「イーサリアムは今やっと『PTSDAO(DAO後ストレス障害)』から自由になり始めたところ」
スパンクチェーン(SpankChain)のCEOで、MolochDAOと呼ばれる現在120万ドル(約1億3000万円)規模の自立分散型組織(DAO)の生みの親、アミーン・ソレイマニ(Ameen Soleiman)氏はそうツイートした。
2016年に約6000万ドル(約65億円)の被害を出した有名な「The DAO」のハッキング事件の後、開発者たちは同じ様なプロジェクトを始めることに躊躇してきた。そう、今までは。
DAOはベルリンで先日開かれたイーサリアムに関するイベントにおいて「注目の」トピックだった。その前には、WEB3ファウンデーション(Web3 Foundation)の幹部ライアン・ズレール(Ryan Zurer)氏が指揮する新しいDAOが2019年8月初旬に発表された。
しかし、1つの疑問が依然として消えない。営利目的のDAOは合法なのだろうか?
コンセンシス(ConsenSys)が支援するブロックチェーンスタートアップ、オープンロー(OpenLaw)はその疑問に答えようとしている。彼らは9月はじめ、法令遵守を重視したDAOプロジェクトの新しいビジョンを発表した。
オープンローは、ブログで大胆にも次のように記した。
「オープンローは、アメリカの法律に準拠する形でThe DAOの当初ビジョンの復活を促す」
オープンローのいわゆる「有限責任自律型組織(Limited Liability Autonomous Organization:LAO)」プロジェクトは、2016年のThe DAOのハッキング事件を受けて米証券取引委員会(SEC)が設定したガイドラインに従うことを目指している。
このような法令遵守は、投資家、政治家、そして広く一般市民の目から見て、他のDAOプロジェクトが合法性を得るための道を切り開くはず。少なくとも、オープンローのCEO、アーロン・ライト(Aaron Wright)氏はそう考えている。
「技術面で問題がなかったとしても、あのハッキングがなかったとしても、重大な規制上の問題が、少なくともアメリカや他の地域であったはず」とライト氏は元々のDAOについて語った。
正しく実行されれば、DAOはベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティ企業に取って代わる可能性を秘めているとライト氏は述べた。これは、ブロックチェーンネットワークの発展を推し進めていくうえで、歴史的価値のある功績となり得る。
DAOをいかに合法化するか
「法的な実体」を作ることからすべては始まる。
まず、DAOをアメリカの法律に基づいて登録された企業体として構築しなければならない。オープンローのライト氏によると、法的枠組みという点で最善の策は、リミティッド・ライアビリティ・カンパニー(LLC:有限責任会社)という形態だ。
ブロックチェーン専門の弁護士、アンドリュー・ヒンクス(Andrew Hinkes)氏は次のように説明した。
「LCCとして運営するということは、その組織が契約や税金に責任を持ち、法律に違反した時に責任を持つことを意味する。組織の代わりに個人が責任を持つ必要はない」
そうでなければ、「(DAO内の)個人がすべての法的責任を負うことになる可能性がある」とライト氏は指摘した。
法律に基づいて指定され、登録された企業体に法的責任を負わせることは、ハッキングで資産が無くなった場合に特に重要だ。2016年のハッキング事件はそのことを極めて明確にした。
「The DAOのハッキングでは、ハッカーの攻撃によってイーサ(ETH)の3分の1が流出した。(中略)損害を受けた者は誰でも、関与した者を誰でも訴えることができるという、かなりしっかりした議論が行われた。悲惨なことだったと思う」とヒンクス氏は述べた。
そのような不確実性を取り除くことは、DAOを有限責任の枠組みに含めることの主要な利点の1つとライト氏は述べた。
「明確さを得る手始めとなる枠組みを与えてくれる。(投資家の間の)互いの法的責任を制限し、税金にどのように対応するかに関連した問題も明確にしてくれる」
トレードオフ
同時に規制上の明確さは、合法的なDAOはどのように運営できるのか、あるいはできないのかという点に関する、より厳格なポリシーとルールも伴う。例えばLAOは、本来のDAOとは異なり、ローンチに際して認可を受けた限られた投資家のみに利用可能となる。
そうだ、富裕層だけが参加できる。
この点でLAOは、伝統的な企業が参加者に身元の開示、税金の支払い、そしてしばしば弁護士を雇うことを求めることと実質上はあまり変わらないかもしれない。
「新しいことはない」とシップケヴィッチPLLC(Shipkevich PLLC)のブロックチェーン専門弁護士、フェリックス・シップケヴィッチ(Felix Shipkevich)氏は述べた。
「トークンを使わずに同じコンセプトを提供することと変わりはない」
LAOプロジェクトについて詳細なブログを書いた弁護士のプレストン・バーン(Preston Byrne)氏も同意した。CoinDesk宛てのメールに次のように記した。
「ここでいう『DAO』は、LLCに倣ってモデル化されたものではない。それはLLCだ。(中略)ベンチャーの資金調達のための手段として、投資家にとって、既存の手法に比べて特に魅力的だったり、優れている仕組みだとは思わない」
一方、ライト氏にとって、LAOの利点は明らかだ。
「(LAOを利用した)スタートアップは、数週間ではなく、数日で資金を受け取ることができる。シリコンバレーやニューヨークなど、エンジェル投資家やベンチャーキャピタリストがいる場所に移動する必要はない」
これは起業家にとっては明らかに利点だが、投資家にとっては逆が真となるかもしれない。バーン氏によると、それは「人間的の問題」、つまり、経験豊富な投資家は単に広範なデューディリジェンスやフォローアップなしにはお金を出したがらない。
少なくとも、ライト氏のLAOプロジェクトはDAOの進化に向けた重要な一歩であり、分散型技術を現状の法的枠組みと調和させるための、さらなる実験を促す可能性がある。
ヒンクス氏は次のように語った。
「次のステップは、州が独自の法で新しい取り組みを始め、よりコード・ドリブンな行為に合うような企業構造のフレキシビリティを許可し始めた時に来ると考えている」
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Image: Aaron Wright speaking at CoinDesk Consensus
原文:New Interest in DAOs Prompts Old Question: Are They Legal?