ニューヨーク・タイムズはまだビットコインを理解していない

ニューヨーク・タイムズの金融コラムニスト、ジェフ・ソマー(Jeff Sommer)氏はビットコイン(BTC)ETFが好きではないようだ。だが、笑い者になるのは彼だ。他の人たちは皆、好きなようだから。

ビットコインETFはすくなくとも取引開始後3日間で、約19億ドル(約2810億円、1ドル148円換算)を集めた。最も強気な予想では、年末までに最大1000億ドルがビットコインETFに流入すると見られている。

これは、2021年に3日間で12億ドルの資金流入を達成した、ビットコイン先物ベースの金融商品、プロシェアーズ・ビットコイン・ストラテジーETFを上回る大きな需要だとロイターは報じた。

「FOMO」の産物として一蹴

ブラックロック(BlackRock)、フィデリティ(Fidelity)、フランクリン・テンプルトン(Franklin Templeton)など、複数の金融大手がビットコインETFにに乗り出し、現在ではイーサリアム(ETH)ETFも検討している。しかし、ソマー氏は、これらすべてを無意味なものと考えて構わないと思っているようだ。

「FOMO(機会を逃すことへの恐怖:Fear of Missing Out)が、ビットコインに資金を投じる主な理由だ。ビットコインは依然として投機性が高く、定義が困難で、すぐに特定できる経済的機能を持たない」とソマー氏はニュースレター「Strategies」で主張し、米証券取引委員会(SEC)のアンチFOMOな姿勢に言及している。

FOMOが暗号資産投資の一面であることは確かだ。例えば、BONKやdogwifhatのような、投機以外に経済的機能をほとんど持たないミームコインの高値を追いかけるトレーダーの主な原動力はFOMOだ。

しかし、ビットコインを単に時価総額8000億ドルを擁するギャンブルと見なすことは自ら進んで誤解を招くことになる。

暗号資産懐疑論者から嘲笑されたり、排斥されたりすることを恐れているからといって、個人的にビットコイナーが信じていることを信じる必要はない。

確かにソマー氏は、ビットコインの背後にあるテクノロジー、つまりビットコインのテクノロジーには次の通り敬意を示した。

「ビットコインは、その根本的な構造という点では重大な提案だ。ブロックチェーンの使用、分散型のピアツーピアの構造、複雑な数学的コードには敬意が求められる。ビットコインや他のいわゆる暗号資産に組み込まれているコンセプトは、どこかの時点で現実世界でも重要な意味を持つ可能性がある……」

ソマー氏の完全に独創的で斬新な意見は、これだけにとどまらない。ソマー氏はまた、暗号資産(クリプトカレンシー:cryptocurrency)はいつかどこかで「現実世界」での有用性を持つかもしれないにもかかわらず、本当の意味での「カレンシー」ではないため、誤った呼称だと主張した。そして、金(ゴールド)には歴史的な実績があるため、ビットコインと金の比較は間違っているとも述べた。

つまりは、サトシ・ナカモトがかつて言ったように、「もしあなたが私を信じないなら、あるいは理解できないなら、申し訳ないがあなたを説得する時間はない」ということだ。

今となっては、暗号資産が勝利を収めるたびにベテランジャーナリストが繰り広げるような、うんざりな議論を取り上げる価値はない。

しかし、ビットコインETFの新しさを考え、私はソマー氏のために、ビットコインETFへの関心がFOMO以上のものである理由について、最新の情報を提供しようと思う。

なぜビットコインETFなのか

まず、ビットコインの哲学的な提案がある。それは、すべての人が利用できるグローバルで無国籍な通貨ネットワークがあるべきだというアイデアだ。

しばしばリバタリアン(自由主義者)の夢物語と呼ばれるが、ビットコインのビジョンは非常にシンプルであり、グローバル化する新保守主義から歴史的マルクス主義に至るまで、真に権威主義的なものでない限り、さまざまな政治哲学にうまく適合する。

繰り返しになるが、台頭するポピュリズムへの流れに乗らなくても、ビットコインに関心を持つことはできる。企業や政府による監視の広がり、経済格差の拡大、その他の地政学的な問題などを背景に、ビットコインのように特定のユーザーに見返りを求めることなく、すべての人に力を与えるものは、少なくとも強力なシンボルであると多くの人が感じている。

第2に、ビットコインは記録を見る限り、最も成功した経済投資の1つであるという事実がある。毎年最高のパフォーマンスを上げる資産ではないかもしれないし、確かに多くの人がビットコイン取引で損をしている。しかし、過去15年のビットコインの急成長を否定することはできない。

そこで、ビットコインを購入し、長期保有することを推奨する「HODLing(ホドリング)」というアイデアの出番だ。常にボラティリティの高いビットコインが下落しても、売却するまでは含み損に過ぎないからだ。

ビットコインETFは、個人投資家や機関投資家の多くが、退職金口座や企業資産のような、数十年とは言わないまでも数年間は長期保有される可能性のある手段を通じて、ビットコインにアクセスすることをサポートする。

確かに、ビットコインは上昇する保証はなく、0ドルになる可能性さえある。また、ソマー氏が指摘するように、コインベース(Coinbase)やマイクロストラテジー(MicroStrategy)、あるいは上場している多くのマイニング企業などの暗号資産関連銘柄に投資するインデックス商品を購入するなど、伝統的な方法で暗号資産へのエクスポージャーを得る方法もある。

簡単に言えば、差し押さえることのできない資産を実際に所有するというアイデアは力強い(その点では、ビットコイン現物ETFは、ETFの購入者が実際にビットコインを手にすることがないため、不十分なものではある)。

しかし、ソマー氏は早々にそうしたアイデアに耳を塞ぎ、今月11本のビットコインETFが発売されたことで証明されたビットコインへの大きな関心は、すべてFOMOに過ぎないと読者を説得しようとしている。

悲しいことに、この議論は逆でも同じように通用する。つまりは、情報と情報源をしっかりチェックすることがますます大切だ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Cheyenne Ligon/CoinDesk
|原文:The New York Times Still Doesn’t Get Bitcoin