ゴールドマン・サックス資産運用部門責任者の暗号資産批判を弁護してみる

暗号資産(仮想通貨)エコシステムは、もっと分別を持っているべきと見なされている、知識不足の伝統的金融の専門家たちによる暗号資産懐疑論をすぐに非難する。

最近では、ゴールドマン・サックス・アセット&ウェルス・マネジメント(Goldman Sachs Asset & Wealth Management)の最高投資責任者であるシャーミン・モサヴァー-ラーマニ(Sharmin Mossavar-Rahmani)氏がウォール・ストリート・ジャーナルで語ったコメントに対する反応がそれだ。

ここでは批判を助長するつもりはない。そうすることがどれほど満足感を与えてくれるとしても。

その代わりに、同氏の発言を擁護してみようと思う。はっきり言って、同氏の言ったことのほとんどには同意できない。しかし、反対意見をよりよく理解することは、暗号資産の可能性をより強く支持することにつながると信じている。それに、イライラを抑えることができ、幸福につながる。楽しい頭の体操にもなる。

まずは全体像と背景から。

まず、モサヴァー-ラーマニ氏はゴールドマン・サックスでの31年間を含む、素晴らしい投資経歴を持つ。それは簡単なことではなく、尊敬に値する。

第2に、同氏は世界中に約4万人の従業員を抱えるゴールドマン・サックスを代表しているわけではない。アセット&ウェルス・マネジメント部門のトップであり、暗号資産エコシステムに関わっているセールス&トレーディング部門やインベストメント・バンキング部門ではない。

第3に、一部の暗号資産メディアは、モサヴァー-ラーマニ氏の発言により、ゴールドマン・サックスが「圧力にさらされている」あるいは「批判に直面している」と騒いでいる。

ゴールドマン・サックスが暗号資産関係者の怒りを気にしているかどうかは大いに疑問だ。そして同社のウェルス・マネジメント部門の顧客は、必要であれば、他の場所で暗号資産へのエクスポージャーを見つけることができる。

しかし、同氏の発言は投資マネージャー、特に暗号資産についてわざわざ学ぶ必要がないように言い訳を探している人たちの間で重みを持つため、ウォール・ストリート・ジャーナルでの発言は議論に値する。

順に紹介しよう。

1)「私たちは暗号資産を投資資産クラスとは考えていない」

前提で触れたように、「私たち」とはゴールドマン・サックスのことではなく、アセット&ウェルス・マネジメント部門のことだ。

同氏のデジタル資産に対する理解の浅さを笑うことは簡単だろう。というのも、デジタル資産は活発な市場で取引され、人々が投資するという点で、明らかに「投資資産クラス」だからだ。

しかし、この用語の公式定義はさまざまなことがわかった。ChatGPTの次の定義は、私が調べた他の多くの定義と一致している。

「似たような金融特性を持ち、同じ法律や規制の対象となり、一般的に同じ金融市場で取引される金融商品のグループ」

モサヴァー-ラーマニ氏は、少なくともアメリカでは暗号資産をめぐる規制基準がないことを指していたのかもしれない。もしこの2番目の条件が本当にゴールドマン・サックスの定義の一部であれば、暗号資産は投資資産クラスには当てはまらないことになる。いずれにせよ、今のところは。

また、「似たような金融特性」は少し言い過ぎだ。ステーブルコインはビットコイン(BTC)とは大きく異なり、ビットコインはアバランチ(AVAX)、BONKなど、多くのトークンとは大きく異なる。

同氏は、暗号資産が投資可能かどうかではなく、カテゴリーの特徴について話している可能性があることを念頭に置くべきだろう。

2) 「価値を決められないのであれば、強気にも弱気にもなれないのでは?」

これには強い異議を唱えやすい。私たちは皆、何かが上がったり下がったりすると信じることに具体的な価値が必要ないことを知っているからだ。

また、暗号資産を正確に評価できないことも周知の事実だ。その理由は、ここで取り上げるには多過ぎる。しかし、強気派と弱気派には事欠かない。だから、明らかに、そして証明可能なほどに間違っているのだろうか?

とりあえず、モサヴァー-ラーマニ氏の立場になって考えてみよう。同氏は投資顧問部門を経営しており、かなりの精査と官僚主義にさらされている。

同氏は、他人の金を使って説明しにくいリスクを取ることで、特に熾烈な組織で31年以上も生き延びてきたわけではない。昔ながらの投資アドバイザーは、顧客に対して自らの判断を正当化する必要があり、投資がうまくいかなかった場合に備えて「自分がやっていることを見せる」必要がある。同氏のチームがビットコインにモデルベースの価値を割り当てることができなければ、売買の推奨はできない。

私たちのほとんどには、ゴールドマン・サックスのような制約があるわけではない。私にとっては、「上昇」で十分であり、「フィーリング」に基づいて、いくらか利益を出すかもしれない目安の数字を持っている。私が取材をした他の投資アドバイザーも目標水準を提示しているが、それは検証された方法に基づいていない。

ゴールドマン・サックスには非常に頭の切れる投資アナリストがたくさんいて、きっと正当なモデルを考え出すことができるだろう。他の有名企業もそうしてきたし、たとえ意見の一致が少なくても、重要なのはその理由だ。

その課題はさておき、ウォール街の大黒柱を自任する同社にもっと期待する権利が私たちにはあると思う。「公式」モデルが存在しないというのは、怠惰な考えのように思える。

しかし、モサヴァー-ラーマニ氏の仕事は安全策をとることだ。その意味では、同氏のコメントは的外れではない。

3)「(暗号資産は)どんな形であれまったく価値を生み出さない」

これは擁護しがたい。暗号資産は幅広いサービスやユースケースを提供し、それらには価値がある。仮にビットコインに話を絞ったとしても、通貨安や限られた金融アクセスに苦しむ人々にとっては明らかに価値がある。

しかし、投資の専門家の間でさえ、「価値」という言葉は非常に誤解されていることがわかった。私たちの多くは、その概念は実用性、評価、満足感、帰属意識、その他多くの感傷的なメリットと関係があると思い込んでいる。芸術には「価値」があり、花や友情にも「価値」がある。

しかし、もしかしたらモサヴァー-ラーマニ氏は、前のセクションで見た「割り当てられた価値」のことを言っているのかもしれない。もしかしたら同氏は、確立されたモデルが数字を弾き出さなければ価値はない、という意味で言っていたのだろうか?

いや、諦めるしかない。これは弁解の余地のないものであり、怠惰であるとしか言えない理解力の欠如を示している。誰も同氏の知性を疑っていないのだから。

「絶対に」価値がない?「どんな形であれ」? ため息が出る。弁護しようとしてみたけれど、無理だった。

4)「主要な決定は結局、少数の支配的な人々によって左右される」

この件に関しては実際、同氏は大方正しい。私としては「いくつかの主要な決定」あるいは「いくつかのネットワーク上の主要な決定は」といった修飾語を加えることを提案する。しかし、全体として「分散化」がしばしば誤用される言葉であることには同意する。

そしてまた、「分散化」は二元的な条件ではない。程度の差が存在する。そして、多くのネットワークは、約束したように、より大きな分散化に向けて徐々に取り組んでいる。

そして次は、インタビューの中でおそらく最も暴露的なコメントだ。

5)「少なくとも、現物の金を保有して保管することはできる。暗号資産ではそれができない」

ゴールドマン・サックスには金を勧めない長い歴史がある。一説によれば、投資銀行部門は金を発行しても儲からないが、株式や債券の発行を支援すれば大儲けできるからだという。

そのような説を信じているわけではないが、大手投資顧問会社がこのような重要な資産を無視するのは異常なことだ。

おそらく、金も具体的な「価値」を生み出していないからだろうか? 金にはキャッシュフローも配当もない。そして、具体的な価値がないのであれば、アドバイザーが弱気になったり、強気になったりできないではないか? そして、金は実際に価値を「創造」し、何かを作り、利回りを生み出すのだろうか? NOだ。

この発言は、他のことについて多くを露呈していると思う。作り出される必要があるものという、モサヴァー-ラーマニ氏の「価値」の定義が浮き彫りになっている。彼女にとって、価値とは具体的なアウトプットを必要とするものなのかもしれない。

また、同氏の暗号資産の仕組みに対する理解の浅さも浮き彫りになっている。多くの暗号資産には具体的なアウトプットがある。そして、そのほとんどが保有・保管が可能だ。

このコメントは金投資に対する限定的な見方を示唆しているとも指摘したくなる。機関投資家や富裕層の金投資家で実際に地金を保有している人はほとんどいないからだ。

しかし、一歩下がって考えてみると、この頭の体操のポイントは、すべての暗号資産批評家がすべてについて間違っているわけではないことを示すことであり、受容の障壁がどこにあるかを正確に理解することは有益である。また、相反する見解が市場を形成し、長期的にはそれほど重要ではないことを認識することも有益だ。

さらに重要なことに、最初は暗号資産の概念を拒絶していた私たちが個人的に知っているすべての人々ことを考えると満足感が得られる。金融の歴史に精通し、賢く、教養のある彼らは、最終的に私たちの見ているものをよりよく理解するために努力をしようと決意し、全員が態度を転換させた。

もしかしたらモサヴァー-ラーマニ氏もいつか考えを改めるかもしれない。そうはならないかもしれない。それは問題ではない。

かつて懐疑的だった友人たちが開かれた心で私たちの視点にアプローチできるのであれば、私たちも批評家たちに同じようにアプローチしてみるべきだ。少なくとも、私たちがどこに焦点を絞って説明する必要があるのかをよりよく理解する助けになるだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ゴールドマン・サックス・アセット&ウェルス・マネジメントの最高投資責任者シャルミン・モサヴァー-ラーマニ氏
|原文:Defending Goldman Sachs’ Latest Crypto Criticism