セキュリティ・トークン流通市場「START」、開業3カ月の現状と今後──時価総額60億円から2年で1000億円を狙う:朏CEO

セキュリティ・トークン(ST、デジタル証券)国内初のセカンダリー・マーケット(流通市場)となる大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)の私設取引システム「START(スタート)」が昨年12月25日に開業してから3カ月強が経過した。

セキュリティ・トークンの2023年度の発行総額は、STの管理・発行基盤を手がけるブーストリー(BOOSTRY)によると900億円を突破、前年度比5.8倍と急成長。この数字は、上場REIT市場の年間発行額の31%にあたり、資本市場の中でも大きな割合を占めるようになったという。

CoinDesk JAPANも国内メディアとして初めて、セキュリティ・トークンの二次流通データの掲載を開始。「START」が現在取り扱っている2銘柄「ケネディクス・リアルティ・トークン ドーミーイン神戸元町(デジタル名義書換方式)」「いちご・レジデンス・トークン-芝公園・東新宿・都立大学・門前仲町・高井戸・新小岩-(デジタル名義書換方式)」の取引情報・ヒストリカルデータを表示している。

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(「セキュリティ・トークン最前線」トップページ、掲載は赤枠部分)

発行体と証券会社の双方にアプローチ

「12月25日の開業セレモニーで、まず取扱銘柄/取扱時価総額を増やし、その後は商品の種類を増やしたいと述べた。商品の種類を増やすことには時間がかかるので、現状すでに発行が進んでいる不動産STと社債ST、特に発行数が多い不動産STの取扱銘柄/取扱時価総額を増やしていきたい。現状、まだ2銘柄で時価総額はそれぞれ約30億円、取引高は2銘柄合わせ1日平均60万円ぐらい。当初、想定していた数字からそれほど外れてはいないが、まだまだこれからだ」

こう語るのは、大阪デジタルエクスチェンジ代表取締役社長の朏 仁雄(みかづき きみお)氏。不動産STの取扱銘柄を増やし、取引高を増やすことを喫緊の課題と位置づけ、発行体と証券会社の双方と日々、積極的に交渉を進めている。

(START開業セレモニーで挨拶する朏CEO/提供:START PR事務局)

同氏が発行体と証券会社にアピールしているのは、ST発行時には「START」での流通を前提としましょうという点だ。すでに約30件になる発行済みSTも取り扱うようにすれば良いのでは? と思うが、STは有価証券であり、取り扱いは厳密に定められ、目論見書に記載されている。

また「START」で取り扱うということは、証券会社を超えた取り引きを行うことであり、デジタルデータの特性として、商品のコアな部分はもちろん、細部まで共通化されていなければならない。そのため、発行時点で「START」での流通を前提としてもらうことが必須と朏氏は強調する。

「2つ目に取り組むべきは、商品のタイプとして、社債STを取り扱っていくこと。仕組み的にはもう取り扱いは可能だが、不動産STと同様に共通化が必要。今、START運営委員会を作り、新しいプロダクトの取り扱いや取引方法などを議論している」

着地の見えない協議

大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)は2021年4月にSBIグループをはじめとする大手金融機関の共同出資によって設立、2022年6月にまず株式の私設取引システム(PST)を開始した。セキュリティ・トークン(ST)のセカンダリー・マーケットを作るための会社だが、規制当局の認可が必要になるため、実績として先にビジネスを始めておいた方が良いだろうと判断した。株式のPTSはすでにSBIグループ内に存在しており、立ち上げは比較的スムーズだった。

一方、STのPTSは初めての試み。さらに具体的な検討を始めた当時は、発行体も、発行されているSTも「まだ数えるほどしかなかった」と朏氏は振り返る。発行総額も今では約1200億円になっているが、当時は100億に届くかどうか。そうした状況の中で、すでに発行されていた不動産STと社債STを対象にマーケットを作ることを構想して証券会社、銀行などの関係者を交えて協議を開始した。

「一番大きな課題となったのが、各社が使っているバックオフィスシステムとどう連携させるか。例えば、A社が組成した商品は、そのままではB社で扱うことはできない。証券会社、銀行、信託銀行、プラットフォーマーを交えて、共通化の協議を始めた。各社が使っているフォーマットや仕組みを掛け合わせると、膨大なパターンになり、共通化は必須だった。まだ完全に解決できていない面もあるが、開業の12月25日までほとんど共通化の話だった」

しかも、まだ数銘柄しか発行されていない時期に協議を始めたので、「本気でやるの?」みたいな感触もあったという。朏氏は「参加していただいた各社には申し訳ないぐらい負荷をかけた」と振り返る。

こうして、共通化した方法で初めて発行されたのが、現状取り扱っている2銘柄だ。目論見書にも、ODXの「START」で取り扱うと記載されている。

「不動産STのすべてをカバーするとは言わないが、概ね業界標準ができたと考えている」

ポートフォリオの入れ替えニーズ

開業を主導したSBI、そして参加した各社にとってもSTARTは先行投資だったが、2023年度に発行金額も件数も急増したことを踏まえると、STに対する期待は高い。朏氏はST購入者の中にリピーターが増えていると指摘した。

「リピーターが増えると、ポートフォリオの入れ替えニーズが生まれる。投資家が売却を望むSTは、今は証券会社が買い取っているが、証券会社は本来、資産を保有する会社ではない。つまり、STを数多く手がけている証券会社ほど、セカンダリー・マーケットの必要性を強く感じている。現状の2銘柄で言えば、証券会社は大和証券とSBI証券だが、近いうちに野村証券も参加し、すでに発表された案件に関連して、東海東京証券もSTARTでの取り扱いを申請の見通しだ」

不動産STの取扱銘柄が増え、社債STもカバーした次は、さらに商品のタイプを増やしたいと朏氏は考えている。

「例えば、飛行機などの動産が検討されている。すでに技術的には可能だが、収益モデルや税制上の課題があり、それほど簡単ではない。いずれにせよ、投資家が欲しがる商品を扱っていきたい。STに使われる受益証券発行信託というスキームは非常に優れた器なので、器の中に入れるものを工夫していきたい。最近、RWA(リアル・ワールド・アセット)のトークン化が注目を集めているが、STはその代表例であり、今後、アセットを何にするかが重要という話だ」

投資家は投資機会を求め、発行側は資金を求めている。資本市場は両者をマッチングする役割を担うが、従来のマーケットは単に投資側、調達側という「乾いた関係」だったと朏氏は考えている。

「STなら、投資家の情報がリアルタイムで把握でき、マーケティングでの活用につながる」

CoinDesk JAPANでも伝えたように、丸井グループの社債STは、利回りを金銭だけでなく、ポイントで支払っている。従来、投資は富裕層が行うイメージがあったが、STで1口1万円まで小口化することで、丸井は自社の多くの顧客に社債STを販売できた。さらに、利回りをポイントで支払うことで社債STを購入した顧客の購買行動を促進する相乗効果が生まれている。

「こうした味付けがあるものを流通させたい。また、今は未上場株式のようなハイリスク・ハイリターンな案件に個人投資家が直接投資できる機会はないが、STファンドのようなものができ、小口化されて個人投資家に販売されるようなものができると面白い」

リスク・リターンの「乾いた」関係を面白く

セキュリティ・トークン市場は大きく成長しており、不動産に投資したい投資家と資金調達を望む発行側を結びつける新たな手段となりつつある。だが、日本では「新しいビジネスのために資金を調達したい人と、多少のリスクがあっても面白いこと、夢を感じることに投資したいという人がうまく出会えていない」と朏氏は力説する。

「ここがうまくいけば、日本の資本市場の構造が変わると以前から考えていた。もちろん、ベンチャーキャピタルや機関投資家がいて、広い意味では個人投資家のお金を集めて投資しているが、それだけでは投資家としては面白くない。個別の銘柄が見えるわけでも、ワクワク感があるわけでもない。リスクとリターンだけの『乾いた関係』になる。そこが、いわゆる直接金融によってもう少し投資家と投資先が近づくような関係ができると面白いと考えていた。例えば、BtoCのサービスを提供している会社があり、投資をどんどん小口化できれば、ユーザーである消費者が投資家になり、投資家が消費者になり得る」

また現状、セキュリティ・トークンは安全性・信頼性を確保する意味でパーミッションド・ネットワーク上に構築されているが、ブロックチェーンが生み出す可能性をより拡大するためには、パーミッションレスなパブリック・ブロックチェーンにチャレンジしたいと語る。パブリック・ブロックチェーンで、投資家と投資先の直接金融が実現すれば、START、さらにはODXのような取引所の存在意義が問われるようになるが、ブロックチェーンが実現するイノベーションに向けた第一歩と考えている。

「まずはこの先2年ぐらいで取扱時価総額1000億円を超えたい。今は60億円だが、1000億円まで持っていきたい。そうなれば、どれくらいの人が、どれくらいの頻度で取引するかはイメージできているので、取引高も増えていくと考えている。ある程度の余裕が生まれれば、新しい商品を開発して流通させていきたい。最初はコストにしかならないが、チャレンジしていきたい」

2024年度は、社債STの取り扱いを早期に実現させ、不動産STはすでに数件、引き合いが来ているので、着実に取扱銘柄を増やしていくと朏氏は語った。

|インタビュー・文:増田隆幸
|写真:小此木愛里