ビットコインマイニングへの包囲網を狭める米政府

米エネルギー省(DOE)がビットコイン(BTC)マイニングに一段と厳しい監視の目を向けている。これは警戒すべきことなのだろうか?

「緊急」調査

より具体的に言うと、DOE傘下の統計機関であるエネルギー情報局(EIA)は、「緊急データ収集要請」を出した後、アメリカを拠点とする一部のマイナーの電力消費量を6カ月間調査するという。

「緊急」命令という表現や、現政権の暗号資産(仮想通貨)に批判的なスタンスから、収集された情報がマイニング業界にとって打撃となる得る政策に利用されることを懸念する声が多い。

EIAはその公開要請書の中で、データ収集の理由として暗号資産マイニングによる「社会的害悪」の可能性を挙げている。

「EIAは政策中立機関であり、政策の立案、導入、執行、政策に対するコメントは行わない」と、EIAの広報担当者モーガン・バターフィールド(Morgan Butterfield )氏はCoinDeskに語った。

「我々が収集したデータから得られた結果は、今後6カ月の間に行われる、3年間の定期的な認可に関する我々の進路決定に役立つ」

しかし、政策に中立だからといって、この調査が政策に影響を与えないとは限らない。調査を実施するというだけで、EIAはビットコインのより大きな目的と、社会に利益をもたらすかどうかについて疑問を提起しており、すでに心の内に答えを用意していると信じるには十分だ。

例えば、行政管理予算局によって認められた緊急命令を正当化する理由は、ビットコインが数カ月の間に50%以上上昇したことだった。EIAはこれが「暗号資産マイニングを奨励し、電力消費を増加させる」と述べた。

「この問題の新しさと急速な変化を考慮し、また公衆への危害の可能性を定量的に評価することができないため、EIAは、この展開中の問題に対する洞察を提供する、信頼できるデータを作成することに緊急性を感じている」とEIAは主張している。

バターフィールド氏によると、全米の「暗号資産業界」を代表する企業として、約150の施設を運営する82社が選ばれたという。

ビットコインが市民にもたらすリスク

EIAは、2018年にニューヨーク州プラッツバーグを襲った寒波を指摘し、暗号資産が一般大衆にもたらすリスクを正当化している。

「暗号資産マイニングの増加と負荷のかかった電力系統という複合的な影響により、電力市場の不確実性が高まり、システム運用や消費者価格に影響を与える需要ピークが発生する可能性がある」(EIA)

2018年以来、ニューヨーク州は、再生可能エネルギーで完全に電力を供給しない限り、新たな暗号資産マイニング施設の開設を2年間禁止する措置を可決した。

中国が全国的な暗号資産マイニング禁止令を可決した後、大きな恩恵を受けたテキサス州もまた、マイニング産業を減速させようとしている。テキサス州の暗号資産マイニング業者は、国営の送電網運営会社と直接連携し、ピーク需要時やネットワークに負荷がかかる時間に電源を落とすことで報酬を得ている。

確かに、調査の公開版では、EIAがマイニング企業に対して、稼働しているチップの数や種類、施設での電力消費量、マイニングに直接使われる電力量など、ごく基本的な質問をしていることが示されている。

「暗号資産マイニングのエネルギー需要がどのように進化しているかに特に焦点を当て、成長の高い地域を特定し、暗号資産マイニングの需要を満たすために使用される電力源を定量化する」と、EIAは声明で述べた。報告書は7月末までの毎月最終金曜日に提出され、その後延長される可能性もある。

さらに、このようなハイレベルな統計があれば、より詳細な情報を直接得ることができるため、国や業界に利益をもたらすという主張もある。

現時点では、マイニング業界の電力消費量に関する最良のデータは、ケンブリッジ・ビットコイン電力消費インデックス(Cambridge Bitcoin Electricity Consumption Index)だ。これは、基本的に現在のハッシュレートから推定することによって、ビットコインネットワークの1日のエネルギー消費量の下限値と上限値を仮想的に推定している。

調査のタイミング

しかし、なぜ今なのか? 直近のビットコイン価格の高騰が緊急調査の原因となったとしても、なぜ今回だけなのかという疑問が残る。

バイデン政権が二酸化炭素排出量の削減を優先していることは注目に値する。また、暗号資産に批判的な民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員は、連邦規制当局に対し、暗号資産マイナーに排出量とエネルギー使用量を開示させるよう求めている。

ビットコインマイニングは、4年ごとに起こる半減期に向けて、話題を集めるニュースになる可能性が高い。

短期的に効率の悪いマイニング機器が使えなくなる以上に、半減期がマイニングセクターにどのような影響を与えるかはまだ明らかではない。暗号資産の二酸化炭素排出量は今後数年で増加すると予想する人もいれば、減少すると見る人もいる。

さらにここ数カ月、ビットコインの環境コストについて、特にトップ2のネットワークであるイーサリアムが1回のアップグレードでエネルギー消費量を99%削減したことを受けて、世間で判断が分かれている。

グリーンピースのような一部の団体は、ビットコインがエネルギーを大量に消費するマイニングをやめるよう求めているが、一方で、ビットコインを環境へのメリットと見なし始めている団体もある。

例えば、ケンブリッジ大学は最近、ビットコインの年間エネルギー使用量の見積もりを下方修正し、MITやKPMGなどの機関は、ビットコインネットワークが電力網の「バランスを確保する」ことに役立ち、再生可能エネルギー開発に補助金を出し、経済のグリーン化に役立つとする報告書を発表した。

ビットコインのコストとベネフィット

マイニングはエネルギー集約的なプロセスだ。ビットコインが実行する暗号資産アルゴリズム「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」は、サーバーとのやりとりに数学のパズルを解くためのコンピューター処理という形でコストを加えることで、ネットワーク上のスパム、シビル攻撃、サービス拒否(DoS)攻撃を抑制する目的で設計された。

マイニングプロセスに反対する一部の人たちは、ビットコインマイニングを「無駄な」エネルギーと表現することが多いが、そうではない。そのエネルギーは、一種の証しとして意図的に費やされている。

ビットコインマイナーが競って「解決」する問題は、人類の知識体系に何かを加えるものでもなければ、Folding@home(タンパク質の解析を行う分散コンピューティングプロジェクト)のような生産的なものに貢献するものでもないという点では、何の意味も持たない。しかし、ネットワークの安全確保という点では価値がある。

そして、そこが厄介なところだ。つまり、ビットコインをどう評価するかだ。ビットコインの価値とは何か。標準的な回答は、市場がどのように評価しているかを見ることであり、当記事執筆時点では約4万2000ドル(約622万円、1ドル148円換算)となっている。

しかし、ビットコインの大きなエネルギー使用量をめぐる実際の議論のほとんどは、ビットコインの価格とはほとんど関係がない。むしろ、ビットコインのコストとベネフィットを中心に考えている。

EIAの調査が、そうしたコストとベネフィットをよりよく理解することに役立つと言えたらいいのだが。しかし、調査作成者たちは、ビットコインが一般大衆にリスクをもたらすかどうかという自分たちの質問にすでに答を出しており、それを裏付けるデータを探しているように思える。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:米ワシントン州にあるビットコインマイニング施設(Eliza Gkritsi/CoinDesk)
|原文:The U.S. Government Seems to Be Closing in on Bitcoin Mining