アメリカン大学のヒラリー・アレン(Hilary Allen)法学教授はポッドキャストで、ステーブルコインは銀行システム、ひいては一般大衆にとって危険な脅威だと述べた。同氏の見解では、ステーブルコインは銀行を不安定にし、最終的には政府による救済が必要になるかもしれない存在だ。
アレン氏の発言は、米国議会で連邦レベルでのステーブルコイン規制を求める新たな動きが出ている中でのものだ。大統領選挙の年にステーブルコイン法案が成立する可能性は低いが、アレン氏はこうした法案が「ステーブルコインに公的サポートを与える」ことを懸念している。同氏にとって、「ステーブルコインは重要な役割を果たしておらず、率直に言って、禁止されるべきもの」だ。
電子マネー2.0
アレン氏の懸念は妥当だろうか? 競争に反対し、規制の明確化を好まない人々にとってはそうだろう。アレン氏が、怖くて役に立たない流行と形容しているものは、過去25年間で最も革命的な金融イノベーションのひとつであるノンバンクが発行する電子マネー(eマネー)のアップグレード版だ。
EUは2000年代初頭、より多くの人々がより迅速で安価なデジタル決済を利用できるようになるべきだと判断した。このことを念頭に置いて、EUの立法者は電子マネーの規制フレームワークを策定し、テクノロジーを最大限に活用するスタートアップ、いわゆるフィンテック企業が規制された安全な方法で決済手段を提供できるようにした。
その背景にある考えはシンプルなものだった。銀行は複数のサービスを提供する複雑な機関であり、より高いリスクと規制強化の対象となっているため、デジタル決済を行うために銀行口座を開設することは通常難しく、コストもかかる。
その解決策は、ノンバンクが顧客から受け取った現金を電子マネーに変換し、プリペイドカードや電子機器を通じてデジタル決済に利用できるようにするという1つのサービスに絞った別個のライセンス・規制のシステムを整備することだった。
実際のところ、電子マネー発行会社は狭い意味で銀行と同じような仕事をしている。電子マネーの残高が常に価値を失うことなく現金に戻せるよう、顧客から受け取った現金を保護または保証することが法的に義務付けられている。
彼らはライセンスを受け、監督されている存在であるため、顧客は、規制上の重大な失敗を除けば、自分の電子マネーが安全だと知って安心できる。
従って、既存のステーブルコインの大部分、つまり米ドルのような法定通貨連動型ステーブルコインが、単なる電子マネーに工夫を加えたものであることは容易に理解できる。ブロックチェーン上で発行されるため、各国の決済システムに制限されず、グローバルに流通させることができる。
ステーブルコインは恐ろしい金融商品ではなく、まさに「電子マネー2.0」であり、金融セクターの競争激化、消費者のコスト削減、金融包摂の推進という電子マネー本来の約束を実現し続ける可能性を秘めている。
しかし、これらの約束が果たされるためには、ステーブルコインは連邦レベルで適切に規制される必要がある。連邦法がなければ、米国内のステーブルコイン発行者は、顧客の資金の分別管理や準備資産の完全性に関して、統一的に設計されておらず、一貫して施行されていない州レベルの送金業者法の適用を受け続けることになる。
EUの数十年にわたる電子マネーの経験と他国がもたらした改善を考慮すると、効果的なステーブルコイン規制は、ノンバンク・ライセンスの付与、中央銀行口座への直接アクセス、裏付け資産の破産保護という3つの柱を中心に構築されるべきだ。
ノンバンク・ライセンス
第一に、ステーブルコインの発行を銀行に限定することは矛盾している。銀行の本質は、必ずしも100%裏付けされていない預金を一般大衆から預かる可能性であり、これは伝統的に「部分準備銀行」として知られている。そしてそれは、銀行が自己資本だけを使わずに融資を行えるようにするための手段だ。
一方、ステーブルコイン発行者の目標は、各ステーブルコインが流動性資産で完全に裏付けされることだ。彼らの唯一の仕事は、現金を受け取り、その見返りとしてステーブルコインを提供し、受け取った現金を安全に保管し、誰かがステーブルコインを持って換金に来たらいつでも現金を返すことだ。お金を貸すことは彼らのビジネスではない。
ステーブルコイン発行者は、電子マネー発行者と同様に、決済分野、特に国境を越えた決済において銀行と競合することになっている。銀行に取って代わったり、銀行になったりすることは想定されていない。
だからこそ、ステーブルコイン発行者は、EU、英国、ブラジルの電子マネー発行者のように、特別なノンバンク・ライセンスを付与されるべきである。限定された活動や低いリスクに見合った資本要件を含む要件を備えた、よりシンプルなライセンスだ。銀行ライセンスは不要であり、銀行ライセンス取得を義務付けるべきではない。
中央銀行口座へのアクセス
第二に、より低いリスクを強化するために、ステーブルコイン発行者は、裏付け資産を保有するための中央銀行口座を持つことができるべきだ。
顧客から受け取った現金を銀行口座に移すか、短期証券に投資することが一般的に安全な選択肢だが、どちらもストレス時にはリスクが高まる可能性がある。
米国のステーブルコイン発行会社サークル(Circle)は、シリコンバレー銀行(SVB)が破綻し、SVBに預けていた準備金33億ドル(準備資産全体の10%近く)が一時的に利用できなくなり、大変な思いをした。
また、SVBなど、米国債を保有していた複数の銀行は、2022年に金利が上昇し、国債の市場価格が下落したことで損失を被り、流動性が不足し、引き出しに対応できない銀行もあった。
銀行システムや国債市場の問題がステーブルコインに波及することを避けるため、発行者には裏付けとなる準備金を直接FRB(米連邦準備制度理事会)に預けることを義務付けるべきだ。
このルールにより、米国のステーブルコイン市場の信用リスクは事実上排除され、ステーブルコインの裏付けをリアルタイムで監督できるようになる。電子マネーのように、そして銀行預金とは対照的に、預金保険も必要なく、救済リスクもない。
なお、銀行以外の機関が中央銀行の口座を利用することに前例がないわけではない。英国、スイス、ブラジルなどの電子マネー発行者は、利用者の資金を中央銀行で直接保護している。
顧客資金の保護
第三に、顧客の資金は法律上、発行者の資金から分離され、ステーブルコイン発行者が破綻した場合(例えば、詐欺のような業務上のリスクが顕在化したなどの理由で)、いかなる破産制度の対象にもならないと考えられるべきだ。
このような追加的な保護施策があれば、破産した発行者の一般債権者は顧客の資金を差し押さえることができないため、ステーブルコインのユーザーは清算プロセス中に迅速に資金へのアクセスを取り戻すことができる。こちらもまた、電子マネー発行会社のベストプラクティスといえる。
ステーブルコイン規制に関する一般的な議論では、警戒心をあおるような表現が注意力の散漫な聴衆の印象に残るかもしれない。しかし、注目している人々にとっては、世界中の成功例や経験に基づいたバランスの取れた議論が勝つはずだ。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Gerd Altmann/Pixabay
|原文:How the U.S. Should Regulate Stablecoins