Googleの量子コンピューターが仮想通貨の未来に意味するもの

Googleの「量子スプレマシー(量子超越性)」は仮想通貨の未来にどのような意味を持つのか

突然、従来のコンピューターが量子コンピューターに取って代わられるという未来が、現実に一歩近づいた。

フィナンシャル・タイムス(Financial Times)が最近報じたところによると、テクノロジー大手のグーグル(Google)は「量子超越性」を達成したと主張している。これは、従来は不可能だった数学的計算が可能となる量子コンピューターを開発したことを意味している。

真実であることが証明されれば、量子コンピューターの開発における大きなマイルストーンであり、現在知られているブロックチェーン技術が崩壊する可能性がある。

ビットコインの出現以来、量子コンピューティングの脅威を受けて、研究者、技術者、そして今では政府までもが、最も高性能な量子コンピューターの攻撃にも耐えられるソフトウェアを構築しようと駆り立てられてきた。

量子コンピューターは、依然として大部分が理論上のものだが、複雑な計算プロセスの処理スピードを大幅に改善すると考えられている。あまりにも高速になるため、従来のコンピューターでは人間の寿命の間に解決することが不可能な計算も、量子コンピューターはたった数秒で処理することができると思われる。

データリサーチ会社CBインサイツ(CB Insights)の説明によると、量子コンピューターはスーパーポジション(重ね合わせ)やエンタングルメント(もつれ)などの「自然に発生する量子力学的現象」に依存する。

カナダの存在感

そして今年の夏、カナダ国立研究機関(National Research Council (NRC) of Canada: NRC)はウォータールー大学(University of Waterloo)と協力し、耐量子ブロックチェーン技術に取り組む2年間の研究イニシアチブを開始した。

ウォータールー大学のスリニバサン・ケーシャブ(Srinivasan Keshav)教授とミシェル・モスカ(Michele Mosca)教授が主導するこの研究には2年間で計18万ドルの予算が与えられており、他の「高い才能のある人材」を加えてチームを拡大すると、NRCのコミュニケーションアドバイザーを務めるニック・デファルコ(Nic Defalco)氏は述べる。

量子研究開発企業、ポスト・クウォンタム(Post-Quantum)の最高経営責任者(CEO)アンダーセン・チェン(Andersen Cheng)氏によると、各国政府の中でカナダは量子コンピューターの研究でリーダー的立場にある。

「他の国の政府は遅れを取り戻そうとしている」とチェン氏は述べる。「米国はかなり大きく遅れている。英国は量子コンピューティングのハードウェアに多額の資金をつぎ込んでおり、ようやっと、耐量子ソフトウェアや暗号について考え始めたところだ」

ドナルド・トランプ米大統領は昨年12月、米国量子イニシアチブ法に署名し、量子情報科学の促進活動に対し、今後5年間で12億ドルの予算を割り当てた。6月には英国政府が英国の国家量子技術プログラムに1億9300億ドルの追加資金を配分し、2014年以来の同プログラムへの投資金額は計12億ドルとなった。

なぜ大騒ぎするのか

CBインサイツによると、民間での取り組みも同様に増加している。民間の量子コンピューティングスタートアップに対する投資件数は、過去6年間に200%を超えて増加している。

クウォンタムレジスタントレジャー(QRL)ファンデーション(Quantum Resistant Ledger (QRL) Foundation)のアダム・コルタン(Adam Koltun)氏は、これらすべてが問題の深刻化を示していると考えている。

「10年前には、現在量子コンピューティングで可能なところまでたどり着くのに50年はかかると言われていた。5年前には、現在の状況にたどり着くのに25年かかると言われていた。つまり、量子コンピューティングには我々の期待を上回るという嫌な癖がある」とコルタン氏は述べ、こう付け加えた。

「ブロックチェーン業界はこれに立ち向かい、用心する必要がある」

コルタン氏のグループは、量子コンピューターから攻撃される恐れがない初めてのブロックチェーンを構築したと主張している。

考えらえる攻撃から既存の技術を守るために積極的に行動しなければ、将来のブロックチェーンや仮想通貨、そしてインターネット全体もリスクにさらされると、コルタン氏は懸念する。

ブロックチェーン技術は時代遅れなものに?

量子コンピューターは実際にはいくつかの異なる方法で、ブロックチェーンに影響を与える可能性がある。

ひとつは、ブロックチェーン取引は楕円曲線暗号(ECC)に基づくデジタル署名で守られている。ECCは同時に、ユーザーデータやウェブサイトトラフィックの暗号化でインターネットでも使用されている。

しかしポスト・クォンタムのチェン氏によると、ECC は「耐量子」ではない。つまり、理論的に高性能の量子コンピューターはユーザーのプライベートキーを解読し、その代わりに取引署名を偽造することができる。

「一度この信頼が崩壊したら、仮想通貨は終わるだろう」とチェン氏は述べる。

「(正しい)人物が取引を署名しているかどうかが判断できなければ、信頼は崩壊する。この仮想通貨の世界は、分散化され、管理者が存在しない環境に基づいているのだ」

量子コンピューターと共存する場合、これは間違いなくブロックチェーンにとって最も重要なセキュリティ問題となる。楕円曲線暗号のデジタル署名を解読するのに十分な高性能の量子コンピューターを用いることができるショア(Shor)のアルゴリズムと呼ばれるアルゴリズムの可能性を、研究者や数学者がすでに認識していることを考慮すればなおさらだ。

「量子コンピューターの第1世代や第2世代がどのようなものになるかについて、我々は何十年も計算してきた」とQRLファンデーションのコルタン氏は述べる。

同時に、量子コンピューターは科学者の予想をはるかに上回り、想像していない方法でブロックチェーン技術を時代遅れのものにする可能性があると、コルタン氏は主張する。

「量子コンピューターの可能性はまだ十分に認識されていないので、防水時計や耐量子ブロックチェーンを売りつけようとする人間に警戒すべきだ。技術的な製品やブロックチェーンなどが量子コンピューターの影響を受けないと主張するならば、これらのコンピューターの能力を完全に知る必要がある。しかしこの能力は知られていない」

存在しない敵との闘い

量子コンピューターの完全な能力がまだ知られていないからこそ、既存のブロックチェーンプラットフォームに対する影響と戦うことは愚かに思えるかもしれない。

著名なビットコインのエバンジェリストで作家でもあるアンドレアス・M・アントノプロス(Andreas M. Antonopoulos)氏がよく述べているが、量子コンピューターの脅威は過大評価されていることが多いと同氏は考えている。

「極めて容易に他のアルゴリズムに移行することができる」と、昨年行われた月次の質疑応答の中で述べている。「実際には人々が考えているほど大きな脅威ではない」

さらに、量子コンピューターの能力は現在想像しているよりもはるかに優れたものであるかもしれないが、はるかに過剰評価されている可能性もある。

「グーグルの量子技術革新は仮想通貨の破壊には遠く及ばない原始的なタイプの量子コンピューティングだ」と、ビットコインのコアデベロッパーのピーター・トッド(Peter Todd)氏は述べる。「量子コンピューターの拡大が可能であるかさえも分からない」

しかし、量子コンピューティングが今後のブロックチェーンネットワークにとって問題になるというのが一般の解釈なのであれば、ウォータールー大学のケーシャブ教授は次のように問いかける。

「今、それについて何かに取り組むべきなのではないか」

ケーシャブ氏は、新たに委託された同氏の研究チームは格子暗号多変数公開鍵暗号など多くの有望な「耐量子暗号」ツールを検討すると述べた。同チームの研究者は、エンタープライズ向けハイパーレジャーファブリック(Hyperledger Fabric)ブロックチェーンでの試験から開始していく。

広範囲の暗号分野で取り組むべきものが他にもたくさんあると、ケーシャブ氏は述べる。米国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology: NIST)による公募にでは、「耐量子の公開鍵暗号アルゴリズム」について研究者や学者から80を超える提案が提出されているという。

NISTの暗号公募に自身の案を提出しているポスト・クォンタムのアンダーセン・チェンCEOは次のように述べている。

「量子コンピューターからの脅威に対抗するために必要なものを分析するために、量子コンピューターを誕生させる必要はない。何で十分なのか、十分でないのかは、数学的に解明することができるものであり、試行錯誤するものではない」

翻訳:Emi Nishida
編集:T.Minamoto
写真:Model quantum computer image via Shutterstock
原文:What Google’s ‘Quantum Supremacy’ Means for the Future of Cryptocurrency