ビットコイン(BTC)の円建て価格が史上初めて1000万円を超えた3月5日に始まった「FIN/SUM 2024」。最終日の3月8日に行われたパネルディスカッション「FintechとWeb3の融合は起きるのか powered by Ginco」には、メルペイ代表取締役CEOの永沢岳志氏とGinco代表取締役のの森川夢佑斗氏が登壇。暗号資産(仮想通貨)のマスアダプション、RWA(リアルワールドアセット:現実資産)、ステーブルコインなどの展望について見解を披露した。
FIN/SUMはフィンテックの最新動向や金融分野での社会課題解決などを議論するイベントで、日本経済新聞社と金融庁が主催、東京・丸の内で行われた。なお、このパネルディスカッションでは、モデレーターをCoinDesk JAPANを運営するN.Avenue代表取締役CEOの神本侑季が務めた。
メルコイン、7カ月で100万口座を突破した意味
ディスカッションは、2月15日からビットコインでの決済(商品購入)が可能になったメルカリグループの事業に関する議論から始まった。
グループ会社のメルコインは1年前の3月9日にビットコインが購入できるサービスを開始、わずか7カ月で100万口座を突破している。同じ期間、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)のデータによると、暗号資産取引所の口座数は約160万増、その大多数がメルペイの口座だった計算になる。
暗号資産事業の狙いについて問われたメルペイの永沢氏は、グループのミッションである「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」に触れ、価値の循環を推し進めるうえでまず暗号資産を「持ってもらう」というマスアダプション(一般化、大衆化)を進め、その次のフェーズとして「使ってもらえる」ようすることを意図したと説明した。
メルコインの利用者が急増した背景についてGincoの森川氏は、マスアダプションを進める上で重要と評価した。
その理由として、メルコインの利用者は、もともと暗号資産やWeb3に関心がなかった人が多く、一方で従来の暗号資産投資家はビットコイン取引で資産を増やしたいと考えている点に違いがあり、従来参入していた層とはモチベーションが異なる利用者の参入こそがマスアダプションにつながるとの見方を示した。
RWAの可能性と課題、メルカリはどう向き合うのか
モデレーターの神本から、Web3事業の展望を問われた永沢氏は、アルトコインの取り扱いや積立機能など、他の暗号資産交換業者が行っている事業を例に挙げ、「事業者としてやれそうなことはやっていく」とした上で、メルカリならではの取り組みとして、デジタルアセットを取り扱えるデジタルマーケットプレイスを目指すとの考えを示した。
例としてRWA(現実資産)について触れ、トレ‐ディングカード(トレカ)やチケットなどについて言及。トークン化、オンチェーン化するかどうかとは別として、デジタルアセットが循環する仕組みを作りたいとの構想を披露し、「既存のプレイヤーと同じことをやってもメルカリとしてのユニークさは出てこない。デジタルアセットに(事業を)広げられたら面白い」と話した。
森川氏はRWAについて、「あえて課題感を述べたい」として、RWAは現実資産という名前が示しているように、デジタルネイティブではないため、どうやって確からしさや価値を担保・証明するか、さらにどうやってブロックチェーン上でそれを表象するか、誰がどう認証するかなどが大変だと指摘。さらに、資産の倉庫での保管などオペレーション面でもハードルがあると説明した。
その上で、Web3の世界は分散型、非中央集権型であり、それが「美しい」と評価された側面があるとしながら、RWAを扱う上では大企業や大手の金融機関などが(中央集権的に)介在せざるを得ないし、むしろそうなるべきだとの意見を述べた。
その理由として、高級腕時計のレンタルサービスを提供していたスタートアップが突然事業を閉鎖、預かった腕時計を勝手に売却していたと見られる事件を引き合いに出し、信頼性の担保はスタートアップではなく、大企業がやるべきだし、ユーザーもそれを求めているなどと述べた。
商品の真贋鑑定について永沢氏は、メルカリが3月4日から始めた取り組みを紹介、ブランドバッグやスニーカーなど一部の商品・カテゴリについては、手数料を払えば業者に鑑定してもらえる新サービスを紹介し、来場した企業関係者にパートナーを求めているなどと呼びかけた。
法制化されたステーブルコイン、どんなユースケースが生まれる?
ディスカッションの終盤には、話題はセキュリティ・トークン(ST)やステーブルコインに広がった。モデレーターの神本は、ステーブルコインについては世界に先駆けて日本で法制化されたことに触れた上で、いちはやく活用の検討を始めたGincoの森川氏にその狙いを問うた。
Gincoは三菱UFJ信託銀行やProgmatなどとステーブルコインの発行の検討を進めており、森川氏は検討している用途の例として、暗号資産交換業者同士のカバー取引の精算を置き換えることを挙げた。
カバー取引とは、暗号資産取引業者(取引所)が、顧客からの取引注文を成立・約定させるために、別の取引業者に注文して約定させる取引のことで、リクイディティ(流動性)を維持・供給して取引のリスクを抑える役割がある。
森川氏は、海外ではテザー(USDT)やUSDコイン(USDC)など米ドルにペッグされたステーブルコインなどが使われているが、日本には取引所がカバー取引で使える日本円ペッグのステーブルコインがなく、銀行送金が使われていると説明。
カバー取引は国内取引所同士だけでなく、海外取引所との間でも行われており、銀行送金では時間も費用もかかるとし、「月間で数千億円規模」もあると述べ、利便性を上げる意味でも、カバー取引に日本円連動型ステーブルコインを用いることはやったほうがいいなどと重要性を強調した。
永沢氏はステーブルコインのユースケースについて、「(メルカリのような)toCのビジネスでは難しい」としながら、資金移動業者であり送金事業に関われるメルペイとして、「ステーブルコインだからこそできることを作っていかなければいけない」との考えを表明、そうしたユースケースを作ることが、フィンテックとWeb3の融合にもつながるとの見解を示した。
|文・撮影:瑞澤 圭
|トップ写真:左から神本侑季、Ginco代表取締役の森川夢佑斗氏、メルペイ代表取締役CEOの永沢岳志氏
※編集部より:一部本文を修正して、更新しました。