破産は「暗号資産の冬」のサーキットブレーカーだった

歴史を通じて社会は多くの場合、破産に眉をひそめ、道徳的観点から、互いへの信頼と責任に対する背信行為と捉えてきた。

しかし、さまざまな金融危機を経験し、報道してきた私は、現代資本主義がこの不愉快な問題に対処するための裁判主導のプロセスに感謝するようになった。

倒産は、恣意的で非対称的とも見える負担を、債務者としての責任を負わされることになった人々に課すことになったとしても、市場の信頼の回復にどうしても必要な猶予を与えてくれる。

2022年にいくつかの大手暗号資産(仮想通貨)企業が破綻した後の混乱が収まるなか、このことを改めて思い出している。

回復の猶予を与える

FTX、セルシウス(Celsius)、ジェネシス(Genesis)、ボイジャー(Voyager)などの破産管財人はここ最近、債権者に返済するための努力において、程度の差こそあれ前進しており、破産がいかに有用なサーキットブレーカーになり得るかを示している。

売りが手に負えなくなったときに多くの証券取引所が採用している自動売買停止トリガーのように、支払い要求やマージンコールの凍結は、銀行の取り付け騒ぎや永続的な市場崩壊を引き起こすパニックの連鎖を断ち切る。

つまり、破産は、市場が恐怖から貪欲へとシフトし、価格が回復して損失が軽減されるまでの時間を稼ぐものだ。

市場での影響の伝播が収まって初めて、投資家は破産した企業の資産価値をより冷静に評価することができる。管財人が専門家による管理を導入し、資金回収のために資産売却に乗り出すと、パニックが行き過ぎであったことや、バランスシートの一部が過小評価されていることが判明するのが常だ。

一方、破綻企業に流動性のある取引所ベースの資産があった場合、あるいは多くの破綻した暗号資産企業のように、それらを他者のために保管している場合、一般的な市場環境とともにそれらの価値が向上する可能性は十分にある。

もちろん、そのような回復が保証されているわけではない。しかし、暗号資産市場の自然なボラティリティと循環的な性質には、債権者が持ちこたえることができれば、債権の回収率が向上する可能性が高いことを意味する一面がある。

FTXの「完全」回復

「暗号資産の冬」の倒産の先駆けとなったFTXを考えてみよう。破綻したこの取引所の創業者サム・バンクマン-フリード(Sam Bankman-Fried)氏は、巨額の詐欺罪で有罪判決を受けて服役中だが、債権者に代わってFTXの財産の価値を回復するために招聘された新CEOのジョン・J・レイ3世(John J. Ray III)は、失われた資金の多くを取り戻すために熱心に取り組んできた。

同社は今週、裁判所に提出した書類の中で、取引所の顧客に全額返済する見込みだと発表した。FTXの問題で顧客が取引所で保有していたトークンのほとんどがすでに下落してから2週間が経過した破産宣告日を基準としているため、「全額」の定義には異論があるだろう。とはいえ、FTX債権者の債権が15セント程度で取引されていた時期からすれば、著しい改善だ。

回復の最大の要因は暗号資産市場にある。当記事執筆時点で、ビットコイン価格は4万3000ドル(約636万円、1ドル148円換算)をわずかに下回る水準で推移しているが、FTXが破産を宣言した11月22日時点では、弱気相場の最安値である1万8200ドル前後だった。

主要暗号資産を扱うインデックス、CoinDesk 20はこの期間に88%上昇した。この上昇の潮流が、多くの債権者に恩恵をもたらした。

確かに、倒産した企業の利益の一部は、他の苦しんでいる企業の犠牲の上に成り立っている。この緊張関係は、FTXと2022年夏に破綻したレンディング企業ボイジャーの争いに表れている。

FTXは一時、ボイジャーを買収する構えだったが、2カ月後にFTX自体が破綻したため、取引は消滅した。ボイジャーの破産管財人はここ1年間、FTXのトレーディング部門であるアラメダ・リサーチ(Alameda Research)と法廷闘争を繰り広げている。アラメダはローン返済の約4億4500万ドルを取り戻すためにボイジャーを訴えている。

そして、同じく破綻したレンディング企業ジェネシス・グローバル・キャピタル(Genesis Global Capita)の姉妹会社でデジタル資産運用会社のグレイスケール(Grayscale)は、最近大規模な資金流出に見舞われた。FTXの破産管財人は、グレイスケール・ビットコイン・トラスト(GBTC)がETF(上場投資信託)に転換した機会を捉えて、約10億ドル相当のGBTCを売却した。

ジェネシスの破産管財人は2月5日、さらに一歩踏み込み、現在ではそのほとんどがビットコインETFとなっている16億ドル相当のグレイスケール信託資産の売却承認を裁判所に求めた。

しかし、これらの出来事は、業界を安定させるために必要な後始末の一部でもある。その他にも、明るい話題はある。破綻したレンディング企業セルシウスは先月、正式に破産から脱却し、債権者に30億ドルを分配することを発表した。そして今週、ボイジャーのトークンVGXはGala GamesのGalachainに組み込まれた。この動きは、いずれ保有者に流動性の新たな出口をもたらすかもしれない。

秘密を暴く

弁護士のイェシャ・ヤダヴ(Yesha Yadav)氏とロバート・スターク(Robert Stark)氏が指摘したように、破産手続きは、暗号資産業界に対する明確な規制のフレームワークを打ち出せなかったアメリカの規制当局が残した空白を埋めるものだった。

これは、破綻した取引所が債権者の資金を回収するために安全に事業を継続できないことを意味し、通常の回復プロセスを歪めた。私にとっては、これは倒産プロセスの問題というよりも、規制をめぐる政治的プロセスの失敗だ。

ヤダヴ氏とスターク氏は、破産裁判所が、規制当局が支えなかったビジネスの重要な原則を守った重要な分野を特定した。FTXやセルシウスなどの顧客口座の粗末な扱いを強制的に開示するために、裁判所が持つ司法の力が必要だった。この情報は今後、改革に役立つだろう。

秘密となっていた悪事が暴かれ、投資家たちがまたすぐに、残酷な清算に直面する必要がないことを祈ろう。しかし、一掃しなければならない泥がたくさんあったのだから、破産手続きによって浄化されたことに感謝してもいいだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Melinda Gimpel/Unsplash
|原文:Bankruptcy Was Crypto Winter’s Circuit Breaker