ある日、トランプ前大統領をテーマにしたミームコイン「MAGA」は、この分野の象徴であるドッグコインたちに並んで、ミームコインの殿堂入りを果たすかもしれない。MAGAは、コインゲッコー(CoinGecko)のデータによると、この1カ月で約400%上昇、時価総額は2億8500万ドル(約428億円、1ドル150円換算)以上に上った。
「私の意図は、ドージコイン(DOGE)や柴犬コイン(SHIB)と肩を並べるような、そんな規模と時価総額と人気を持つコインにすることだ」と、このプロジェクトのマーケティング・ディレクターで、YouTubeトークショーのホスト、スティーブン・スティール(Steven Steele)氏はCoinDeskとのインタビューで語った。
ばかばかしいと思うかもしれないが、これが暗号資産(仮想通貨)だ。
犬をテーマにした前述の2つのミームコインの時価総額は数十億ドルに達しているが、最初はジョークとして始まったことを思い出してほしい。
それ以来、柴犬コインの運営者たちは独自のブロックチェーンエコシステムであるシバリウム(Shibarium)を立ち上げ、ドージコインコミュニティも同様に、現実世界でのいくつかのユースケースに取り組んでいる。
ミームコインは暗号資産において意見の対立を招く問題だ。一部の人にとっては、世界的な暗号資産カジノの中でも、最悪で最も「ディジェン」(ハイリスク・ハイリターンな暗号資産取引の特徴と、全財産を賭けてしまうような恐れを知らない暗号資産トレーダーを意味する)的な側面を象徴している一方で、他の人たちにとっては、グローバル金融システムを再発明するという非常に困難な挑戦に伴う軽快な精神を体現している。この精神は、アバランチ(Avalanche)財団が先日、このようなコミュニティ形成のために、ジョークプロジェクトに投資すると発表したことにも表れている。
多くのミームコインプロジェクトは、トークンを有用な目的に向ける(あるいはそうしていると言う)ことで、この溝を埋めようとしている。
スティール氏は、トランプコインには実際に有用性があると述べた。これは、政治、金融、コミュニティを融合するPoliFi(DeFiのような合成語)の試みの第1章だ。
成功の予測?
スティール氏は、トランプ氏が関与する大きな出来事があるたびに「コインの価値が直接的に反応」しており、一種の予測市場のようになっていると指摘した。
「多くの投資家にとって、このコインは選挙に関する事実上のベッティング(賭け)マーケットのようなものへと進化している」とスティール氏は述べる。コインの動きが正確だと思われていることが、スティール氏にとってこのジョークコインの最も面白い部分だ。
トレーダーがトランプ陣営の成功を信じて収益を得ることを可能にする予測市場は存在するが、メカニズム・キャピタル(Mechanism Capital)のアンドリュー・カン(Andrew Kang)氏はこのトークンは、より優れた収益率を提供すると主張した。
予測市場は、ミームコインと同じようなディジェン性を批判されてきた。マクロ経済の災難に対する有効なヘッジである一方、テイラー・スウィフト氏の妊娠発表日の予測やジョン・マカフィー(John McAfee)氏がまだ生きているかどうかといった、バカげた予測も数多くある。
「予測市場は、ミームコインのようなリターンの可能性やプロフィールを提供しない。TRUMPのようなミームコインで100倍や1000倍のリターンを達成することは可能だが、予測市場は9桁のリターンを生み出すほど流動性は高くない」とカン氏は語る。
予測市場ポリマーケット(Polymarket)では、トランプ氏が大統領選に勝利する可能性に関する予測には600万ドル以上の流動性があり、50万ドルを大きく超える賭け金も存在する。
対照的に、バイデン大統領の再選の可能性についての流動性は、450万ドル弱。
ロードマップは選挙シーズン
バイデンコインはこれまでにも試みられたが、スティール氏が言うように「勢いが生まれた」ものはない。
オンチェーンデータもこれを裏付けている。最大のバイデンミームコインの時価総額は34万ドル、TRUMP(ブロックチェーン分析企業アーカム・インテリジェンスが特定したトランプ前大統領のウォレットで、最も多く保有されているトークン)保有者の7433人に対して保有者1500人と、そのオンチェーンアクティビティは相対的にゴーストタウンのようだ。
ミームコインの相対的な成功が、一部の人が予測市場に期待するように、候補者の将来性を測る正確な方法であるかどうかはよくわからない。
トークン保有者は確かにある意味、「自らリスクを負う」ことになるが、ベッター(賭けをする人)たちは価格が上がるかどうか以外について、結果の可能性を判断しようとはしていない。
ミームコイン保有者は、予測市場のベッターにはないディジェン感を抱いているのかもしれない。単純に、予測市場での賭けが終了すると、負けた側のコントラクトの価値はゼロになるからだ。トランプコインは2024年11月5日以降も生き続けるかもしれない。
「ミームの世界では、人々は扇動家、エキサイティングで予測不可能な人物、完全な反逆者としてみなされる人物を求める」とスティール氏は述べる。
「トランプ氏は、多くの人の目にはそれらの資質のすべてを体現する人物と映っている」
プロジェクトのロードマップは、選挙シーズンと一致する。
「ロードマップは、選挙関連のイベント、特にトランプ氏が関わるイベントと結びついている。選挙シーズンが盛り上がるにつれて、彼はたくさんの話題を提供してくれるだろう」とスティール氏。インターネット中毒者にとって、トランプ氏には特別に魅惑的な何かがあり、引きつけるような自然な重力がある。
そして、トランプ氏が自身をテーマにした数々の非公認コインに意図せず価値を与えてしまったように、MAGAチームはトランプのファンに恩返しをしようとしている。
スティール氏によると、MAGAを手がける分散型自律組織(DAO)が行っている活動の1つは、トランプ氏が資金調達ツールとして使用した、トランプ氏をテーマにした公式NFTの最初のシリーズを「フロア価格で買い占め」、彼の非公式トークンと公式のNFTシリーズの両方への関心を高めることだという。
「我々が買い占めを始めるまでフロア価格がそれほど良いものではなかったトランプ氏の公式NFTのシリーズ1に注力したため、かなり成功した。その結果、トランプ氏のNFT保有者の間に再び盛り上がりと興奮が生まれている」
スティール氏はまた、MAGAの売上金の一部は、児童人身売買の被害者を支援したり、ホームレスの退役軍人を保護したりする慈善活動に使われると述べた。
投票ではなく投資
NFTやDAOは、オンラインコミュニティを実現し、メンバーシップを収益化する方法を提供するものとして、長い間注目されてきた。
ユガ・ラボ(Yuga Labs)はNFTコレクション「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」でまさにこれをテストしており、NFTは実際のイベントチケットとして機能している。
しかし、BAYCのNFTコミュニティが何を象徴しているかを明確に表現することは難しい。確かに、暗号資産への関心は共有されているが、それはかなり広範なトピックだ。またBAYCの世界では、動画のトラフィックがクリティカルマスに達していないバンド「Kingship」のように、完全に失敗に終わったものもある。フロア価格の低下は、コミュニティが他に注意を向けていることを示している。
対照的に、トランプ支持者の一体感については多くが語られている。政治的、経済的権利の剥奪であれ、保守政治であれ、あるいは荒らしが好きだという共通点であれ、トランプ氏には固定票が存在する。トランプ氏が起訴された日は、資金集めにおいてこれまでで最高の日だった。
しかし、すべてのトランプトークン保有者がこのクラブの一員というわけではない。彼らは必ずしも、有権者ではない。暗号資産は、価格が上がれば誰でも購入する。
「トランプファンのためのスローガンのようなものだが、必ずしもトランプファンではない投資家もかなりいる。ただ素晴らしい投資だと思っただけなのだろう」とスティール氏は説明する。
カン氏は2月、トランプトークンに対する党派色のない投資テーゼを発表した。
この投資はアテンションエコノミーに基づくもので、アメリカの予備選挙と彼の挑発的な性格によって、トランプ氏は常にニュースの中にいる。選挙での勝利の可能性だけでなく、彼の継続的なメディアでの存在感に賭けるものであり、トランプ氏はおそらく世界で最も優れたアテンション独占者の1人だろうと、カン氏はXに書いている。
カン氏はCoinDeskとのインタビューで、「驚くほど多くの」ファンドマネージャーやVCがトランプコインに興味を示していると述べ、アテンショントークンをアルトコインのサブカテゴリーと呼んだ。
「鋭い投資家とトレーダーは、最大のリターンをもたらす次のコインを常に探しており、トランプ氏は注目を集める能力があることから、その目的にぴったりだと認識している」とカン氏は述べ、プロのトークン投資家は、HODL(長期保有)において熱狂的なMAGA支持者と並んでいると付け加えた。
Mechanism Capital has accumulated its first new positions of 2024. These new positions center around Trump and include Trump related meme coins and NFTs. Prolific usage of Trump sticker packs to start immediately.
— Andrew Kang (@Rewkang) 2024年2月5日
Basic Thesis
Meme coins are all about the attention economy and… pic.twitter.com/AXLPMmBs4u
メカニズム・キャピタルは2024年最初の新規ポジションを構築した。これらの新ポジションはトランプ氏を中心としたもので、トランプ氏関連のミームコインやNFTが含まれる。トランプ・ステッカー・パックの多用が直ちに開始される。
基本テーゼ
ミームコインはアテンションエコノミーと…
選挙後(カン氏はトランプが勝利するだろうと述べている)、コインが大きな成長を遂げた場合、「ニュースで売る」効果があるかもしれない。
「しかし、イーロン・マスク氏と関連づけられた後のドージコインの振る舞いに倣って、選挙勝利後の安定化の時期を見込んでいる」とカン氏は語った。
トランプ氏への個人的な支持について、カン氏は個人的には政治が嫌いだとして、次のように語った。
「政治について考えたり、政治にまつわる議論に時間を費やすのは好きではない。トランプ氏はそれを乗り越えるのに十分なほど、楽しませてくれる存在だ」
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ドナルド・トランプ米前大統領
|原文:Trump MAGA Meme Coins Are the First Experiment in ‘PoliFi’