米国の暗号資産規制の現状は、とうてい遵守できない不条理で矛盾した規則や要件ばかりでがんじがらめ、まさに「キャッチ22」の状態にある。
ジョセフ・ヘラーの小説に登場する「キャッチ22」とは、米空軍パイロットは、精神異常を申請すれば戦闘任務を免除されると定めた規定に由来する。そのキャッチ(問題点)は、申請ができるということはパイロットが正気であり、戦闘任務を免除される資格がないと判断されることだ。
2024年の米国に舞台を移すと、証券取引委員会(SEC)の暗号資産企業に対する「歓迎するから、まずは登録を」という姿勢が「キャッチ22」だ。
暗号資産業界のキャッチ22
SECのゲーリー・ゲンスラー(Gary Gensler)委員長は、証券規制を遵守するためのSECへの登録は簡単で「ウェブサイトに申請書がある」とよく発言する。そして、暗号資産の発行企業や取引所は、その方法を知っているにもかかわらず「やらないことを選んでいるだけ」だと述べる。ゲンスラー氏の発言からは、SECが歓迎しているにもかかわらず、暗号資産企業は(違法ではないにせよ)正当な理由なく必要な手続きを踏んでいないかのような印象を受ける。だが、そこにはキャッチがある。
同氏の言うように、すべての暗号資産は証券であり、SECに登録されるべきだと仮定しても(これは議論の余地がある)、登録プロセスは簡単だと仮定しても(実際はそうではない)、登録を終えた先は袋小路だ。登録された暗号資産は、登録された証券と同様に、登録されたブローカー・ディーラーを通じて、登録された取引所でしか取引できない。しかし、現状そんなことは不可能だ。
ブローカー・ディーラーの自主規制機関である金融取引業規制機構(FINRA)が、暗号資産の取り扱いを承認している金融機関はわずか数社に過ぎない。そのうち、唯一の特別目的ブローカー・ディーラーであるプロメテウム(Prometheum)は、承認からほぼ1年が経過した現在も動きはなく、上場した暗号資産は1つもない。
さらにSECは、現在登録されている取引所やブローカー・ディーラーに暗号資産の上場、カストディ、取引を許可していない。SECの見解は、暗号資産を取り扱いを望む登録機関は「伝統的な証券の取り扱い、取引、カストディ、あるいは代替取引システムの運営はできない」というものだ。
また事実上、これまでにSECに登録された暗号資産は存在しない。これこそが暗号資産業界の「キャッチ22」だ。発行企業は登録された取引所やブローカー・ディーラーを見つけるまでは暗号資産を登録しないし、登録された取引所やブローカー・ディーラーはビジネスモデルが成立するだけの数の暗号資産が登録されるまで暗号資産の取り扱いを開始しない。
フィンテック業界のキャッチ22
フィンテック業界の現実もそれほど明るくはない。連邦政府による認可のフレームワークが不十分なため、デビットカードやローンからモバイル決済、送金に至るまで、より効率的で費用対効果の高い金融商品やサービスを開発するフィンテック企業は、銀行と提携しなければならない。こうしたフィンテック企業と銀行のパートナーシップは、バンキング・アズ・ア・サービス(BaaS)として表れている。
フィンテックスタートアップが州レベルで送金業者としての認可を受けても、決済システムに直接アクセスできるのは銀行だけであるため、決済を行うには銀行と提携しなければならない。その結果、米国では認可を受けた銀行が金融イノベーションの門番の役割を果たすことになる。金融システムの新しいアイデアは銀行を通じて実施されなければならないからだ。
また通貨監督庁は、BaaSに対する警戒を強めており、制度面やコスト面から銀行がフィンテック企業と連携を維持しづらくなるよう仕向けている。規制当局は、フィンテック企業がどのように顧客にサービスを提供し、取引を監視し、機密情報を扱うか、また銀行がどのようにこれらのリスクを管理し、規則や規制の遵守を確かなものにできるかについて懸念を表明している。
このような規制強化の姿勢と、執行措置や罰金の可能性を考え、多くの銀行がフィンテック・パートナーシップを縮小または全面的に終了させることで「リスク回避」を図っている。同時に、連邦規制当局は、フィンテック企業に対する新たな認可制度の構築や、連邦準備制度理事会(FRB)のマスター口座の開設を通じた決済システムへの直接アクセスには前向きではない。
ここにも「キャッチ22」が存在する。現在の規制環境では、フィンテック企業は銀行の積極的な協力がなければ米国で生き残れないが、連邦規制当局は銀行がフィンテック企業と提携することを望んでいない。一体どうすればいいのだろうか?
求められる連邦レベルでの環境整備
問題を解決できるのは議会だけだ。州レベルでは、2つの「キャッチ22」の解決に活発に取り組んでおり、暗号資産に関しては、ニューヨーク州が独自の認可制度ビットライセンス(BitLicense)を導入したり、カリフォルニア州がデジタル金融資産法(Digital Financial Assets Law)を制定している。またフィンテック企業に対しては、ワイオミング州が特別目的預金機関(SPDI)という独自の認可制度を導入している。
しかし、これらの州法や制度に準拠しているからといって、連邦レベルでの問題に直面しないとは限らない。ビットライセンスを持ちながら「未登録の証券取引所、ブローカー、清算機関として営業している」としてSECに訴えられているコインベース(Coinbase)や、SPDIとして認可されながらもFRBマスター口座の開設が認められず、基本的な決済サービスを直接提供できていないカストディア(Custodia)の例がある。
金融イノベーションを維持するために議会は行動を起こさなければならない。連邦レベルでの暗号資産とフィンテックを対象とした規制フレームワークの整備は、米国の資本市場と金融市場の健全性、競争力、包括性を維持するために極めて重要だ。冒頭のジョセフ・ヘラーの言葉を借りれば、暗号資産およびフィンテック企業は「永遠に生きるか、未遂に終わる(going to live forever or die in the attempt)」運命にある。
|翻訳:行武 温
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:Nikhilesh De/CoinDesk
|原文:The Catch-22 of U.S. Crypto Regulation