Visaの「オーガニックな」ステーブルコインレポートが見逃していること

暗号資産(仮想通貨)におけるボットについて語るとき、我々は何をテーマにしているのだろうか? 暗号資産支持者たちはしばしば、ブロックチェーンベースのピア・ツー・ピアのツールや通貨が、人間の自由や金融の自由を促進すると考えているが、何年も前から、暗号資産取引のうち実際に人間同士で行われている取引はごく一部であることが知られている。

リアルな人間による利用

これを裏付けるように、Visaとデータ会社Allium Labs(アリウム・ラボ)が共同で発表したステーブルコインの使用に関する最新のレポートでは、4月のステーブルコイン取引のわずか10%未満(総取引量2兆2000億ドルのうちわずか1490億ドル)だけが「リアルな(実在の)人間」によるものだったことが判明した。

2社は、ボットや大規模トレーダー(おそらく取引所のような事業体を意味する)をフィルタリングすることで、「オーガニックな決済活動」を測定する新しい指標を作成した。

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このニュースは、ステーブルコインが世界中に普及し、特に発展途上国では、インフレや厳しい資本規制から身を守るために、ユーザーはUSDT(テザー)やUSDC(USDコイン)のようなドル連動型資産に目を向けており、その普及はうなぎ登りだという考えと矛盾する。

実際、ステーブルコインは、暗号資産の中でもプロダクト・マーケット・フィットが明確で、実際のユーザーが存在すると思われる明確な分野の1つとして浮上していた。

最大のステーブルコイン発行会社であるTether(テザー)社は、2024年第1四半期に45億ドルという皆が羨やむほどの利益をあげた。これは、既存金融機関(Visaを含む!)からブロックチェーンスタートアップまで、多くがこの分野への参加を望む理由のほんの一端だ。

では、調査結果はいったいどういうことなのだろうか? ステーブルコインは、最近登場するようになった多くのいわゆる「ゾンビプロジェクト」のように、金融革命というアイデアを過剰に約束し、その実現は不十分な暗号資産の誇大宣伝の一例なのだろうか?

ボットがステーブルコイン取引高の90%以上を牽引しているとしても、月間約2500万人のユニークユーザーが、4月だけで約1500億ドルの価値をやり取りしたという「オーガニックな利用」を示す数字は依然として目を見張るものだ。

これは、他のフィンテックプラットフォームで活発に取引されている資本と比較すると見劣りするかもしれないが、決して軽視できる数字ではない。

「視野の狭さ」

しかしもっと重要なことは、なぜVisaがボット取引にこれほど関心を持つのか、そしてVisaビザが有効な利用方法と考えているのは何かということだ。

レポートで使われた手法によると、「インオーガニック・ユーザー・フィルター」は、「1000件未満のステーブルコイン取引と1000万ドル未満の送金を開始したアカウントから送信された取引」のみをカウントしている。

「手短に言えば、Visaがやろうとしていることには大きな問題があると思う」とコロンビア大学ビジネススクールの非常勤教授で、Paxos(パクソス)のBUSD(バイナンスUSD)の元ファンドマネージャーであるオースティン・キャンベル(Austin Campbell)氏。「ビザは決済会社だ。彼らはおそらく、ピア・ツー・ピアや小規模な商業決済のように思える暗号資産の指標を手に入れようとしているのだろう」と続けた。

「これは、自動取引だけでなく、すべてのトレーディングを除外しようとすることを意味する」とキャンベル氏は指摘。言うまでもないことだが、トレーディングは人々が暗号資産を使う理由のかなり大きな部分を占めている。

さらに、キャンベル氏が知る限り、ビザのレポートではBinance(バイナンス)やCoinbase(コインベース)のような中央集権型取引所のウォレットアドレスは除外されている。これらの企業は、プリペイドカードのようなサービスに使われるステーブルコインを保有している。

決済会社であるVisaの主要ビジネスが、ステーブルコインの普及によって混乱する可能性があるからといって、Visaがデータを偽っていると言っているわけではない。あるいは、実際のピア・ツー・ピアのステーブルコイン利用を正確に読み取ることが、有益ではないと言っているわけでもない。

しかしおおむね、「Visaの視野の狭さは、ステーブルコインよりもVisaの現状を反映している」とキャンベル氏は述べた。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Wonderlane/Creative Commons
|原文:What Visa’s ‘Organic’ Stablecoin Report Misses