イーサリアム・ブロックチェーンは、ひどい事態に至らなかったことが大きな話題となる瞬間を経験した。
イーサリアムのクライアント・ソフトウェアNethermind(ブロックチェーンのバリデーターがネットワークとやりとりするために使用)のバグが1月21日、チェーンの主要なオペレーターの大部分を停止させたのである。
対処可能な出来事であったが、今回の一件は、イーサリアムのエコシステムにおいて、「クライアントの多様性」の必要性をめぐって長く続いてきた議論を再燃させた。
一部の専門家はこの機会に、イーサリアムチェーンで最も人気のあるエグゼキューションクライアント「Geth」というクライアントソフトウェアが停止していたら、事態がどれほど悪化していたかを指摘した。
Gethはネットワークの単一障害点となる可能性があるため、イーサリアムが継続できるかどうかが問題となっている。
Nethermindはイーサリアムを運用するバリデーターの約8%が使用しており、先日のバグはこうしたバリデーターをオフラインにするほど重大なものだった。
イーサリアム・ブロックチェーンは問題にもかかわらず稼働し続け、Nethermindの開発者は数時間以内に修正パッチをリリースした。
このバグがもたらした主な結果は、Nethermindをベースとする一部のバリデーターに金銭的なペナルティが課されたことだが、この一件は、イーサリアムのバリデーターの約5%を支えるクライアントソフトウェア「Besu」に影響を与えた1月初めの、同様の障害に続くものとなった。
議論再燃
連続して障害が起きたことで、イーサリアム・ブロックチェーンが抱えるクライアント・ソフトウェアの多様性に関する根強い問題をめぐって、X(旧ツイッター)では活発な議論が再燃している。ネットワークが単一のクライアント・ソフトウェアに依存しているようなら、より脆弱性が高まるというわけだ。
現在、イーサリアムの約85%のバリデーターはGethを使用しており、小規模なエグゼキューション・クライアントでの最近の障害は、Gethのプログラミングに問題が発生した場合、Gethの支配的なポジションは重大な結果につながる可能性があるという懸念が再燃している。
Gethは「Go Ethereum」の略で、イーサリアムの開発をサポートする主要な非営利団体であるイーサリアム財団によって主に開発・保守されている。
Gethはバグがまったくないわけではないが(どんなソフトウェアもそうだ)、NethermindやBesuを襲ったような致命的な停止に見舞われたことはない。もしそんなことが起これば、その影響はイーサリアムにとってはるかに深刻なものとなるだろう。
バグの性質によっては、Gethの不具合によってネットワーク全体が停止し、バリデーターがブロックチェーンに新しいブロックを追加できなくなる可能性がある。
イーサリアムはまた、オフラインになったり、ネットワークのルールを破ったりしたバリデーターにペナルティを科すようにプログラムされているため、バグが発生した場合、何千ものGethベースのバリデーターが金銭的な責任を問われる可能性がある。バグのパッチ適用が困難と判明した場合、ペナルティはさらに大きくなる可能性がある。
注目すべきは、ユーザーに代わってイーサリアムをステーキングし、事実上、多くの人が手間を省いてバリデーターになれるようにする主要なサービスのいくつかが、Gethに依存していることだ。
暗号資産(仮想通貨)の情報を発信しているCygaarは、Xの投稿で「イーサリアムはクライアントの多様性がとても低い」と指摘し、「Gethに重大な問題が発生すれば、Gethを実行しているバリデーターが持つ数百万のイーサリアム(ETH)が破壊される可能性がある」と付け加えた。
さらにCygaarは、ウェブサイト「execution-diversity.info」のデータを引用して、コインベース(Coinbase)、バイナンス(Binance)、クラーケン(Kraken)のような大手暗号資産取引所はいずれもステーキングサービスを実行するためにGethに依存していると述べた。
「Gethを実行するプロトコルでステーキングしているユーザーは、重大な問題が発生した場合、イーサリアムを失うことになる」
ソーシャルメディアに多くのフォロワーを抱える暗号資産投資家DCinvestorは、コインベースがバリデーターの運用をGethクライアントにそれほど依存しないシステムに切り替えるまで、コインベースからステーキングした資産を引き上げるとXに投稿した。
「現時点では(Gethに依存した)単一クライアントのステーキング設定と思われるもののリスクを無視できない」とDCinvestor氏は述べ、仮に問題が起これば「預け入れ資産の大部分を失うことになるかもしれない」と続けた。
バリデーターの怠慢
インキュベーターのKintsugi Techを率いるバリデーターの専門家、ダニエル・ホワン(Daniel Hwang)氏によると、イーサリアム・クライアントの多様性への関心は、イーサリアム・ブロックチェーンがライバルのチェーンよりも高い基準を要求されているという事実にも起因している。
「ほぼすべての他のチェーンでは、イーサリアムのようなクライアント・ソフトウェアの多様性は見られない」とホワン氏はCoinDeskのインタビューに対して答えた。
「ほとんどは、1つのクライアントで動いているだけ。おそらく、イーサリアムはスマートコントラクトチェーンとして支配的であるため、そのハードルが高いのだと思う」
Gethは高い信頼性を誇っているが、ホワン氏によると、イーサリアムのバリデーターの多くは、怠慢から(Nethermindのような代替手段ではなく)Gethをデフォルトで使い続けているという。
彼の経験では、バリデーターは競合するクライアント・ソフトウェアの長所と短所について「自身で調査していない」。
イーサリアム財団は、クライアントの多様性を向上するようバリデーターに促しており、リサーチャーの1人、ダンクラッド・ファイスト(Dankrad Feist)氏が2022年に、バリデーターに支配的なクライアント・ソフトウェアばかりを使用しないよう促したブログは先日、広く引用された。Nethermindの開発には、イーサリアム財団からの助成金が出ている。
ホワン氏は、このような状況にもかかわらずGethが優勢であることを、次のような古いビジネスの格言になぞらえた。
「IBMを買ってクビになる人はいない」
言い換えれば、他の誰もがGethを使っているのなら、たとえ何か問題が起こったとしても、新進のバリデーターがGethを使ったことを批判するのは難しい。
以外だが、ホワン氏は最近のNethermindとBesuのバグに明るい兆しを感じている。
「クライアントがバグに見舞われたことを素晴らしいことだとは言いたくないが、人々が責任について考えるきっかけになるのなら、それは素晴らしいことだと思う」とホワン氏。
「バリデーターたちは、スーパーマーケットの棚からただそれを選び、何か問題が起きたら手を挙げるのではなく、自分たちで最初からチェックすべきだった」
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Bug That Took Down 8% of Ethereum’s Validators Sparks Worries About Even Bigger Outage