二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスを削減する効果を「カーボンクレジット(排出権)」として発行、取引できる市場が世界中で拡大するなか、カーボンクレジットをブロックチェーン上でトークン化し、ボーダーレスで、透明性の高いデジタル市場を作ろうと、多くのスタートアップが開発を進めている。
その1つが「クリマDAO (KlimaDAO)」だ。クリマDAOは文字通り、中央集権的な管理をせず、ブロックチェーンを基盤にした民主的な組織形態の「分散型自律組織(DAO)」で運営されている。
昨年10月に設立された同組織の日本法人「クリマDAOジャパン(KlimaDAO Japan)」は、国内の企業や個人が参加できる日本仕様のマーケットプレイスの運営を、早ければ4月にも開始する。同社代表の濱田翔平氏がコインデスク・ジャパンのインタビューで明らかにした。
「Jクレジット」認証の炭素クレジットをトークン化
計画では、経済産業省や環境省などが運用する国内の「Jクレジット制度」で認証されたクレジットをトークン化し、同マーケットプレイスで取引することが可能となる。企業が取得したクレジットを利用して、自社の温暖化ガス排出量を相殺する「カーボンオフセット」を行う場合、証明書も発行される。
クリマDAOは、イタリア出身でドバイ在住の弁護士、ジョルジオ・ドナ・ダニオニ(Giorgio Donà-Danioni)氏が2021年10月に共同創設した。すでにマーケットプレイスのグローバル版「カーボンマーク(Carbonmark)」の運営を始めており、民間カーボンクレジット認証の米大手ベラ(Verra)が認証するクレジットを中心に取引されている。基盤となるブロックチェーンには、ポリゴン(Polygon)が採用された。
クリマDAOは、カーボンマークの運営以外にも、カーボンクレジットを裏付け資産とする独自トークン「KLIMA」と、米サークル社が発行する米ドル連動のステーブルコイン「USDC」を組み合わせた、いわゆる分散型金融(DeFi)にあたるサービスも展開している。
トークンのKLIMAは現在、国内の暗号資産交換業者で暗号資産(仮想通貨)として取引されていないため、日本市場においては当面の間、同トークンを活用したサービスを行わない方針だ。
カーボンクレジットを認証する第三者機関は「レジストリー」と呼ばれ、ベラはその世界最大手で、クレジットの発行と取引の透明性と信頼性を確保することを目的としている。一方、クリマDAOは、「優れた改ざん耐性を装備するブロックチェーンを基盤に、さらに透明性を高めたカーボンクレジットのデジタルマーケットプレイスを通じて、世界中のクレジットを取引できる環境を作ろうとしている」と濱田氏は説明する。
長崎・西海市と連携:クレジット、NFT、メタバースをフル活用
Jクレジットのトークン化とマーケットプレイスの運営に加えて、濱田氏率いるクリマDAOジャパンが日本市場で進めるもう一つの取り組みは、石油会社や電力会社、メーカー、自治体などに対して、カーボンクレジットを創出するプロジェクト開発を支援する事業だ。
一般の市民も参加できるような仕組みを設けて、企業・人・行政のすべてのステークホルダーが参画できる温暖化ガス削減プロジェクトに仕立てていきたいと、濱田氏は話す。
実際、クリマDAOジャパンは昨年、「ゼロカーボン」を目指している長崎県西海市と連携し、プロジェクトの設計作業を始めた。検討段階ではあるが、西海市内でJクレジットとして認証されるカーボンクレジットを創出するプロジェクトを作り、トークン化したクレジットをクリマDAOジャパンのマーケットプレイスで取引できるようにする。
地元企業で、AIやWeb3技術を得意とする西海クリエイティブカンパニー社(SCC)とも組み、カーボンクレジットを紐づけるNFTを発行し、メタバースの中で個人が取得できる仕組みを作る。NFTには特典を付け、個人が気候変動に対応した行動を楽しみながら行える環境を、リアルとメタバースを併用しながら整備していきたいと、濱田氏は構想を話す。
また、クリマDAOジャパンはゲーム開発会社などと、カーボンクレジットをゲームに利用できる仕組みについての意見交換も進めている。
「個人の活動が間接的に温暖化ガスの排出につながり、それを自らカーボンクレジットを利用してオフセットしようとする考えは、特に欧州などで多く聞かれるようになってきた。個人が気候変動に対して積極的に対応しようとする動きは、今後日本や他のアジア諸国でも強まっていくのではないだろうか」(濱田氏)
グローバルに事業を展開する欧州、米国、日本などの大企業は、「ゼロカーボン」や「カーボンニュートラル」を経営ビジョンの1つに据え、カーボンクレジットの利用を拡大させている。
次の10年で著しい経済成長が見込まれるグローバルサウスのアフリカでは、熱帯雨林やマングローブ湿地帯といった天然の「カーボンシンク(二酸化炭素の吸収源)」がカーボンクレジットという新たな資源として注目されるようになった。アフリカの各国政府は、カーボンクレジットから得られる収入の使途を巡って、新たな法整備を進めようとしている。
国内では、東京証券取引所が昨年10月にJクレジットを売買する取引所を開設すれば、金融サービスからデジタル資産の関連事業を手広く行うSBIホールディングスは、アスエネ社と共同でカーボンクレジット取引所「Carbon EX」を立ち上げた。
「雨後の筍」のようにカーボンクレジットを生むプロジェクトと、それを取引する市場は世界中で増えている。果たしてクリマDAOジャパンは、日本の法人と個人を惹きつけるマーケットプレイスを生み出すことができるだろうか?
|インタビュー・文:佐藤 茂
|写真:クリマDAOジャパン代表の濱田翔平氏(撮影:小此木愛里)