世界最大の保険ブローカー「マーシュ・アンド・マクレナン(Marsh & McLennan)」は、新興の仮想通貨カストディアン「ノックス(KNØX)」向けに非常に寛大かつ包括的な保険プログラムを用意した。
カナダ・モントリオールに拠点を置くノックスは2019年9月24日(現地時間)、資産管理人やヘッジファンドをターゲットに、暗号化された秘密鍵をオフラインで保管するコールド・ストレージ・サービスを発表した。潜在顧客にさらに安心を与えるために、マーシュが用意した保険は、外部による盗難と内部による犯行の場合に、最大で保有資産の全額を補償する。
一方、仮想通貨をカバーする保険は多くの場合、カストディアンの複数の顧客によって共有されているとノックスの共同創業者兼CEOのアレックス・ダスカロフ(Alex Daskalov)氏は述べた。
例えば、10億ドルの資産を保管し、1億ドルの保険を宣伝しているカストディアンは、10%にだけ保険をかけている可能性があり、その場合、顧客は誤った安心感を与えられているとダスカロフ氏は語った。顧客が合計1億ドルの損失を被った場合には、1000万ドルのみが補償されることになる。
ノックスの保険プログラムはこのような曖昧さを取り除くためにマーシュとともに開発された。ダスカロフ氏は次のようにCoinDeskに語った。
「保険を契約したが、その補償内容をはるかに超えた資産を保有する人は少なくない。だから我々にとって、顧客が弊社に資産を預ける場合には、その資産の全額に保険がかかっているという保証が重要だった」
とはいえ、補償範囲は無制限というわけではない。「もちろん、上限はある」とダスカロフ氏は認めつつも、具体的な額には言及しなかった。
仮に顧客から1億ドルを超える資産を預かった場合、それに保険をかける用意はあるのかという質問に、ダスカロフ氏は「問題ない」と回答した。この金額を理解するために一例をあげると、最近まで仮想通貨業界で最大の補償額は、コインベース(Coinbase)の最大2億5500万ドル(約270億円)と伝えられていた。
マーシュのシニア・バイスプレジデント、ジェニファー・ハストウィット(Jennifer Hustwitt)氏は、ノックスのソリューションによって提供されている補償内容は、保険会社アーチ(Arch)が主導し、ロンドンのロイズ(Lloyd’s)のさまざまなシンジケートによってサポートされているとCoinDeskに語った。
新たに資金を調達
ノックスは最近、620万ドル(約6億7000万円)を調達、資金調達ラウンドはイニシャライズド(Initialized)とイノヴィア(iNovia)が主導し、フィデリティ・インベストメント・カナダ(Fidelity Investment Canada)、FJラボ(FJ Labs)、ファースト・キャピタル(Ferst Capital)が参加した。
ダスカラフ氏は、カストディサービスを提供し、顧客の資産の100%を補償するにあたり、手数料は資産の1%から始め、事業の進展に応じて徐々に下げていくと述べた。取り引きのために顧客の資産をコールドストレージから取り出すには、通常1時間かかる。だが、サービス品質保証(SLA)はより保守的になっているとダスカロフ氏は語った。
一方、多くはないが、仮想通貨保険の補償範囲はブロックチェーン・セキュリティ企業ビットゴー(BitGo)がロイズによる1億ドルの補償額を宣伝したり、コインベースが世界第2位の保険ブローカー、エーオン(Aon)と新しい手段を検討していることもあって、ますます定期的にニュースに取り上げられるようになっている。エーオンはまた、カストディサービスを提供するアンカレッジ(Anchorage)やボルト(Volt)とも連携している。
マーシュのハストウィット氏は、ここ6カ月間にデジタル資産リスク向けの補償額には拡大が見られたと語った。
以前は参加していなかった保険会社の中には、プログラムに参加し始めている会社もあり、それが保険契約の額と規模を上昇させているとハストウィット氏は語った。
「いつの時点でも、補償額の全体量はリスク次第。それでも、保険市場全体で7億5000万ドル(約810億円)から10億ドル(約1100億円)の潜在的補償額がある」
注意点は、参加する保険会社と補償額は月ごとに変化する点とハストウィット氏は述べ、次のように締めくくった。
「弊社の現在の実績は10億ドル。契約を結ぶごとに新天地を切り開いている」
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Vault via Shutterstock
原文:In Rare Deal, Crypto Custodian Wins Insurance on Full Value of Client Assets