現金に換えることができるという安心感があるからこそ、キャッシュレス化は進んでいくと考えている。
そういった意味では、ビットコインをはじめとする暗号資産も、いつでも現金に換金できるという安心・安全の担保をしなければ、いつまでも投資目的で終わってしまう。暗号資産が投資から日常へフィールドを広げるためには、その安心感を提供することが必要であり、我々がその役目の一端を担うきっかけになれば良いと考えている。
──具体的な施策にはどういったものがあるのか。
「BTM」の設置・運営を自社だけで行うことは非常に大きなコストがかかる。そこで、今後は金融機関などが運営するATMとの提携も考えている。ATMという大きなプラットフォームに暗号資産を取り扱う機能を追加することができれば、利便性の向上、利用エリアの拡大も一気に進むのではないかと考えている。この提携がうまくいけば、今人気のQRコード決済に代わるプラットフォームにもなり得るほか、海外からのインバウンドが増加する中で生じている課題への新たな解決策となる可能性も大いにあるだろう。
|文・編集:水野公樹
|画像:ガイアの寄付金募集ページ(キャプチャ)