イーサリアムの大規模イベント「デブコン」日本初開催、10月8日から──財団・宮口氏に意気込み聞く

ビットコインに次ぐ規模の暗号資産・仮想通貨「イーサリアム」。時価総額およそ1兆9500億円は、日本企業でいうと第一生命ホールディングスやNTT データ、塩野義製薬などと同程度だ。そのイーサリアムの開発者が世界中から集まるカンファレンス「デブコン5」が10月8日から11日、大阪で開催される。

日本での初めての開催を前に、イーサリアム財団のエグゼクティブ・ディレクター宮口礼子氏に、イーサリアム、そして財団が目指すもの、デブコン開催への意気込みを聞いた。

ブロックチェーンも「コモンズ」になる

──イーサリアムはICOから5年たちました。暗号資産業界では5年は長い年月です。ビットコインに次ぐ存在として認知されていますね。

最初の段階がよかったと考えています。ヴィタリック・ブテリンは、お金もうけではなく、世界をよくするためにイーサリアムを考案しました。プロジェクトは創始した人の影響を受けます。

――あらためてイーサリアム財団の位置づけを教えてください。

イーサリアム財団はブログで、「イーサリアム財団はリソースを割り当てる団体であり、エコシステム内における声であり、世界に向けてイーサリアムを普及する団体である」と述べています。

ethereum
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現在、プライオリティを置いているのは、開発ツールを充実させることです。まずは開発者の支援を行っています。まだ若い業界なので、開発者が入って来やすい環境を整えなければいけません。その次に課題になるのはユーザビリティなどの問題でしょう。

――財団は、イーサリアムの活用を目指す企業の団体であるEEA(Enterprise Ethereum Allianceイーサリアム企業連合)と提携されましたね。

イーサリアム財団とイーサリアム企業連合はこれまで、別々に作業を行っていましたが、提携した今後は、相互にコミュニケーションを取りながら、イーサリアムをより使いやすいものにしていけると考えています。

インターネットが現在では社会のコモンズ(公共財)になったように、ブロックチェーンも、コモンズになると考えています。公益やパブリックなことの多くは、ブロックチェーンで実現できるのではないでしょうか。ブロックチェーンを使うことで、既存のシステムよりも、効率よく、安価に適切に、公共財を提供できるようになると思います。

インターネットとブロックチェーンの相違点

――ブロックチェーンをインターネットになぞらえられましたが、両者は相違点とともに並べて語られることが多いですね。

ブロックチェーンとインターネットのビジョンは似ています。しかし、インターネットではビジネスが乗っていくことで歪みが出てきたとも言えます。

たとえばビジネスでは企業は大きくなることを志向します。それが資本主義においては正解です。現在ではGAFAM(編注:Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)の大企業が、インターネットの中心にいます。

しかしブロックチェーンでは、大きな力や組織はあくまで分散の一極になると考えます。

――インターネット時代からブロックチェーンの時代になって大きく変わることはあるのでしょうか。

資金調達環境でしょう。たとえばイーサリアムはオープンソースですが、オープンソースの開発者は、資金の理由で開発の継続は難しい。しかし暗号通貨の世界には独自のファンディング手法があります。これは暗号通貨の革命の一つといえるでしょう。

あるプロジェクトのトークンを保有して開発をしていけば、プロジェクトの成長と共に、トークン価値は上がります。オープンソースの技術者にとって、純粋に開発を続けていき世の中をよくしていくことが、資金面でもプラスになるのです。これはインターネットの時代にはできませんでした。

――オープンソースであるからこそ、プロジェクトのマネジメントはかえって難しいのではないでしょうか?

たしかに、オープンソースプロジェクトのマネジメントは、(企業などが)プロジェクトを作って取り組むより時間がかかります。

しかし、イーサリアム財団は「財団がないと存続できない」という姿は目指していません。財団がなくなっても(イーサリアムというプロジェクトが)うまく進んでいく環境をつくることを目指しています。

その実現にあたっては、課題もたくさんあります。まだ始まったばかりなので完璧さを求めてはいけないと思っています。むしろうまく行かないことを前提にして取り組んでいくしかないと思います。

デブコンはイーサリアムの原点を理解する場

――10月8日からいよいよ日本で初めてデブコンが開催されます。今回はどのような場にしたいと考えていますか。

トップが何を考えて開発しているかが見える場所にしたいと考えています。「フィロソフィーに触れられる場所」と述べたことがありますが、そもそもイーサリアムが何を目指しているのかを分かる場所にしたいです。

――今回、5回目の開催ですが、初期と比べて違いはありますか?

イーサリアムが始まった初期は、ヴィジョンに共感して、情熱をもって参加する開発者が多かったです。

しかし仮想通貨のバブルが生まれ、「儲かるから」「ホットだから」という理由で参加する開発者も多くなってしまいました。

ethereum 宮口礼子氏
イーサリアム財団の宮口礼子氏

こうした中、デブコンは「イーサリアムが社会に対して何をできるのか」という原点を理解する場にしたいと考えています。それが「社会とシステム」というテーマを入れた理由です。

チケットは高い(編注:デブコン5は999ユーロ、日本円で12万円ほど)ため、スカラシップ制度を使って、アフリカで実際にイーサリアムを使って社会問題を解決している人を呼びたいと考えています。

このような社会問題の解決には、先進国では規制の整備が進んでいることもあって、新しいプロジェクトをとりあえず走らせることはかえって難しくなっています。だからこそ、まずは小さな場所やコミュニティから始めて、その事例を先進国などもっと大きな場所で実施してみるのがいいと思っています。

取材・文・写真:小西雄志
編集:濱田 優