オープン・ファイナンスこそ未来

簡単に言えば、現在の金融の構造が、何十億もの人々が基本的な金融サービスや経済的チャンスにアクセスすることを妨げている。

不均衡な金融へのアクセス

中央集権的な金融機関は、きわめて一部の人々だけにサービスを提供するよう設計されている。その結果、十分なサービスを受けられていない残りの大多数は、資本、信用、サービスへのアクセスが制限されている。

SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication、国際銀行間通信協会)やACH(Automated Clearing House)のような、世界中の金融機関、市場、決済ネットワークの活動を導く重要だが数十年前から存在するインフラはそれらを最も必要とする人々を助けてはいない。

遅くてコストのかかる資金移動は、資本市場への限られたアクセスと相まって、何百万人もの人々を経済的な豊かさから遠ざけている。これを象徴しているのがグローバル送金市場だ。

世界銀行と国連によると、世界の約9人に1人が自国外で働く移民労働者からの6560億ドル(約102兆円、1ドル155円換算)と推定される送金に支えられている。送金額200ドルの世界平均コストは6.5%で、国連の「持続可能な開発目標」の掲げる3%という目標の2倍に相当。その結果、世界で最も弱い立場にある人々に数十億ドルもの犠牲を強いている。

アメリカのようなフィンテック・エコシステムが発達している地域でも、銀行や金融へのアクセス格差は依然として残っている。

FDIC(連邦預金保険公社)によると、アメリカの世帯の4.5%はいまだに銀行口座を持っておらず、このため約590万人のアメリカ人が、小切手現金化や為替といった銀行以外の金融サービスの手数料として約2億3000万ドルを負担している。

しかし我々には、グローバル金融サービスのスピードアップとコスト削減を可能にし、苦境にある地域社会に金融を開放し、その過程ですべての人々を暮らしを向上させるテクノロジーがある。

オープンな金融データの活用は、オープン・ファイナンスの前半部分。オープン・バンキングのような政策は、金融セクターの不透明性を断ち切り、システム的な改善、アップグレード、抜本的改革のチャンスを生み出している。

オープン・バンキングの可能性

イギリスでオープン・バンキングが採用されたことで、消費者は従来の銀行よりも迅速、安価、アジャイルな金融アプリや商品、サービスを手がける認可を受けたサードパーティと銀行データを安全に共有できるようになった。

2023年2月現在、イギリスの700万人以上の顧客がオープン・バンキング・サービスを利用している。一方、イギリス全土でリアル店舗型の銀行は閉鎖されている。

消費者金融保護局(Consumer Financial Protection Bureau)のロヒト・チョプラ(Rohit Chopra)局長は、オープン・バンキングがアメリカの消費者に提供できる価値を認識し、「オープンで分散化されたバンキングへのシフトは、競争を加速させ、金融商品やサービスを改善し、不当な追加手数料を抑制することができる」と、オープン・バンキングを活性化させるための同局の規則案に関する声明で述べた。

オープン・バンキングがアカデミックな場から実践の場へと移行するにつれて、金融インフラの修復あるいはリプレースする近代化の触媒となってきた。

しかし、オープン・ファイナンスはオープン・バンキング以上の意味を持つ。金融へのアクセスとインクルージョン(包摂)を実現するためには、データを新しいイノベーティブなテクノロジーと融合させる必要がある。

そのようなテクノロジーのひとつがステーブルコインだ。連邦準備制度理事会(FRB)が指摘するように、暗号資産(仮想通貨)取引を米ドルのような現実資産(RWA)に連動させることで安定性を提供することに加えて、ステーブルコインは、レガシーインフラをほぼ完全に回避する、現実世界での、低コスト、ほぼ即時のグローバル決済ソリューションを提供している。こうしたコスト面での優位性は、グローバル送金市場ですでに実現されている。

例えば、米サークル(Circle)のようなステーブルコイン発行会社は、特に東南アジアやラテンアメリカにおいて、ステーブルコイン利用の主要な推進力として送金をあげている。ステーブルコインへのシフトは、暗号資産のボラティリティに対する回答以上のものを提供する。お金のグローバルな動きが一変したことを示す証拠を提供する。

真の金融アクセスと自立に向けて

オープン金融システムのグローバルな可能性を実現し、レガシーな金融機関と一般の人々の双方に納得して検討してもらうためには、最初から安全でアクセスしやすいネットワークを導入する必要がある。

そこで、セキュリティやパフォーマンスを犠牲にすることなく、金融を分散化できるイノベーティブな機能を提供するオープン金融プロトコルが必要となる。並行して、伝統的な金融機関、信用機関、銀行がオープン・バンキングAPIを採用している。例えば、フィンテック企業のPlaidを介してウェルズ・ファーゴのような銀行とつながったべンモ(Venmo)がある。

より利用しやすい金融商品、決済ネットワーク、資金移動システムのためのテクノロジーとインフラ、それらに対する消費者の関心は存在している。

オープン・ファイナンスこそが未来だ。ブロックチェーンは現在、DeFi(分散型金融)のインフラレイヤーを提供しているだけでなく、今後数十年間、オープン・ファイナンスに向けた進歩の中心的な原動力となるだろう。

また、モバイルデバイスは十分なサービスを受けていない世界中のコミュニティでの取引を支えているが、Web3は真の金融アクセスと自立を実現する手段となるだろう。

しかし、金融機関を閉鎖的にしている排他的な勢力が、価値の共有、アクセス、イノベーションの拡大に道を開くまで、真の成功は望めない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:shark ovski/Unsplash
|原文:The Future Is Open Finance