DePINが解決するAIロボットの「空間把握」という課題

2030年、あなたは人型ロボットにスーパーまでケチャップを買いに行かせた。このロボットは歩行可能で、器用な手を持ち、どんな人よりも多くの食料品を運ぶことができる。

高解像度カメラ、ジャイロスコープ、圧力センサーのおかげで、ロボットは棚の間を静かに移動し、絶望的に迷子であることを忘れてしまいそうなほど優雅だ。しかし実は人間と同じように、ケチャップが調味料の棚にあるのか、ソースの棚に置いてある店なのかどうか迷いながら、店内をあてもなくさまよう運命にある。

アメリカの食料品店の買い物客の実に65%が、1回の買い物に店内で30分以上を費やしており、平均的な買い物客は3回に1回は、見つけられなかった商品を買わずに帰っている。

ロボットやコンピューターが物理的な世界を理解し、ナビゲートする方法を大幅に見直さない限り、人型ロボットが人間と比べてあまりうまくいくとは思えない。ただしそれは、独立したロボットが存在する未来にとって、おそらく最も重要なDePIN(分散型物理インフラネットワーク)となるであろう分散型機械知覚ネットワークがなかった場合の話だ。

空間コンピューティングとプライバシー

人間と同様にマシンは、記憶かガイダンスによって移動する。何十年もの間、マシンや人間がガイダンスを得る最も一般的な方法はGPSのような測位衛星を利用することだった。しかし、都市が発展する一方で、GPSは老朽化しつつある。

ほとんど意識することはないが、GPSは目視をベースとした技術であり、ユーザーと複数のGPS衛星との間に障害物があると機能しない。そのため建物が密集した大都市や屋内環境ではうまく機能しない。

そのギャップを埋めようと、いくつかの新しい技術が生まれてきた。そのひとつは、モバイルコンピューティングの黎明期から、携帯電話が通過するすべてのWi-Fiルーターの信号強度を測定することだった。

時が経つにつれ、複雑な三角測量を使い、スカイフック(Skyhook)やグーグルのような企業は、世界中の多くのWi-Fiルーターの位置を示す低解像度の地図を作成することに成功した。グーグルマップのようなナビゲーションアプリケーションが、より良い結果を得るためにWi-Fiをオンにするよう求めてくるのはこのためだ。

過去10年間、批評家たちはWi-Fiルーターを使った三角測量に関連する多くのプライバシーに関する懸念と訴訟を提起した。そして残念なことに、プライバシーはこの戦いに敗れたと言っていいだろう。

Wi-Fi三角測量は、平均的なユーザーが数メートル以内の位置を特定するのに役立つに過ぎず、ケチャップを取ってくるロボットがどの通路にいるのかさえ正しく理解するには不十分だという事実は少しは慰めになるだろう。

そこで大手テック企業は、ジオロケーションの次の有望な進歩であるビジュアル・ポジショニング・システム(VPS)に目をつけた。ナイアンティック(Niantic)やスナップ(Snap)のような企業が先鞭をつけたVPSは、搭載されたカメラで見た世界と、集中管理されたクラウドに保存された世界を比較する。

一言で言えば、VPSはあなたが見ているものをビッグテックに伝えることで、現在位置を知ることができるという取引だ。

ビジュアル・ポジショニング・システムは、理想的な環境ではセンチメートル単位まで正確で、多くの都市公共空間では1メートル以下まで正確だ。比類ない精度を実現できるため、大手テック企業はロボット工学やARメガネの未来のためにVPSに賭けている。

しかし、ここで我々は立ち止まるべきだ。モバイルソーシャルメディアのよりシンプルな過ぎ去りし日のプライバシー侵害の数々を思い起こせば、大手テック企業が我々の目を通して世界を、そして我々のロボットを通して我々の家庭やプライベート空間を見ることができるようになったら、どうなるのだろうか?

企業にもプライバシーが必要

今、スーパーに入って棚を撮影し始めたら、すぐに店から追い出されるだろう。目の高さに置かれた商品は手に取られ、買われる可能性が高く、小売業者は売上を最大化するために商品の置き方に細心の注意を払っている。そのため、店舗のビジュアル・マーチャンダイジングは競争上の秘密として慎重に守られている。

簡単に言えば、店舗は商品レイアウトを中央集権的なサービスと共有することに興味がない。我々のロボットが店舗に現れるだけで、すべての商品がどこにあるかを瞬時に把握できると期待することは不合理。店舗の知的財産を損なうことになるからだ。

その代わり、我々が望むことのできる最善の状況は、個々の商品に関するロボットの質問に答えることができ、企業のセキュリティを損なうことなくAIやARグラスを必要な場所に導くことができる、独自にホストされた安全なシステムを店舗が持つことだ。

注意深い読者であれば、DePINがWeb2時代の大手テック企業を凌駕し、プライバシーを保護する方法で我々にケチャップを買ってくると期待されていることにすでにお気づきだろう。

人間とは異なり、ロボットやコンピュータは互いに空間データを交換し、共同して世界を認識できる。協調的空間コンピューティングは、他の外部情報源に接続することで、マシンが世界をより良くナビゲートすることを可能にする。Web3のDePINパラダイムでは、この交換に金銭的なインセンティブを与え、暗号資産を使って安全を確保することができる。

分散型マシン知覚ネットワーク

買い物ロボットが、企業のセキュリティを損なうことなく、より速くケチャップを見つけられると想像するのはかわいらしい例だ。しかし、分散化されたマシン知覚のもたらす影響は驚異的だ。自動運転車同士が協調し、リアルタイムの交通情報を交換できるようになれば、交通は根本的に変わるだろう。

ロサンゼルスの人口よりも多くの車が走っている北京では、毎日1000年分以上の人間の生産性が移動時間によって失われている。分散化されたマシン知覚は、自動車が互いに協調して、より速く移動することを可能にし、毎日数百年分の生産性を解き放つだろう。

分散化されたマシン知覚はいつの日か、より小さなモジュールでプライバシーを保護するARメガネを可能にするだろう。それはARメガネが、負荷のかかる空間コンピューティングの一部をローカルの測位サーバーに負担させることができるからで、文字や電話の発明と同じくらい重大な方法で人間のコミュニケーションを変えるだろう。

我々の文明が今後20年間で1000億以上の知的マシンを擁するところまで成長するに伴い、分散型マシン知覚ネットワークは、地球上とそれを超えた宇宙空間の両方で、ひとりひとりが自分の居場所を見つける手助けをするようになるだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Hauntedeyes/Unsplash
|原文:DePIN’s Solution to AI’s Biggest Blind Spot