トークンが「多過ぎる」、暗号資産の世界にM&Aの波がやって来る
  • コモディティ化したテクノロジーを備え、流動性は高いが、あまりアクティブなチームがいないプロジェクトは、敵対的買収のターゲットになる可能性がある。
  • 伝統的なプレーヤーが、「最も革新的」なWeb3プロジェクトをすくい上げる可能性もある。
  • ミームコインセクターのM&Aは「最高潮」に達する可能性があり、「ShibaPepes」や「FlokiDoges」といったトークンが誕生するかもしれない。

トークンの乱立

再担保化のような複雑な金融商品を真似するトークンから、多くの「帽子をかぶった犬」タイプのプロジェクトまで、最近の暗号資産(仮想通貨)エコシステムには多数のトークンが存在する。今後数週間から数カ月のうちに統合の波が押し寄せると予測している一部の専門家によれば、多過ぎるくらいだ。

1万3000を超えるトークンと約2兆5000億ドルの時価総額がある中で、疑問なのは、テクノロジーの利用と普及があるべき姿に近づいてもいないのに、なぜこれほど多くのトークンが存在するのかということだ。

そこで、業界の観測筋によれば、分散型金融(DeFi)からNFTプロジェクト、さらにはミームコインのようなセクターを整理するM&A(合併・買収)の可能性が生まれている。

90年代後半のドットコム時代と同様に、2021年の強気相場ではベンチャーキャピタルや一般投資家の関心が高く、似たような問題を解決しようとする、多くの異なる暗号資産プロジェクトに資金が流れ込み、必要以上のトークンが生み出されることになった。

スマートウォレットインフラを手がけるSafeの機関投資家およびフィンテック部門責任者、ジュリアン・グリゴ(Julian Grigo)氏は「ベンチャーキャピタルや強気相場における過剰な資金調達ラウンドは、多くの場合、少し異なるアプローチを取るだけで同様の課題を解決しようとするプロジェクトの乱立につながった」と指摘している。

インターネット、半導体、ヘルスケアといった伝統的なセクターの例に倣い、M&A(合併・買収)が暗号資産の問題を解決する可能性がある。

「すでにトークンが多過ぎ、『プロジェクト』が多過ぎて、十分な普及や実用性がない」と、今年は「積極的なM&A」があるだろうと以前述べていたChilizネットワークのCEO、アレックス・ドレイファス(Alex Dreyfus)氏は指摘。「最終的には、統合が鍵になるだろう」と付け加えた。

実際に、人工知能(AI)関連の暗号資産プロジェクトであるFetch.ai、SingularityNET、Ocean Protocolが合併して74億ドル規模のトークンを作成し、ビッグテック企業と戦うAIコレクティブを作ると発表し、すでに三つ巴の合併が起こっている。

取引合意は「限りなく難しい」

しかし、これは最近の大規模なM&Aの一例に過ぎない。なぜもっと進まないのだろうか?

それに対するシンプルな答えは、この業界はまだ歴史が浅く、合併が頻繁に行われるようになるにはまだ時間がかかるということだろう。

「暗号資産のM&A市場はまだ黎明期であるため、テンプレートやルールブックがないことが多く、取引がより難しく複雑になる可能性がある」とSafeのグリゴ氏は言う。

暗号資産に特有のもう1つの課題は、トークン市場の性質である。「暗号資産の世界ではM&Aが一段と困難である。それは、暗号資産取引には多くの資金が投入されているため、『株』が消滅する可能性がある伝統的な金融とは異なり、暗号資産は消滅することはないからだ。すべてが常に取引のチャンスだ」とドレイファス氏は指摘する。

この問題を解決する1つの方法は、企業レベルではなくトークンレベルで取引を行うことである。つまり、各チームは「同じエコシステムをサポートし、成長させながら、それぞれのイニシアチブに取り組むことができる」ということだ。「それは、より分散化されたエコシステムを作り、また非常に強力なネットワーク効果をもたらすだろう」とドレイファス氏は続けた。

しかし、ヘデラ(Hedera)エコシステムの一部であるHBAR財団の共同設立者兼CEOのシェイン・ヒグドン(Shayne Higdon)氏によれば、これを達成するのは容易ではない。

「オープンソースと分散化を理念とする暗号資産では、実際に何を買ったり、合併したりするのだろうか? 事業の統合なのか、単なるトークンの統合なのか? 事業が中央集権化されている場合、前者を行うのは非常に難しく、分散化された世界では限りなく難しくなる」とヒグドン氏は指摘し、次のように続けた。

「暗号資産の世界では、エコシステムとそれに続くネットワーク効果を成長させることが重要となる。コミュニティが合併に賛成するためには、共通の目標を持つことが最も重要である。これらのコミュニティはまた、合併の結果として、長期的にはより多くのお金を稼ぐことを望んでいる」

暗号資産におけるM&Aは、「短期的にはトークンの上昇」につながるかもしれないが、長期的には価値を希薄化させる可能性がある。「会社、チーム、人材に明確で冗長でない役割と責任が存在しなければ、効率的な規模の経済を達成することは難しいだろう」とヒグドン氏は語った。

暗号資産のM&Aで重要なポイント

M&Aの基本原則が暗号資産に通用しないと言っているわけではない。M&Aの最初のルールは、企業やプロジェクト間の相乗効果を確認すること、そして合併によって新会社が競合他社よりも優位に立てるかどうかだ。

「インフラの側面から見ると、相互運用性がこれらの野心を一致させる上で重要な役割を果たすケースがますます増えていくだろう。同様に、共通の目標を持つプロジェクト間でのM&Aも活発化すると予想している」と、グリゴ氏は語る。

次の課題は、保有者が取引に賛成するためのトークノミクスとインセンティブを考え出すことである。これは、友好的か敵対的かを問わず、銀行家が合併や買収のオファーをどのように構成するかに似ている。

「創業者、投資家、またはチームが流通するトークンの大部分を支配しているプロジェクトの場合、少数のプレーヤーと取引を交渉するのは簡単である」と、分散型アプリSweat Economyの共同設立者であるオレグ・フォメンコ(Oleg Fomenko)氏は語った。

「一方、十分に分散化されたプロジェクトでは、プロトコルのガバナンスに影響を与えるのに十分な量を蓄積するために、すべてのトークン保有者にオファーを提供する『敵対的買収』を開始するのは簡単となる」とフォメンコ氏は付け加えた。

その他の検討事項としては、合併によってプロジェクトの認知度を高められるか、より大きなコミュニティに声を届けられるか、共通の目標を達成するためにより強力なチームを作れるかどうかを見極めることだ、とフォメンコ氏は述べ、買収を実現させる中央媒体がないことが、Web3のエコシステムにとって現在最大の障壁の1つだと付け加えた。

分散型システムでは、トークン保有者全員を知らないことが多い。伝統的な企業のように、保有者に接触して投票してもらう代理人もいない。

規制:吉と出るか?凶と出るか?

伝統的金融(TradFi)では、取引を完了するための最大のハードルの1つは規制の不確実性である。TradFiには、ハイテク大手クアルコムによる400億ドルを超えるNXPセミコンダクターズの買収が中国政府に阻止されて失敗したのをはじめ、このような有名なM&Aの失敗例が散見される。また、カナダ政府が鉱山大手BHPビリトンによるポタッシュ・コーポレーションへの390億ドルの敵対的買収を阻止した例もある。

フォメンコ氏は、暗号資産の規制が比較的未成熟であることは、業界にとってプラスに働く可能性があるとして、次のように語った。

「Web3の実績を考えると、ポジティブな影響を持つ可能性が高く、多額の資金、活発なチーム、コミュニティを持つプロジェクトは、この分野でM&A規制が出現する前に、現在の規制情勢を利用し、他のビジネスを買収する可能性が高い」

逆に、規制体制が改善されれば、規制当局が潜在的な取引をどのように見るかをよりよく理解できるようになるため、より大きな金融機関が参入するようになり、より大きなM&Aのインセンティブになるかもしれない、とグリゴ氏は言う。

「ShibaPepe」コイン?

では、デジタル資産分野でM&Aが活発化した場合、投資家は何に注目すべきなのだろうか?

当然ながら、大きな競争相手と競争できないプロジェクトは、生き残るために事業を統合しようとするだろう。DLC.Linkの共同設立者兼CEOのアキ・バログ(Aki Balogh)氏は「次のM&Aの波は、トップ10に入らなかったレイヤー1チェーン、分散型取引所(DEX)、DeFiプロトコル、ノードオペレーター、そしておそらくNFTプロジェクトなど、高度に断片化されたセクターで起こる可能性が高い」と述べている。

一方、グリゴ氏は、統合の影響を受けない特定の分野はないと考えており、M&Aは「全面的に」行われると見ている。また、伝統的なプレーヤーが「最も革新的な」Web3プロジェクトをすくい上げるとも予想している。

しかし、質の高いプロジェクトであれば、M&Aで素晴らしい評価額を獲得できるだろう。「このトレンドの大きな勝者は、非常に洗練されたクロスチェーン分析能力を持ち、特定のトークンの保有者に潜在的なオファーに関するメッセージを届けることができるビジネスになる可能性が高い」とフォメンコ氏は言う。

フォメンコ氏によれば、流動性が高く、アクティブなチームを持たないプロジェクトは、敵対的買収のターゲットになる可能性がある。

「DEX、担保付き流動性プロバイダー、リキッドステーキングプロトコルなど、異なるプレイヤー間でテクノロジーがほぼ類似している分野では、このようなことが起こる可能性が高いと予測している。しかし、ガバナンストークンを持つプロジェクトはすべて、ターゲットになるかもしれない」とフォメンコ氏は語った。

フォメンコ氏は、これがミームコインセクターの中で支配的な力を持つかもしれないと考えている。

「私の予想では、この現象はミームコインの世界で熱を帯び、あっという間に『ShibaPepes(シバペペ)』や 『FlokiDoges(フロキドージ)』が出現することになるだろう」

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Has ‘Too Many Tokens’ and Mergers Are Coming