LRT(Liquid Restaking Tokens:リキッド・リステーキング・トークン)のリーダーであるEigenLayer(アイゲンレイヤー)のTVL(預かり資産)は2月29日に100億ドルに迫る96億7000万ドルに達した。LRT全体のTVLは50億ドル以上に達している。
ブロックチェーンのような分散型システムでは、コールドスタート問題(セキュリティを確保するために、早期に十分なインセンティブとネットワーク効果を得ること)に対処することが極めて重要だ。リステーキングはその解決策を提供する。リステーキングでは、外部システム(例えば、ロールアップ、オラクル)をサポートするためにステーキングされたイーサリアム(ETH)を再利用する。
EigenLayerは、ステーキングされた資産の効率を向上させるこの取り組みをリードしている。しかし、リスクと責任が高まるため、投資は慎重かつ段階的に行うべきだ。
EigenLayerは、Actively Validated Services(AVS)、AVSのタスクを検証するオペレーター、検証プロセスに使用されるトークンをロックするリステーカーで構成されている。リキッド・リステーキング・プロトコル、ひいてはリキッド・リステーキング・トークンの重要性を浮き彫りにする議論を掘り下げてみよう。
安全バッファ
リキッド・リステーキング・トークン(LRT)は、イーサリアムのメインネットの保護バッファとして機能する。検証のためのAVSを選択することで、非優良AVS間で広範なスラッシング(プルーフ・オブ・ステークブロックチェーンにおいて、ネットワークのルール違反や悪意のある行為によって、ステーキングが停止されたり、トークンが失われた場合にバリデーターにペナルティを課すこと)が発生した場合でもスラッシングが拡大することを防止する。
ユーザーはeETHのようなLRTを自由にETHに戻すことができるため、ビーコンチェーン(2022年9月のマージ以降のイーサリアムPoSチェーン)から引き出す必要はない。
このメカニズムは、清算の連鎖の可能性を低下させ、イーサリアム(正確にはビーコンチェーン)からの引き出しをバックアップ防御手順として位置づける。さらに、EigenLayerのセキュリティのボラティリティの低さは、イーサリアムのセキュリティの安定性を高めることになる。
ステーキングを活性化する新たな要素
LRTは、イーサリアムブロックチェーンにステーキング・エコシステムを活性化させる新たな機会を生み出す。
従来のリキッド・ステーキングの進化版として、LRTはイーサリアムのコンセンサスプロセスに関与して、ステーキングを民主化し、確立されたリキッド・ステーキングの覇権に挑戦することを狙う。
従来のリキッド・ステーキング・プロトコルは、ユーザーから預かったETHをPoSチェーンのセキュリティ確保に投入することに対し、リキッド・リステーキング・プロトコルは、AVSの検証に資金を使用し、ロールアップ、オラクル、ブリッジなどのさまざまなシステムを検証する。
シンプルさ
バリデーターの運用には、インフラの管理、ステータスの監視、ダウンタイムへの対応といった複雑なタスクが含まれ、技術的な専門知識が必要となる。同様に、LRTプロトコルは複雑なリステーキングを舞台裏で管理し、ユーザーにとってのプロセスを簡素化する。
リスクマネジメント
LRTプロトコルは、イーサリアムのステーキング・エコシステムに複雑さを加える。コンセンサスの検証のみを行う標準的なリキッド・ステーキングとは異なり、LRTはさまざまなマーケット・ドリブンなタスクを実行でき、それぞれが多様なリステーキングの組み合わせによる独自のリスクプロファイルと利回りを持つ。
こうしたバリエーションにより、各トークンの技術的リスクと金融リスクをより深く理解する必要があり、ステーキングの状況は従来のリキッド・ステーキングの手法よりもかなり複雑になっている。
より高いETH利回りへの需要
ステーキングETHがマージ後に年間120%と着実に増加していることを考えると、ステーキングからの利回りはそれに応じて低下しているが、この傾向は衰える気配を見せていない。ETHユーザーは、ステーニングにより比較的低いリスクで追加利回りを得ることができるためだ。
そのため、リキッド・ステーキングETHはしばしば「インターネット債券」と呼ばれる。だが一方で、これが利回り向上に対する大きな需要を生んでいる。LRT市場は、リスクを合理的な範囲内に抑えながら、増大する利回り需要を活かせるベストポジションにある。
可用性(Availability)
EigenLayerに預け入れられるLSTには上限があり、上限はシステムが過熱しないようEigenLayerのチームによって設定されている。こうした制限はネイティブ・リステーキングには適用されない。
ネイティブ・リステーキングは本質的には、単独ステーキングであり、32ETHをビーコンチェーンに預け入れ、イーサリアムのクライアント・ノードを操作し、特にEigenPods(ネイティブ・リステーキングのためのパーソナライズされたコントラクト)を使用することが含まれる。ネイティブ・リステーキングを利用するLRTプロトコルには、無限の成長可能性があるという利点がある。
ガス代の効率性
リステーキングはさまざまなサービスの検証に使用できるため、AVSオペレーター(間接的にリステーキングを行う人)への報酬は、単純なステーキングと比較して、ETHだけでなく他のさまざまなトークンでも、より良い報酬が分配されるように設定されている。
これは、リソースが限られているイーサリアムブロックチェーンでは、極めてガス代を消費する作業になる可能性がある。対照的にLRTはプール全体の報酬を一括して収集し、さまざまな効率的な方法で保有者に分配する機能を備えているため、ユーザーのリソースを節約できる。
EigenLayerについての議論は、清算の連鎖中に何が起こるかという懸念や、イーサリアムのコンセンサスメカニズムに過負荷をかけるリステーキングの潜在的なリスクといった、複数の批判を指摘せずに終えることはできない。これらの懸念には賛否両論あり、時間と実際の観察のみが真の影響を明らかにできるだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Liquid Restaking Tokens: What Are They and Why Do They Matter?