コピーできるものをコピーすることは、盗用になるのだろうか?
1月31日、ブロックチェーンの動きを追う0xKaden氏は、物議を醸している暗号資産(仮想通貨)プロジェクト「ブラスト(Blast)」はコードを盗用し、独自のものだと主張しているとして非難した。
ブラストは期待されている一方で、一部では操作的なマーケティング手法と呼ばれた方法で昨年10億ドル(1500億円、1ドル150円換算)以上の資金を調達した、批判も多いプロジェクトだ。イーサリアムの代表的なレイヤー2ブロックチェーンのひとつ、オプティミズム(Optimism)が公開したコードを盗用していると非難されている。
盗用疑惑
「ブラストは本当に、オプティミズムのMITコードにBSLライセンスを付けている」とKaden氏は指摘。
「ブラストにライセンスされているなら、もうオプティミズムをフォークできないというのだろうか?」
Kaden氏が言及していたのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)が開発した、作者に著作権を与えるが、他の人が(通常は出所を明示して)自由にコードにアクセスし、改変することを許可する寛容なソフトウェアライセンスと、オープンソースではないビジネス・ソース・ライセンス(BSL:Business Source License)のことだ。
その後すぐに、別の匿名のブロックチェーン開発者、Pop Punk氏が、ブラストとオプティミズムのコードの一部を比較したスクリーンショットを投稿。誤字を含むいくつかの偶発的な違いを除けば、2つは確かに同じだった。
「Hey ブラスト、オプティミズムのコードをフォークして、タイプミスを追加し、関数を削除してライセンスを変更するなど、あまり感心できない」とPop Punk氏はXに投稿した。
ブラストが一線を越えたとされるのは今回が初めてではない。ブラストの創業者、「パックマン(Pacman)」ことティエシュン・ロケレ(Tieshun Roquerre)氏は、大成功を収めた分散型NFT取引所Blurの開発者であり、支援者に実績のあるベンチャーキャピタルのパラダイム(Paradigm)を抱え、ユーザーにイノベーティブなアイデアを提供しているが、論争の嵐に巻き込まれている。
物議を醸す手法
ブラストは発表当時、入金はできるが出金はできない「一方通行」のブリッジ以上のものは提供していなかった。さらに、ユーザーは5つのキーを持つマルチシグウォレットに資金を送金したが、すべての署名者は単一のエンティティにつながっているようだ。そしてエンジニアを雇う前から11億ドル以上を調達した。
セキュリティに対する甘いアプローチよりもひどいことはおそらく、ブラストが積極的に入金を募り、プロジェクトを宣伝し、ポイントシステムによって決定される5月のエアドロップを約束して入金を促す手法だ。
ブラストの主要投資家であるパラダイムのゼネラルパートナー、ダン・ロビンソン(Dan Robinson)氏でさえ、「真剣なチームの仕事を貶める」「他のプロジェクトにとって、悪い前例になる」と述べた。
ブラストのビジネスモデル自体は必ずしも不適切なものではない。リド(Lido)に預け入れられたイーサリアム(ETH)をステーキングすること、そしてメイカーダオ(MakerDAO)のDAI Savings Rateを利用することで得られる4~5%程度の利回りを提供するという計画だ。
ポイントシステムはまた、プロジェクトがトークンの分配方法を決定するための一般的な方法となりつつある。紹介制度やゲーム化されたポイント獲得方法を提供することで、成長にインセンティブを与えようとするブラストの取り組みを批判することはできない。
さらにパックマン氏は、ネットワーク上で開発を行う開発者にガス代の100%を提供することで、外部開発にインセンティブを与えると述べていた。
また、ブラストがBlurと密接な関係にあることから、NFTのパーペチュアル取引を絡めたアイデアも提案されている。パックマン氏が戦略的な頭脳を持っていることは明らかで、注目を集めるために論争を巻き起こすこともあるのではないかと思えるほどだ。例えば、コピーすることが許されているコードを盗用するようなやり方で。
行き過ぎか?
問題は、プロジェクトの知名度を上げ、ユーザーを構築するために、暗号資産の文化的規範、そしておそらく法律(MITライセンスには一定の制限がある)さえも曲げて、どこまでやるべきかだ。
ブラストは、レイヤー2が大きく成長する時代という絶好のタイミングでローンチされる。しかし、この分野にはアービトラム(Arbitrum)、Base、オプティミズム、ポリゴン(Polygon)をはじめとする多くのライバルがひしめいている。
もしローンチされれば、ブラストはイーサリアムとステーブルコインでユーザーに利回りを提供する最初の企業であることが差別化ポイントとなる。この魅力的な機能は、イーサリアムの「リスクフリーレート」に相当するものを活用し、暗号資産の次の大きなトレンドになる可能性があると考える人もいる。
マルチシグの状況も、現在のすべてのレイヤー2が同様の設定によって管理され、一部は匿名の署名者がいることを考えるとスタンダードから大きく外れてはいない。
しかし、このプロジェクトが、資本、注目、ユーザー、開発者を獲得するためのゼロサムゲームに勝利しようと、細かいことを気にせず、無責任に行動していることは明らかだ。
「ブラストを楽しみにしているのは、エアドロップ収集家だけだ。開発者たちは、その正体を理解している。エアドロップ収集家のためのチェーンだ」とPop Punk氏は指摘した。
オープンソースコミュニティは情報を共有することをポジティブなことと考えており、暗号資産の世界ではコードをコピーすることは普通のことだ。
ブラストのチームが、コード、しかもコピーしたと思われるコードに自らの著作権を表示しているという事実は、彼らの重視していることを示している。
オープンソースの精神と著作権保護
MITライセンスは無許可であり、ブラストは自分たちのバージョンもオープンソースにする限り、オプティミズムのコードを自由に使用、改変、配布できた。だがビジネス・ライセンスを選んだことで、その真意を露呈した。
暗号資産の世界では過去にも盗用をめぐる争いが起きており、ゼロ知識証明ベースのプロジェクトであるMatter Labsとポリゴンの間でも、前者が後者のオープンソースコードを使用する際に適切な出所を明示しなかったとポリゴンは主張している。
またユニスワップ(Uniswap)も近日リリース予定のV4を発表した際、知的財産をより長く活用するため、やや制限的なライセンスで公開すると発表したことで論争を巻き起こした。
「オープンソースはWeb3では一般的にうまくいっていると思うし、それはかなり必然的なことだ」とPop Punk氏は述べ、次のように続けた。
「多くのプロジェクトは、ロジックや複雑さを追加したフォークだ。迅速な反復と開発が可能。しかし、ブラストがやったこととは逆で、ライセンスは尊重されるべきだ。文化的な違反であり、法的な違反にも踏み込んでいる」
これらは明確な回答のない問題であり、特にオープンブロックチェーンという、名目上は競争相手であっても協力者であるような空間においてはなおさらだ。
著作権保護の根拠は、何か意味のあるものを世界に提供し貢献した人は、そこから利益を得るべきだというもの。問題は、ブラストが一体何に貢献しているのか、そしてそれは法的な保護に値するのかだ。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Blast From the Future: Can You Plagiarize Something Meant to Be Copied?