ウォーリー・アデエモ(Wally Adeyemo)米財務副長官の米上院銀行委員会での証言は、不正金融に関する紛れもない現状報告であり、暗号資産(仮想通貨)が大きなテーマであることは間違いない。ロシアが「暗号資産」を使って制裁を回避したり、武器を売買しているというニュースが話題になっているので、なおさらだ。
連帯責任を背負わされる暗号資産業界
過去数年間、暗号資産は記録的な下落、市場操作、詐欺、追跡可能な不正金融の(比較的小規模ではあるが)明確な事例など、波乱に富んだパフォーマンスを残してきたものの、メディアが「暗号資産」という言葉を総称として使うのは不誠実だ。
多くの場合、トルネード・キャッシュ(Tornado Cash)やテラ・ルナ(Terra-Luna)のような単一のプロダクト、ブロックチェーン、プラットフォームが悪質な活動の中心となっている。暗号資産業界は銀行業界と同様に一枚岩ではない。
しかし、銀行とは異なり、「暗号資産」と大々的に書かれることで、不正行為のほとんどが個々の事業体やプロダクト、その他のサービスに起因しているにもかかわらず、業界全体は不釣り合いに重い悪評を背負っている。
TRM Labsの最新レポート「The Illicit Crypto Economy(不正暗号資産経済)」はそのことを浮き彫りにしている。このように「暗号資産」という総称的な用語を使い続けることは、一銀行の悪行をすべての銀行のせいにするようなものだ。
もし世界中の銀行が、2022年にロシア絡みのマネーロンダリングで2120億ドル(約32兆円、1ドル152円換算)の罪を認めたダンスケ銀行のような一銀行の罪を償わなければならないとしたらどうだろうか?
明確な法律の整備を
上院議員らは、アデエモ氏の重要な証言を検討する一方で、消費者、市場、そして国家安全保障に最大の脅威をもたらす暗号資産業界の一角を規制するために、5年以上にわたってアメリカが無為無策であったことの結果についても検討すべきだ。
ジャネット・イエレン財務長官からジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長(およびアデエモ財務副長官)に至るまで、アメリカの政策立案者や規制当局者は皆、議会に対して行動を求めてきた。彼らは特に、ドル建てステーブルコインに注目しており、その多くはアメリカの金融犯罪コンプライアンス法に責任を負うことなく、ドルの信用を裏付けにしている。
この重大な規制上のギャップは、過去2年間、精力的に作成が進められ、下院金融サービス委員会を通過した「Clarity for Payment Stablecoin Act(決済用ステーブルコインのための明確化法)」の早急な可決によって対処できる。
懐疑的な上院議員や下院議員も、この重要な法案を、暗号資産の一部のプロダクトやサービスの行き過ぎた行為者や悪行を正当化する法律の体系とみなすのではなく、その規格にかかわらず、あらゆるデジタルドルに対するアメリカのリーダーシップを主張するものとみなすべきだ。
重要なのは、この法律は、すべてのステーブルコイン発行者がアンチマネーロンダリング、テロ資金供与対策、制裁義務を遵守するための基盤を設けることだ。これらの規範は、アメリカの決済用ステーブルコイン発行者だけでなく、アラブ首長国連邦、香港、シンガポールなどの法域からドル建てステーブルコインの発行を認可されている海外の発行者にも適用されるべきだ。
USDコイン(USDC)の発行元であるサークル(Circle)は、アメリカで規制されている送金事業者として、また米財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)に登録されているマネーサービス事業者としての義務のもと、今日これらの規範のすべてに従っている。
アメリカのリーダーシップ維持に向けて
規制されたステーブルコインとそれに対応するバリューチェーンには、違法行為への使用を制限する効果的な抑止力がある。法律を遵守し、規制されている同業金融機関と協力し、金融の健全性を維持することは、大きな違いを生み出す。
これが、第三者機関の報告によると、USDCが99.95%の割合で合法的な目的に使用されている理由だ。リスクのない金融システムは存在しない。だからこそ、優良な暗号資産企業、銀行、ノンバンクは、法執行機関とともに、不正金融との闘いに集団防衛モデルを採用することが有益だろう。
暗号資産業界は、トラベル・ルール(マネーロンダリングやテロ資金供与を防止するための国際的な情報共有基準を定めたもの)を運営レベル、技術レベルで幅広く遵守している。
また、コインベース(Coinbase)と少なくとも他の58の暗号資産企業が採用しているトラベル・ルールコンプライアンスのための規格「TRUST(Travel Rule Universal Solution Technology)Network」の一部でもある。
動きの遅い政策立案者たちは、金融活動作業部会(FATF)の勧告16に基づき、暗号資産取引に関する世界的に調和されたルールをいち早く確立し、国際的な暗号取引にトラベル・ルールを課している世界有数の金融犯罪コンプライアンス機関が示した模範を参考にするとよいだろう。
1500億ドル以上の時価総額を誇るステーブルコインは、無視できないほど重要な存在だ。米ドルの信頼とインターネットのパワーを結びつけることで、世界の金融システムを根本的に近代化し、より迅速で公平なものにする準備が整っている。
アデエモ財務副長官が言うように、アメリカ経済と世界における我々のリーダーシップに対する複雑な脅威が多数存在している。かつての銀行と同様、斬新な暗号資産市場に向けて、明確な法律を成立させることで、このリーダーシップを維持することができる。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Ryan Quintal/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:Crypto Does Not Have an Illicit Finance Problem, Bad Actors Do