中東はWeb3で躍進している。アラブ首長国連邦(UAE)では、ドバイの仮想資産規制庁(VARA)などのデジタル資産規制機関や、アブダビの国際金融センター兼経済特区アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)などが誕生した。
ADGMを拠点とするHub71は昨年、この地域のWeb3スタートアップを支援する20億ドル(約3100億円、1ドル155円換算)規模のイニシアチブを立ち上げた。
暗号資産(仮想通貨)やイノベーションに対する好意的な姿勢と税制優遇措置のおかげで、UAEは暗号資産やブロックチェーンのプロジェクトやファンドに人気のスポットとなっている。そして今、そのライバルであるサウジアラビアが、独自のWeb3ハブであることを証明しようと野心的だ。
次なるフロンティア、サウジアラビア
英国を拠点とするOutlier Ventures(アウトライヤー・ベンチャーズ)は先日、サウジアラビアの国家技術開発プログラム(NPDP)と提携し、独自のWeb3アクセラレータープログラムを立ち上げると発表した。
「サウジアラビアに来る人々だけでなく、サウジアラビアの高度なスキルを持つ労働者の献身的な姿勢、教育、国際的な経験の水準は、非常に興味深いものだ」とOutlier Venturesのステファン・アペル(Stephan Apel)CEOは述べ、「サウジアラビアのWeb3エコシステムはまだ発展途上だが、我々は非常に速い発展のスピードと大きな可能性を目の当たりにしている」と続けた。
サウジアラビアの950億ドル規模の公共投資基金(PIF)は、Web3スタートアップを支援する大手VCのAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ、a16z)と提携交渉を行ったと報じられている。
アジアの大手Web3ゲームVCであるAnimoca Brands(アニモカブランズ)は、首都リヤドのKing Abdulaziz City for Science and Technology(KACST)と提携し、サウジアラビアのゲームエコシステムを前進させている。
KACSTにある2万8000平方メートルのスタートアップ地区「The Garage」で開催されたAnimoca Brands主催の「The Outer Edge Summit」で、同社のロビー・ヨン(Robby Yung)CEOは、サウジアラビアと中東でのビジネスチャンスを賞賛した。
「我々は少し遅れてここにやって来ている。我々は10年前にサウジアラビアのビジネスチャンスに気づいていたが、当時は新しい市場に取り組むためのリソースを持っていなかった」とヨンCEOは述べた。
「ここは世界地図の中でも大きなピースだ……2020年以降、UAEは規制のフレームワークがあるため、コミュニティとしてのWeb3が集結する場所になっている。ここには巨大な国があり、人口の60%以上が30歳以下。彼らはゲーマーであり、我々の仲間だ。だから、我々は現地に身を置き、彼らとのコミュニケーション方法を理解したいと考えている。我々はその接点としてここから始めることが重要だと考えた」(ヨンCEO)
一方、シンガポールを拠点とするVCのGolden Gate Ventures(ゴールデン・ゲート・ベンチャーズ)は、湾岸地域にオフィスを拡大し、サウジアラビアを次のフロンティアと見ている。
「サウジアラビアの投資意欲は全体的に非常に旺盛だが、他の地域ほどWeb3が目立っているわけではない。人工知能への投資が増加していることから、それに続いてWeb3への投資も急速に進むだろう」と、同VCのパートナー、ミシェール・リンツ(Micheal Lints)氏は述べた。
サウジアラビアには、Web3投資を呼び込むうえで有利な点と不利な点がある。サウジアラビアは、世界銀行の「Ease of Doing Business(ビジネスがしやすい国)」指数で62位にランクされており、「ビジネスを立ち上げる」(全体38位)、「電気を確保する」(18位)といった項目で高評価を受けている。一方、「信用を得る」(80位)や「国境を越えた取引」(86位)については、あまり芳しくない。
職場における女性やアルコールに関する政策は、社会的に制約の少ない環境での事業に慣れているスタートアップにとっては魅力的とは言えないだろう。
メタバース「NEOM」
2017年に発表された1兆5000億ドル規模の砂漠都市NEOMのメタバースプラットフォーム「XVRS」は、サウジアラビアにとってこれまでで最大規模のWeb3関連プロジェクトだ。
NEOMを模した没入型デジタルプラットフォームの開発には10億ドル以上が投資されたと報じられている。このスペースは、没入型エンターテインメント、ソーシャルプラットフォーム、暗号資産とNFTのためのデジタルマーケットプレースを組み込んでいるとプロジェクトの後援者は述べている。
2月に開催されたサウジアラビア投資協会の第1回「Leap Summit」で、Hashgraph Association(ハッシュグラフ協会)は、2億5000万ドルのベンチャースタジオであるDeepTech(ディープテック)をはじめとする、地元のハイテク・スタートアップを支援するための5年間のパートナーシップを発表した。
サウジアラビアの年次テックカンファレンスであるLeap Summitは、今年22万人以上の参加者を集めた。これはラスベガスのCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)の約2倍だ。
期待される規制整備
サウジアラビアの暗号資産に関する法的規定は不明確だが、ブロックチェーン分析会社Chainalysis(チェイナリシス)のレポートによると、サウジアラビアの人口3600万人の間で暗号資産に対する意欲が高まっていることが明らかになっている。
サウジアラビアの暗号資産投資家は2023年に3億5000万ドル相当以上の利益を獲得し、同期間に約2億400万ドルを記録したUAEを抜いたと分析されている。
世界最大の暗号資産取引所Binance(バイナンス)は、サウジアラビアにおける同社の開発リーダーであるバンダル・アル・トゥニシ(Bandar Al Tunisi)氏によると、成長の源泉として同国に注目している。
Binanceはサウジアラビアの中央銀行にあたるSAMA(サウジアラビア通貨庁)や資本市場規制当局、通信情報技術省などの規制当局と協議しているという。アル・トゥニシ氏は、早ければ今年中にも国内でデジタル通貨に関する「ハイレベルな」規制が行われることを期待している。
「チャンス、成長、指導者の意欲と機敏さ、地元住民の能力という点で、世界で最も重要な場所のひとつだと思う」とアル・トゥニシ氏は語った。
「(規制のフレームワークが)今年中に実現することを期待している。もちろん、それは我々がコントロールできることではないが、我々は現場にいる。準備はできている」
サウジアラビアのイノベーション育成に対して積極的なアプローチは、戦略的パートナーシップや「ビジョン2030」イニシアチブと相まって、サウジアラビアを世界のWeb3の展望における重要なチャレンジャーにしている。
政府の推進力が牽引する現在の期待が、持続可能なWeb3産業につながるかどうかは、時間が経てばわかるだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:サウジアラビアの首都リヤド(Shutterstock)
|原文:Web3 in the Middle East: Do All Roads Lead to Riyadh?