シリコンバレーの巨大VC、アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz、略称:a16z)は昨年、投資企業としての看板を、パートタイムのコンピューターサイエンスR&D企業へと切り替え、ディープテック研究に乗り出すと発表して話題となった。
同社は4月9日、zkVM(ゼロ知識仮想マシン)「Jolt」のオープンソースコード実装をリリースし、その最初の成果を発表した。
VCからR&D企業へ
この新しいプロダクトは、a16zを正真正銘のR&D企業として位置づけるだけでなく、ブロックチェーン(そしてa16z自身のポートフォリオ企業の一部)の事業拡大に役立つ可能性がある。
一般的に「VM」と呼ばれる仮想マシンは、ブロックチェーンや他のプログラムの基盤として機能するソフトウェアベースのコンピュータ環境をいう。
Joltの「zk(ゼロ知識)」の部分は、a16zのVMを動かす暗号技術の一種であり、仮想コンピュータがプライバシーとセキュリティに関する特別な制約を守りながらデータを処理・検証することを可能にする。
Joltは現在、コンピュータープロセッサを設計するためのオープンソース標準の命令セットアーキテクチャ(ISA)「RISC-V」と、プログラミング言語「Rust」で書かれたアプリケーションをサポートしている。
プログラマーはJoltを通してアプリケーションを実行し、「その実行を検証」できるとa16z cryptoのCTO、エディ・ラザリン(Eddy Lazzarin)氏は説明する。
同氏によれば、Joltは「そのプログラムの結果が本当にそのプログラムを正しく実行した結果であることを示す『証明』を出力する」。最大のアピールポイントは、ライバルの「RISC Zero」よりも「10倍」速いことだ。
zk暗号技術はブロックチェーン以外の分野にも応用されているが、zkの研究はブロックチェーン業界の台頭と並行して急成長している。いわゆる「zk証明」(zkプログラムによって出力される数学的証明)は、ブロックチェーンが手数料を削減し、速度を向上させ、取引のプライバシーを維持するための主要な方法となっている。
この技術は、ブロックチェーンをより速く、より安全にするために近年登場した「EVM(イーサリアムバーチャルマシン)」として知られるイーサリアムのランタイム環境に特化したzkVM、いわゆる「zkEVM」の多くを動かしている(a16zは、主要なzkEVMメーカーの1つであるMatter Labsに投資している)。
zk証明は、「難しい作業をオフチェーンで行い、ブロックチェーンに証明だけを検証させることで、ブロックチェーンをスケーリングする」ものだと、Joltのプログラミングの一部を支えるzkシステム用の特殊メソッドであるLassoとJoltの共同研究者で、a16zのリサーチャー兼ジョージタウン大学准教授のジャスティン・ターラー(Justin Thaler)氏は、昨年のインタビューで説明している。
zk証明を使えば、「この作業が正しく行われたという保証を得ることができるが、世界中のブロックチェーンノードにすべての作業を行わせる必要はない」。
Joltはイーサリアムや他のブロックチェーン向けに微調整されていないが、a16zはその技術をzkEVMや他のブロックチェーンベースのzkアプリケーションに重ねることができると主張する。
「特定の回路を微調整すると、非常にもろくなる。それを適切に行うのは非常に難しく、不可解な作業となる」とラザリン氏。「我々の技術は単純なだけでなく、より高速である」と続けた。
ディープテック進出の理由
a16zは、昨年8月にJoltとLassoの2つのプロジェクトを発表し、ディープテック分野に初めて進出した。ラザリン氏によれば、a16zがディープテックの研究に乗り出したのは、投資企業としての評価を高めるためでもあったという。
「暗号資産で最も難しいことをやっている最先端にいる人から資金を得ることができる場合に、資金を持っているだけの人から資金を得る必要があるだろうか?」
しかし、a16zの研究への取り組みが会社の収益向上に役立つとラザリン氏が考えている理由はそれだけではない。Joltのコードはオープンソース化されており、理論的には誰でもa16zにお金を払うことなく使用したり、再利用したりすることができる。
「我々は長期投資家であり、日々の取引、週ごとの取引、あるいは月ごとの取引はしない。今後5年から10年の間にこの分野が最も速く進歩すれば、我々は最も恩恵を受けることになる。そのため我々のインセンティブは、我々が決して収益化することのない公共財を通じて、純粋に皆を前進させることだ」
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Haotian Zheng/Unsplash
|原文:Venture Firm A16z Releases Jolt, a ‘Zero-Knowledge Virtual Machine’