要点:
- 証券取引所運営会社SIXグループの一部門、スイスデジタル取引所(SDX)は、「イニシャル・デジタル・オファリング(IDO)」を支援するための金融機関によるグローバルコンソーシアムを組織した。
- トークンセールは、2020年半ばまでに予定されている。目標額はまだ公開されていない。
- SDXはビジネスプランを修正した。当初はまず従来型の銀行資産、その後不動産や芸術品といったエキゾチック資産をトークン化していく予定であった。現在では、その逆を行おうとしている。
- SDXの重点は、取引後の処理とカストディへと移行した。これらは、スイス銀行間清算システムへの接続と同時に、遅れを引き起こす主要なポイントとなっている。
スイスの証券取引所運営企業SIXグループの所有するブロックチェーンベースの事業、スイスデジタル取引所(SDX)は、「イニシャル・デジタル・オファリング(IDO)」を支援するための金融機関によるグローバルコンソーシアムを組織した。
IDOは現在、2020年に予定されており、株式がSDXのプラットフォームで発行されるセキュリティトークンの形態をとるという点を除いては、従来の新規公開株(IPO)と似ている。
SDXの責任者に先日就任したトーマス・キンドラー(Thomas Kindler)氏は、投資家の一群を形容するのに「コンソーシアム」という言葉を用いたが、そこには銀行、バイサイドの企業、そして市場インフラを提供する企業が含まれる。主眼が、資金調達だけでなく、テクノロジーにも置かれているためだ。
キンドラー氏はCoinDeskに対して次の通りに語った。
「私たちは単に資金を出してくれるからアブダビのソブリンファンドに目を向けているわけではありません。投資してくれると同時に、ビジネスにコミットし、我々が構築してきたものを実証し、軌道に乗せるために投資家を求めています。主要な焦点は資金ではありません。ビジネスとビジネスモデルの実証につながる資金なのです」
キンドラー氏はコンソーシアムのメンバーの名を挙げることはなかった。SDXが調達しようとしている資金の額を示すこともなかった。SIXがSDXの株式の大半を所有したままになることは認めている。
「市場には明らかに関心が見られます」とキンドラー氏は述べ、次のように続けた。「2つのレベルを予測しています。1つ目の大規模レベルでは(中略)4、5社ほどの大型投資家を考えています。そして潜在的には、10社ほどのそれより規模が小さな投資家がいます」
SDXは、スイスのチューリッヒに拠点を置く非上場の公開有限会社であるSIXグループが完全に所有している。SIXグループ社自体も、約120の国内および国際的な金融機関によって所有されており、それらの企業が同社のサービスの主なユーザーである。
独自のSDXセキュリティトークンをデビューさせることで、使い古された表現を借りれば、SDXは自分の犬の餌を食べる(自ら使用して評価する)ことになる。
「自社の取引所で運用できるように基準を設定したいという意図は明確です。そしてそれはネイティブ資産トークンとなります」と、キンドラー氏は述べた。
完全に規制を受けた環境で、非上場の株式という形で株式をトークン化することは複雑である。このことは、ロンドン証券取引所グループ(London Stock Exchange Group)の助けを得て、英金融行動監視機構(FCA)のサンドボックスでこれに取り組んでいるニヴァウラ(Nivaura)などの企業によって裏付けられた事実である。
SDXのデジタルエクイティトークンは、R3のコルダ(Corda)テクノロジーの企業版を利用して構築されたブロックチェーン上で発行されることになる。二次的市場や、トークンが他のコンソーシアムメンバーといかにしてつながるかについて聞かれると、キンドラー氏は現時点で明かすことのできることは限られていると語った。
「2段階のアプローチを考えています」とキンドラー氏は語り、次のように続けた。「最初のステップとして、投資家の国際的コンソーシアムを考えています。2番目のステップは、自社での発行となります」
不動産や芸術品のようなエキゾチック資産もトークン化
ロンドンで先週、国際銀行間通信協会(SWIFT)により開催された国際会議の「サイボス2019(Sibos 2019)」において、SDXはSDXのプロトタイプバージョンについてのプレスリリースを発行し、元々2019年夏に予定されていたシステムの完全ローンチは、2020年末にまで延期されたことを認めた。
この具体的な理由に触れる前に、キンドラー氏は直面している困難について広範な説明を行った。
キンドラー氏はCoinDeskに対して、「SDXは『本当に』エンドツーエンドです」、と、他のブロックチェーンソリューションがしばしばうたい文句にするが、実際には取引場所や鍵のカストディなどの要素からなるだけといった類の言葉を口にした。
「デジタル資産向けの規制されたCSD(証券保管振替機関)を築いているところで、これは銀行がクライアントの代わりにデジタル資産を保有できる能力とは異なるものです」と、キンドラー氏は述べた。
SDXは自らが「奇妙な状況」にあると感じている、とキンドラー氏は述べその理由を次の通りに説明した。「競合や利害関係社から、市場に出す時間という点で強い圧力を受けており、それと同時に市場は存在していないからです。進めながら市場を開発しているのです」
キンドラー氏はさらに、SDXの将来的な顧客となる銀行は、すべてがトークン化される思い切った新しい世界を完全に快く思ってはいないかもしれないとほのめかし、次のように述べた。
「核となるインフラを配置するだけでも困難です。既存のビジネスの利益を奪い、銀行の観点からすると成功の可能性の低いものだからです」
以前SDXは、非上場の株式といったものをトークン化することから始めて、その後債券のような従来型の資産が続き、さらに進めると、不動産や芸術品のようなエキゾチック資産もトークン化され得る計画だと述べていた。
しかし現在の計画は、それらの従来型ではないトークン化資産にまず焦点を当てることだ。従来型の銀行資産をまずトークン化するという当初の計画についてキンドラー氏は次のように述べた。
「6〜9カ月前にはそのように考えていました。しかし、そこは本当に変化しました。従来型の優良株企業がデジタルの世界に参入してきているのかどうかは、これから分かってくると思います。明らかに、長期的にはそれが起こることが見込まれますが、銀行はまた、補完的なソリューションにも目を向けています。既存の事業の利益を奪うのではなく、新たな収益のチャンスを生み出すのです」
カストディの戦い、R3「コルダ」
キンドラー氏は率直に、遅れを生んでいる主要なペインポイントの多くは、取引後にあり、具体的には資産のカストディやブロックチェーンベースのCSDの作成といった分野にある、と認めた。
「そのため我々は、焦点を取引後に移したのです。上場や取引は、今のところ少し後ろに追いやられています。すべては進化をしており、もう少し時間が必要なだけです」とキンドラー氏は述べた。
SDXは独自のカストディソリューションを作るために、外部の企業に助けてもらうのではなく、R3のコルダをカスタマイズしている。
キンドラー氏は、重要な要素は「資産のライフサイクルのすべてにおけるカスタム化だけではなく、既存の接続性への統合」も含まれる、と述べた。
キンドラー氏はまた、顧客には1つの接続性があるべきだとも付け加えた。
「従来型の世界であれ、デジタルの世界であれ、どちらにつながるかは問題ではありません」とキンドラー氏は述べた。
中央銀行のお金
もう1つのパズルのピースは、スイスの即時グロス決済(RTGS)システムと、スイス国立銀行(SNB)を通じた中央銀行の資金への接続性である。
このピースは、これから追加されるが、商業銀行の資金を取り扱う従来型のカストディソリューションの範囲を超えたものだ、とキンドラー氏は指摘した。
チェーン上のデジタル法定通貨は、現金や資産の即時の交換を可能にし、少なくとも卸売銀行の世界では、ブロックチェーンを基盤とした価値の移動のための必要不可欠な燃料としばしば捉えられている。
キンドラー氏は、取引の現金の行程をSDXで行うには3つの方法があると述べた。まず、親会社のSIXがSNBの代わりに運営しているRTGSシステムで、SDXが口座を保有することによる方法だ。
「我々はそこに口座を持っており、中央銀行の資金を置き、それを背景にして、常に中央銀行の資金に裏付けられた法定通貨トークンを生み出すことができます。CSDとして、中央銀行の口座に持っている以上の現金を生み出さないと保証することができます」とキンドラー氏は語った。
もう1つのアプローチは、SDXが「我々のインフラにキャッシュトークンが必要のないような方法で、既存のRTGSシステムに接続すること」だと、キンドラー氏は述べた。「いうなれば、資産トークンだけを持っており、RTGSシステムとリアルタイムのインターフェイスがあるので、そのように対応することができます」
最後に、中央銀行がデジタルスイスフランを発行することもできるが、「そこにはまだ到達していません」とキンドラー氏は述べた。
翻訳:山口晶子
編集:T. Minamoto
写真:SIX image via Shutterstock
原文:Swiss Stock Exchange SIX Lines up Buyers for ‘Initial Digital Offering’