グレイスケールの提供するビットコイン現物ETF、GBTCの売却が進んだことなどから中旬には相場全体の価格が下落した1月だったが、2月に入ってその流出ペースにもブレーキがかかった。それに加えて、2月5日には決算発表の中でマイクロストラテジーが1月にビットコインを買い、さらにブラックロックらのビットコイン現物ETFがグーグルに広告掲載されていることが報道され話題となったこともあってか、相場全体の価格は順調に高まり、ついに2月9日にはBTCJPYが大台の700万円台に乗った。
いよいよ半減期も目前となり、年初以上に相場は盛り上がりを見せている。今後の相場動向に強い関心が集まる2月の格付けを見ていこう。
概観
まず、上位銘柄の動向を確認する。ビットコイン(BTC)は米国での現物ETF承認による盛り上がりがあまりにも大きかったため、投機リスクが高くなり、やや得点が下がった。前回、イーサリアム(ETH)を追い抜き、2位になったソラナ(SOL)は前回と変わらず698ポイントで2位に。ビットコインETFの騒ぎで年内の現物ETF承認が期待され、BTC以上に激しく値動きをしたETHはBTC同様に投機リスクが高まりわずかに得点を下げ、SOLとの得点差が広がった。上位10銘柄は前回と変化はなかったが、チェーンリンク(LINK)、アバランチ(AVAX)、バイナンスコイン(BNB)がそれぞれ一つ順位を上げた。LINKとAVAXはともに流動性の評価が上がり総合得点としてもそれぞれ+9、+10ポイント増加した。一方、BNBは得点こそ前回から8ポイント下げたものの、ポルカドット(DOT)の下げ幅がより大きかったため、結果的に順位を上げた。
対象銘柄全体で最も得点を上げたのはインジェクティブ(INJ)の+18ポイントであった。前回は投機リスクが下がったことで得点をあげたが、今回は流動性が上昇したことによって評価が伸びた。継続的に高い流動性を維持していることが伺える。
一方、最も得点を下げたのはメタバースプロジェクトDecentraland上で使われているディセントラランド(MANA)で-52ポイントであった。流動性リスク、投機リスクともに高まったことで大きく評価を下げた。実際、年初には価格の伸びが減退しており、2月に入ってようやく立ち直りつつある状況だ。今回は先月と比べて得点を下げた銘柄が多かったため、順位は一つだけ落とす結果となった。
先月比で得点を上げた銘柄が5、変化なしが3、得点を下げた銘柄が41、という結果であった。このうちの多くは投機リスクの上昇による評価の低下に起因するものであった。相場全体が盛り上がれば流動性は高まるが、過剰に高まった場合には反対に投機リスクも上昇する場合がある。今回は多くの銘柄でこのケースが当てはまるという結果になった。
流動性リスク
次に項目別に注目すべきポイントを見ていこう。まずは流動性リスクからである。1月から2月の相場は相場全体が大きく動いたため、クリプト市場全体の流動性が上昇した。その結果、得点上昇するレベルの流動性上昇を記録した銘柄は、LINK、AVAX、INJ、ETCの4つのみであった。このうちINJとAVAXは先月に続き、2回連続の得点上昇となった。しかし、AVAXに関しては月初にネットワーク活動の低下が見られており、取引量が減少している。月末にかけてのBTCを中心とした相場ラリーの影響で価格は回復傾向にあるが、来月も継続して得点を上げられるかは不透明だ。INJも取引量がやや減少しており、価格の上昇も一服している。調整局面に入ったと言えるのではないだろうか。
ここ数日の相場全体の動きをを見るに、今月同様に3月も相場をアウトパフォームするような優れた銘柄のみが流動性をあげることが予測される。来月の得点上昇銘柄は要チェックだ。
投機リスク
投機リスクの観点で評価を上げたのはトロン(TRX)、メイカー(MKR)、ビットコインSV(BSV)、ザ・グラフ(GRT)の4つ。とくにTRXは年初来から継続的に価格上昇を続けている稀有な銘柄である。TRXはステーブルコインやRWA(Real World Asset)の文脈で今年注目が集まっている。スケーラビリティの高さと手数料の低さから、ドル建てステーブルコインUSDTを発行するTether社、同じくUSDCを発行するCircle社からリテール向けの支払いアプリケーションにおいてTRXの利用が検討されているとメディアが報じていた。また、トロンブロックチェーンはRWA向けのプロトコルの開発も進めている。ステーブルコインとRWAの相性は非常に良く、またトークノミクスや活発なDappsコミュニティの存在などのその他の要因と合わせて、更なる成長につながることが期待され、価格が上昇していると考えられる。
しかし、そんなモメンタムを抑えるニュースも出てきている。先述のCircleがトロンブロックチェーン上でのトークンのサポートを中止すると2月20日に同社のブログで発表した。TRXに限らず全てのチェーンをリスク管理の一環として注視していると述べるに留まり、詳細な理由は明かされていないが、背景には昨年、米NPOが上院議員に送ったある書簡が関わっている。当該書簡では、SECが未登録証券として名指しするTRXの事実上の運営体であるトロン財団と、多くの金融機関と取引を行うCircleとの関係に疑義が投げかけられている。コンプライアンス面でのリスクを最小化するため、サポートを打ち切るタイミングを模索していたCircleが今回決断に踏み切ったと考えるのが自然だろう。年初来、非常に魅力的なリターンを提供しているものの、このように依然、法規制リスクが大きいと考えられるTRXには要注意である。
集中リスク
集中リスクはほとんどの銘柄で得点に変化はなかった。そんな中、-100点となったのが昨年話題となったミームコインのぺぺコイン(PEPE)だ。昨年5月ごろに高値をつけたPEPEだが、上昇が一服したのち、上下を繰り返しており、年初からは価格の下落が続く。格付け算出日時点では下落トレンドにあったが、相場が上昇基調になったことをきっかけに2月末には急騰している。先月比で100%近い上昇だ。そんなPEPEの集中度が高まっているということは将来的な投機リスクの更なる上昇が懸念される。そもそも、ミームコインは非常に投機性が高い。全体相場の盛り上がりと共に投機熱が再燃しており、PEPEの出来高も急増している。安易に手を出すのは危険と言わざるを得ない。こちらもTRXとともに要注意の銘柄である。
注目ポイント:期待通りの上昇を見せるDePIN銘柄
2024年の展望を描くレポート各種で言及されているのがDePIN(Decentralized Physical Infrastructure Networks)銘柄である。DePINとはトークンインセンティブを利用した物理資源の調整・配分機構の実現を目指すプロジェクト一般を指す。物理資源の例としては、インターネット通信、コンピューティングリソース、AI、センサーなどのリソースなどが挙げられる。クリプト格付けのなかにも、ファイルコイン(FIL)、レンダートークン(RNDR)、ゴーストトレーダー(GTR)、アカッシュネットワーク(AKT)といった銘柄がリストされている。これらの銘柄は他のトークンが調整ラウンドに入るなかでも、年初来より継続的に価格が上昇しており、期待に応えるパフォーマンスを見せている。2月の格付け基準日以降はとくに出来高が上昇しており、それに伴って価格も急騰している。来月の格付けがどうなっているか非常に楽しみである。
DePIN銘柄のなかでも古参なのがFILである。一時は182ドルまで上昇したが現在は10ドルを切る水準で推移している。分散型ファイルストレージサービスを提供するFILはDePIN銘柄のなかでも最も高い時価総額を誇り、GoogleやMicrosoftといった企業が提供する中央集権的なストレージサービスに対抗する存在である。現在は格付けで27位と振るわないが、依然の価格水準まで戻ればかなりのランクアップが期待できるだろう。実際、2月末のBTCの上昇に伴ってFIL相場も強気となっており、今後どう動くかに期待が集まっている。
2024年はDePIN銘柄一般から目が離せない。
総括
今回の格付けは年初の相場の隆盛のなかでアウトパフォームした銘柄が浮き彫りとなった。執筆時点で、日経平均株価が最高値を更新するとともに、クリプト相場がBTCを筆頭に年初の勢いに増して上昇を続けている。2月27日時点でBTCは5万ドル台に突入し、過去最高値まで残すところ1万2千ドルとなっている。もしも前回の時点で上位10銘柄に投資できていたら、2月の格付け更新日の時点では+9.24%のリターンとなった(得点比率で加重平均した場合)。直近の相場感のまま行けば、次回3月の更新では更なる上昇も期待できる。BTCの半減期も近づき相場は浮き足立っている。円が一段と弱くなるなかで、クリプト相場の強さはいよいよ誰の目にも明らかだ。次回の格付けにも期待されたい。
|文・画像:マネックスクリプトバンク
|編集:CoinDesk JAPAN編集部