Web3マーケティングがクッキーを変え、インターネットを変える

インターネット上の人々が同意できる、おそらく唯一のことは、インターネットは壊れているということだろう。迷惑な広告が表示され、常にクッキーを受け入れ、追跡され、そして我々のデータは漏洩している。そして、世界中のグーグルやフェイスブックのような企業から逃れることはできない。

もっといい方法があるとしたら?

ブランドと消費者の関係を変える

「Web3マーケティング」の有望性は、広告担当者のニッチな関心事に留まらない。我々全員がインターネットを利用し、メディアを消費し、お気に入りの映画やNBA選手、コーヒーショップやウイスキーブランドと関わる方法を変える可能性がある。

ビットコイン(BTC)が銀行という仲介者を排除してピア・ツー・ピア(P2P)の取引を提供するように、Web3マーケティングはグーグルやフェイスブックを回避して、ブランドが消費者と直接関係を築くことを可能にする。

Web3マーケティングのフレームワークは、理論的には、プライバシーを保護し、より良いターゲティングを可能にし、さらにはユーザーに収益を還元することができる。

「グーグルとフェイスブックはこれをやりたがらないし、やる必要もない。彼らは巨大企業。Web2マーケティングの問題点は、これら巨大企業の製品と仲良くしないと、あなたの運はそこで尽きてしまうところにある」と、モード・モバイル(Mode Mobile)の創設者兼CEOのダン・ノヴァエス(Dan Novaes)氏は語った。

ノヴァエス氏は、顧客とブランドの関係を何年も研究してきた。その始まりは、高校生のときにeコマース会社を立ち上げ、200万ドル(約3億1200万円、1ドル156円換算)規模にまで成長させたことにある。成功の理由のひとつは、米国で卸売りされた電子機器を海外で高値で売る戦略にあった(単純な時代だった)。

「Web3」という言葉が使われる何年も前、ノヴァエス氏は、ビデオを見たりニュースを読んだりするような日常的な作業に対してユーザーに報酬を与えるプロジェクトを立ち上げた。それが、モードモバイルだ。

人々はその仕組みを気に入った。カスタムスマートフォンと「EarnOS」を使って音楽をストリーミングし、その対価として報酬を得ることができる。そこで、「スマートフォンをアーン(稼ぐ)フォンに変える」というキャッチフレーズも生まれた。

モードモバイルは、デロイト(Deloitte)によって最も急成長しているソフトウェア企業の第1位に選ばれ、Google Playストアで1000万ダウンロードを超え、ユーザーが2億5000万ドル以上を稼いだり貯めたりするのに役立ったとされている。

さらに重要なのは、このモデルによって、グーグルとフェイスブックに手数料を支払うことなく、ブランドが消費者に直接声を届けられることだ。

これは、Web2の世界では難しい。「広告市場の90%以上が、グーグル、フェイスブック、その他数社によって独占されている。我々は、このような状況を分散させるべきだと考えている」と、Cookie3のフィリップ・ウィエラニエ(Filip Wielanier)共同創業者兼CEOは語った。

クッキーの問題点

こうした広告の分散化はクリエイターから生まれる。ビッグテックではなく、マイクロインフルエンサーだ。歌手、コメディアン、KOL(キーオピニオンリーダー)のようなクリエイターがブランドから報酬を受け、商品を売り込む。ウィエラニエ氏のチームは、このインフラを構築するために「Cookie3アフィリエイト」とCookie DAOを開発している。

Cookie3が先日、Xに投稿したように、Web2マーケティングはトップダウンで、中央集権的、一方通行のコミュニケーションだ。一方のWeb3はボトムアップで、トークン化され、透明性があり、データ駆動型だ。Web3マーケティングはまた、クッキーという厄介な問題も解決するだろう。

インターネットを使っていると、「クッキーを受け入れる」をクリックすることに時間の半分を費やしているように感じることがある。ソフトウェアのアップデートをダウンロードするときに「利用規約を承認する」をクリックするのと同じくらい無意識になっている。

我々は追跡されることに抵抗を感じながらも、選択の余地がないために「はい」をクリックする。しかし、あなたや私にとっては軽い迷惑であっても、デジタルマーケティング担当者にとっては、ほとんど存在の根幹に関わるような問題だ。

例えば、ケンタッキー州の21〜34歳の男性をターゲットにした広告を出したいとしよう。アメリカ全土に広告を送るのはお金の無駄なので、クッキーを使ってオーディエンスを絞り込む。

問題は、クッキーは不便な次善策でしかないことだ。「クッキーはブラウザ内の非永続的なアイテムであり、ログインデータを保存するために作られたもの」と、Publicis Mediaのブロックチェーン責任者であるクリス・アウトラム(Chris Outram)氏は指摘した。

アウトラム氏はクッキーは「脆弱」と述べた。クッキーを保存しないブラウザもあるし、ユーザーはクッキーを拒否できるし、クッキーは決してマーケティングキャンペーンの要として意図されたものではない。単に、クッキーしか使えるものがないというだけだ。

Web3では? 理論的には、我々はインターネットのインフラを劇的に変え、脆弱なクッキーを、ブランドとユーザーの両方にとってより有用でプライバシーを保護するものに置き換えられるだろうとアウトラム氏は語った。

詳細はまだ未定だが、おそらくゼロ知識証明(オンライン上での自分の行動を明らかにすることなく、自分の関心事をブランドに知らせることができる)が必要になるだろう。「それが魔法の鍵となる」とアウトラム氏。「消費者として提供したデータを解析することができる」と続けた。

忠誠心を持ったユーザーたち

鍵は他にもある。ブランド側の視点に立てば、ユーザーにトークンを与えることで、真の所有権を与え、つながりを強化することができる。

「人々をネットワーク内のオーナーにすることができた瞬間、彼らはもはや顧客ではなくなる。彼らはアンバサダーになる。そして、話し方も行動もまったく違ってくる」とノヴァエス氏。

だからノヴァエス氏のプロジェクトには、Web3トークン「EARNM」が備わっている。彼のWeb2での目標はユーザーを稼ぐ人に変えることだったが、Web3での今の目標は「稼ぐ人をオーナーに変える」ことだ。

Web3で多くの時間を過ごした人なら誰でも知っているように、トークン保有はコミュニティと忠誠心を築くことができる。これはブランドにとって力の源だ。かつて、大物VCのクリス・ディクソン(Chris Dixon)氏が言ったように、「誰かが何かを所有し、直接関与していると感じると、それについて話をしたくなる。伝道したがるようになる」。

ノヴァエス氏は、自身が運営するモードモバイルとEARNMコミュニティの驚くべき例をあげた。EARNMのウェブサイトで紹介されているように、EARNMのユーザーはトヨタ・カローラやランボルギーニ、あるいは世界最大のクッキーなどの賞品を獲得できる。だが、目立つ賞品は他にある。つまり、「トロール(荒らし)軍団のパワーを利用する」だ。

どうやってトロール軍団を利用するのか?

ノヴァエス氏は、同社のメーリングリストには100万人以上の登録者がいて、彼らはとても熱心で、とても協力的で、喜んで指示に従い、意図したターゲットに対して荒らし行為を働くだろうと説明した。

「『ジェフのツイッターでこの絵文字を使って……』というようなメールを私が送ったとする。軍団はそれをやるだろう」(もちろんノヴァエス氏は、荒らし行為は合法なものでなければならないと明言した)。

しかし、荒らし行為が重要なのではない。トロールキャンペーンが悪の手に渡れば、あるいは正しい手に渡っても、有害なものになることは容易に想像できる。しかし、より重要なポイントは、コミュニティが非常に熱心で、非常に忠実なことだ。すべてのブランドはこれを切望している。

「あなたと足並みの揃った軍団がいる。それは本当に、本当に強力なことだ」とノヴァエス氏は語った。

Web3マーケティングの問題点を克服する

Web3マーケティングが特効薬だと言っているわけではない。裏目に出ることもあり得るし、実際にそうなったこともある。「Web3には、極めて混迷を極め、持続不可能な側面もある」とノヴァエス氏。一部のWeb3プロジェクトがユーザーに無料の製品やサービスを惜しみなく提供し、短期的にしか機能しなかったように。

誰がこのマーケティングに資金を出しているのか? 多くの場合、報酬は高騰するトークン価格かプロジェクトの資金から与えられる。問題は、価格が下落し、資金が枯渇する可能性があることだ。「アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)のようなことは何度も何度も起こるだろう」とノヴァエス氏は述べ、最近のエアドロップのトレンドは「持続可能ではない」と予測した。

ノヴァエス氏のプロジェクト「EARNM」は、「ミステリーボックス」を報酬とする巧妙なシステムでこの問題に取り組もうとしている。すべての人にトークンを配るのではなく、ユーザーはミステリーボックス(さまざまな種類の賞品が入っている)のロックを解除するためにミント(発行)手数料を支払い、このミント手数料がシステムに収益を注入し、デフレ圧力を生み出す。

そして、ミステリーボックス内の賞品には、トークノミクスをより持続可能なものにすることを目的とした、異なる「権利確定期間」が設定されている。

分散化の哲学的なメリットはさておき、Web2マーケティングの現状にはもうひとつ具体的な問題がある。それは、もはや効果的ではないことだ。

「ノイズを切り抜けるのは難しい」とノヴァエス氏は言う。あなたがスタートアップを運営していて、新しいキラー製品がApp Storeにあるとしよう。

「アプリを発表しても、なんの注目も集めないだろう。人々は気にも留めない。あなたの関心は、非常に様々なものによってスパムされている。だから、ユーザーを獲得するためのコストは上がる一方だ」とノヴァエス氏は指摘した。

たしかに、これはすべてまだ非常に理論的な話であり、規制や法的な懸念がどのようにイノベーションを複雑にするかはわからない。しかし、新しいWeb3製品は、理論的には、マーケッターに新しいツールキットをもたらす可能性があることも事実。そして消費者が実際にそれを楽しむ可能性がある。

「ハンバーガー・クーポン」vs「ウイスキー・アンバサダー」

Web3マーケティングの可能性を説明するために、アウトラム氏は「ハンバーガー・クーポン」と「ウイスキー・アンバサダー」という対照的な例をあげた。

従来のWeb2マーケティングでは、顧客にハンバーガーのための1ドルクーポンを渡すかもしれない。しかし、それではつまらない。ハンバーガー好きでさえ、あまり気にしないだろう。そこで、代わりに次のモデルを想像してみよう……。

「私はウイスキーが好き。そして、良いウイスキーを見分けられると証明することもできる。もしあなたが高級ウイスキーを提供する会社なら、私をあなたのブランドの前面に出したいと思うだろう?」とアウトラム氏。

では、どうやってウイスキーを理解していることを証明するのだろうか(ウイスキーの嗜好を証明するほとんどの方法は、明らかにオフラインのものだ)。

Web3の新しいツールのおかげで、ウイスキーの試飲会に参加した証拠や、特定の樽を購入した証拠をオンチェーンで示すことができるだろうとアウトラム氏は述べた。

そして、これはすべてプライバシーを守るものなので、ブランドにも見せることができる。「どのウイスキーブランドにも、私のオンチェーンカスタマー履歴を見ることを許可する。つまり、『私のところに来て』というサインを送る」とアウトラム氏は説明した。

これはクッキーの改良版、ブランドと顧客の関係の改良版でもある。そしてこれはインターネットの改良版だ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:How Web3 Marketing Changes the Game