イーサリアムブロックチェーンではここ最近、スケーラビリティ、効率性、セキュリティを強化する大幅なアップグレードが行われている。これらの改善は、ブロックチェーンのトリレンマ(セキュリティ、分散化、スケーラビリティのバランスを取るという課題)に対処するもの。継続的な機能強化は、コストを抑えながらネットワークのパフォーマンスを向上させるために極めて重要だ。
今後予定されているイーサリアムのカンクン-デネブ(「デンクン:Dencun」)アップグレードは、3月13日にメインネット上で展開される予定となっている。
このアップグレードでは、さまざまなイーサリアム改善提案(Ethereum Improvement Proposals:EIP)、特にプロトダンクシャーディングのためのEIP-4844を通じて、スケーラビリティ、効率性、セキュリティが優先される。この提案は、ガス代(取引手数料)を最適化し、ネットワークのスケーラビリティを強化することを目的としている。
デンクン・アップグレードは、イーサリアムのロードマップにおける「The Surge」時代の始まりを意味し、レイヤー2ロールアップを通じて大規模なスケーラビリティを実現する道を開く。
ロールアップにより、イーサリアムはよりアクセスしやすく、ユーザーフレンドリーなものとなり、DeFi(分散型金融)2.0を含むさまざまな分野での普及と実用化が促進される。
レイヤー2ロールアップのメリット
レイヤー2ロールアップは、メインのイーサリアムブロックチェーン(レイヤー1)のセキュリティを維持しながら、オフチェーンでトランザクションを処理することで、イーサリアムのスケーラビリティと効率性を高める。以下のような特徴がある。
- オフチェーンでの実行: トランザクションをオフチェーンで処理することで、イーサリアムブロックチェーン上のスペースを奪い合うことなく、より迅速でコスト効率の高いスループットが可能になる。
- トランザクションの集約: 複数のトランザクションの結果は、オフチェーン実行後に単一の圧縮された形式のトランザクションデータに集約またはバンドルされる。
- メインチェーンへのポスト: 圧縮された取引データ(ロールアップ)は、イーサリアムのメインチェーン(Layer-1)にポストされる。
- データの可用性: オフチェーン処理にもかかわらず、イーサリアムのメインブロックチェーンは取引関連データがすべての参加者からアクセス可能で検証可能であることを保証する。
- セキュリティ: レイヤー2ロールアップは、さまざまな暗号技術を通じてイーサリアムネットワークのセキュリティを維持する。
プロトダンクシャーディングのためのEIP-4844の意義
EIP-4844(プロトダンクシャーディング)は、ブロックに接続された一時的なデータブロブを導入することで、ネットワークのスケーラビリティを大幅に強化することを目的としている。この技術革新により、以下のように処理コストが削減され、スループットが向上する。
- 一時的なデータブロブ: イーサリアムブロックに接続されたこれらのストレージスペースは、イーサリアムバーチャルマシン(EVM)と直接やり取りすることなく、追加データをトランザクションに含めることを可能にする。
- 処理コストの削減: ブロブを介したトランザクションデータの効率的な処理は、ユーザーのガス代の低減につながり、平均トランザクションコストが0.01ドルを下回る可能性がある。
- スループットの向上: EIP-4844はより高いトランザクションスループットを可能にし、最大10万トランザクション/秒(TPS)の速度に達する可能性がある。
- レイヤー2ソリューションの促進:追加的な一時的ストレージスペースを提供することにより、ロールアップのようなレイヤー2のスケーリングソリューションに利益をもたらすと期待される。
アップグレードによる見通し
イーサリアムのネットワークは2022年にプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)に移行し(「マージ:Merge」)、その結果イーサリアム(ETH)はデフレ資産となった。
現在、イーサリアムの総供給量の25%以上がステーキングプラットフォームにロックされており、取引や投資に利用可能な供給量が大幅に減少している。この供給ショックは、イーサリアム供給量を年間0.21%減少させるバーニング(焼却)メカニズムとも重なる。
デンクンはイーサリアムにとってポジティブな要因になると予想される。イーサリアム保有者は13億ドル(約1950億円、1ドル150円換算)以上のイーサリムをプライベートウォレットに移すことで、取引所へのエクスポージャーを大幅に減らしている。
ブルームバーグの最新データによると、ETH/BTCスポットレシオは0.5まで後退しており、2022年のルナ/テラ後のレベルを思い起こさせる。
これはイーサリアム愛好家にとって、合理的なエントリーポイントだ。さらに、イーサリアムの短期コール買いが急増しており、トレーダーは3月末までに4000ドルを目指す動きを予想している。
また、トレーダーは2024年3月のコールの買いと2024年4月のカレンダースプレッド戦略の売りを好んでいる。トレーダーの強気心理は市場に表れており、想定元本で約25億ドル相当のコールと10億ドル相当のプットがある。
ETH/BTCクロス
今後を展望すると、イーサリアムに加え、レイヤー2の他の高ベータ銘柄もデンクンのアップグレードの恩恵を受ける態勢が整っている。例えば、アービトラム(Arbitrum)やオプティミズム(Optimism)のようなレイヤー2ネットワークは、データブロブの導入から大きなメリットを享受できると予想されている。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Riccardo Cervia/Unsplash
|原文:What to Expect From Ethereum’s Cancun-Deneb Upgrade