セルフカストディへの移行、暗号資産カストディの未来とは

Web3はいずれ、伝統的金融(TradFi)を飲み込むだろう。疑問の余地はない。

2兆3000億ドル(約334兆円、1ドル145円換算)という素晴らしい時価総額を誇る暗号資産(仮想通貨)業界も、110兆ドルの株式市場を超えるまでにはまだ成長しなければならない。だが、念のため言っておくと、RWA(現実資産)やステーブルコインに対して、ブラックロック(BlackRock)、ストライプ(Stripe)、フランクリン・テンプルトン(Franklin Templeton)などの金融大手が最近、大きな賭けに出ている。

これらの企業は、オンチェーンでの消費とシームレスなピア・ツー・ピア取引のために、マネー・マーケット・ファンド(MMF)や投資信託のような伝統的な証券商品を徐々にトークン化している。規制当局が市場に追いつき、フォーチュン500銘柄やETF(上場投資信託)のような伝統的な金融商品を、まったく同じ方法で取引できるようになるのは時間の問題だ。

最終的には、あらゆる種類の伝統的資産がオンチェーン資産となるだろう。必要なのは時間だけだ。

セルフカストディへの移行

ではこれは、カストディ事業者(カストディアン)にとって何を意味するのだろうか?

(アクティブな個人ウォレットの数:Chainalysis)
(取引所へ送られた資産の投資家カテゴリー別内訳:Chainalysis)

チェイナリシス(Chainalysis)は2023年6月、取引所に送り返される資産が四半期ごとに減少しているにもかかわらず、個人のウォレットは指数関数的に増加していると報告した。

個人投資家も機関投資家も、FTXの二の舞になる可能性のあるカストディ事業者(カストディアン)に資産を預けたり、高度に相互接続された再担保化ネットワークで資金をリスクにさらすよりも、オンチェーンで資産を保管することを選択している。

資金がシルバーゲート(Silvergate)の破産手続きに巻き込まれるのを避けられるとしたら、あなたもそうするのではないだろうか?

コインベース(Coinbase)、クラーケン(Kraken)、ジェミナイ(Gemini)はすべて、ビットコインETFの少なくとも1つをカストディアンとしてサポートしており、機関投資家のユースケースは徐々に移行している。一方で、Web3に慣れたユーザーは、一定の技術レベルに達すると、その資産をセルフカストディに移行し始めるという明確な傾向がある。

保険の手法がウォレットに追いつけば、ほとんどの個人や機関投資家はアカウントを直接管理し、自身の秘密鍵を管理することを選択すると予想される。

マルチシグアカウントからアカウント抽象化(AA)、スマートコントラクトウォレット、機関投資家向けハードウェアからマルチパーティ計算(MPC)ウォレットまで、セルフカストディアンのために多くの選択肢があるが、それぞれに独特のセキュリティ機能と使いやすさのトレードオフがあり、コストも考慮しなければならない。

マルチシグ

Safe(旧称:Gnosis Safe)はイーサリアムベースのネットワークのための元祖マルチシグソリューションで、取引が発生する前に複数の人が同意する必要があるウォレットで資産を管理するための便利なツールが付属している。

他のチェーンでは、シャミアの秘密分散(Shamir’s Secret Sharing)をサポートする専用のウォレットソフトウェアなど、他のソリューションを見つける必要がある。

500ドル以下で、n人中m人の署名(例えば3人中2人、または9人中8人が署名する必要がある)を必要とするウォレットをセットアップできるが、これらのアカウントの権限付与は、特にERC-4337のような新しいアカウント抽象化提案を含めなければ、あまり強固なものではない。もしあなたが署名の1つを持っているならば、あなたはSafeアカウント上のあらゆる権限に署名できる。

アカウント抽象化

これも当面はEVM専用のソリューションだが、原理的にはスマートコントラクトをサポートするチェーンであれば、この規格をサポートできる。

アカウント抽象化により、精通した開発者は標準アカウントの上に追加の権限や機能を追加でき、特定の署名者が特定のタイプの取引にのみ署名できるようになる。

また、多くのプロバイダーはこれらの機能を活用して、取引のバッチ処理、非ネイティブのガストークンなどを追加している。このようなプロバイダーには、Gnosis SafeやZeroDev、Biconomy、Funなどがある。

機関投資家向けコールドストレージ

多くのカストディアンは、ハードウェア・セキュリティ・モジュールと堅牢な物理的セキュリティを活用したコールドストレージ・ソリューションを提供し、米国金銀塊保管所のフォートノックスにある金塊のように資産を安全に保管している。

侵入するには非常にコストのかさむ特殊なチップを使用することで、ホットウォレットのような柔軟性やスピードがなくても、あなたの代わりに秘密鍵を生成し、安全に取引に署名することができる。

プロバイダーにもよるが、これらのソリューションはマルチシグ、アカウント抽象化、MPCソリューションと組み合わされることが多い。ただし、コストは通常、高額な最低残高と口座維持手数料で2桁台のベーシスポイントとなる。

マルチパーティ計算(MPC)

最も柔軟な選択肢の1つであるMPCは、スマートコントラクトによって特定のネットワークに制限されることはないが、潜在的に透明性の低いパートナーに対する信頼が必要となる。

MPCでは、複数の秘密鍵がそれぞれ有効な署名を送信する代わりに、MPCウォレットの参加者全員が共同で秘密鍵を再生成する。

技術的に詳しい人向けにはQredoやLitプロトコルがあり、こちらは完全に分散化されたソリューションだが、もう少し上等なサービスを求め、信頼できるサードパーティと協力することを厭わない人向けには、アンカレッジ・デジタル(Anchorage Digital)が企業向けソリューションPortoをリリースしたばかりであり、私の会社ヘッジホッグ(Hedgehog)はファンド管理、サブアドバイザリー、ターンキー資産管理プログラムに焦点を当てたMPCアカウント管理製品をリリースしたばかりだ。

アンカレッジのネイサン・マッコーリー(Nathan McCauley)CEOが、セルフカストディ・ソリューションを立ち上げた理由を次のように述べている。

「今現在、多くの人がブロックチェーン上でより柔軟な一連の活動を行えるようにするため、セルフカストディ・ソリューションに注目している。我々は、これを拡張的かつ付加的なものと考えている」

どのような選択をするにせよ、カストディルールに留意することが重要だ。このようなアカウント構造については、多くのガイダンスがあるわけではなく、特定のマルチシグ、アカウント抽象化、MPCプロトコルが資金に対する実質的なコントロールとしてどの程度認められるかについては、まだ明確になっていない部分がある。それでも我々は前進する道を切り開かなければ、取り残されることになる。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Jason Dent/ Unsplash
|原文:Crypto for Advisors: Digital Asset Custody’s Future