イーサリアム現物ETFの承認をめぐる3つの疑問

米証券取引委員会(SEC)は5月23日、イーサリアム(ETH)を保有するETF(上場投資信託)を認めるための重要なルール変更を承認した。ブルームバーグのアナリストから予測市場に至るまで、そのわずか1週間ほど前までは、ほぼすべての人が承認は見送られると考えていた。多くの人が不意を突かれた。

ビットコインETFの上場をめぐる争いでSECが恥をかいたことを考えると、SECのゲーリー・ゲンスラー委員長が、なぜイーサリアム現物ETFの承認を保留すると見られていたのか私にはまったく理解できなかった。

控訴裁判所の3人の裁判官が、ビットコインETFを却下したSECの理由を「恣意的かつ専断的」と形容したことを思い出してほしい。実質的に同じことを行うビットコイン先物商品はすでに承認されていた。同じ状況はイーサリアムにも当てはまり、デジタル・カレンシー・グループ(Digital Currency Group)がビットコインETFのために行ったのと同じように、この問題について喜んで裁判に訴える企業も出てきただろう。

今回のSECの判断も同じように恣意的に見えるが、その方向は正反対。承認が公表される数時間前、CoinDeskのジェシー・ハミルトン(Jesse Hamilto)記者とのインタビューでゲンスラー委員長は、「裁判所がどのように法律を解釈するか」に従うと述べ、「DC巡回区控訴裁は異なる見解を示し、我々はそれを考慮に入れて、方向転換した」と述べていた。

ではなぜ今なのか? イーサリアムにとって今後どのような意味があるのか? そして、これは他の暗号資産(仮想通貨)にとって良い前兆なのか?

疑問1:決定は政治的な動機か?

すでに多くの人が指摘しているように、暗号資産の規制状況に関して変化があったようだ。23日、米下院はこれまでで最も充実した暗号資産に特化した法案を可決する歴史的な投票を行った。これは、上下両院がSECによる物議を醸した暗号資産カストディ会計規則の撤回を決議したことに続くものだった。

どちらの決議にも提案した共和党に、民主党の賛成票が加わり、暗号資産に対するアメリカ政府の長い戦争は終わりに近づいているようだ。特筆すべきことに、バイデン大統領は、ホワイトハウスが公式に反対しているFIT21に拒否権を行使しないと発表した。これは大きな譲歩だ。

このような議会での出来事がリアリティチェックのように作用し、ゲンスラー委員長に暗号資産へのアプローチが政治的なリスクになりつつあることを確信させた可能性がある。

トランプ前大統領も暗号資産への支持を大々的に表明したばかりで、SECが申請者と「生産的な」ミーティングを行っていないとしてイーサリアム現物ETFを否定すれば、絶好の攻撃材料となっていただろう。

確かに、SECはイーサリアム現物ETFをすぐに上場させることを承認したわけではなく、アーク・インベスト(Ark Invest)、ビットワイズ(Bitwise)、ブラックロック(BlackRock)、フィデリティ(Fidelity)、グレースケール(Grayscale)などの新規証券登録フォーム「S-1」が承認された場合に、シカゴ・オプション取引所、NYSE Arca、ナスダックといった証券取引所にETFを上場することを許す「19b-4」申請を承認しただけだ。S-1申請の承認までには、何カ月もかかる可能性がある。

疑問2:イーサリアムにとっての意味は?

まず第一に、イーサリアム現物ETFがローンチされることは、時価総額第2位の暗号資産であるイーサリアムに対する機関投資家の関心が高まる可能性を意味する。

この動きは一種のお墨付きとして機能するだけでなく、ETFがビットコインに対して行ったのと同じように、確定拠出年金「401k」の分散投資を考えている普通の個人投資家からヘッジファンドまで、誰もがこの資産を購入するための身近なオンランプを得ることになる。

「イーサリアム現物ETFの発表によって、多くの人々が不意を突かれた。ビットコインETFが証券会社や大規模な登録投資顧問向けに暗号資産ETFのロードマップを切り開いたとはいえ、多くの機関投資家関係者は今、イーサリアムの状況について営業チームを教育し、適切なインフラを構築するために奔走していることだろう」とフレームワーク・ベンチャーズ(Framework Ventures)の共同設立者であるマイケル・アンダーソン(Michael Anderson)氏は語った。

また、ETFは原資産へのエクスポージャーを得るための手段に過ぎないが、実際にイーサリアム自体のユーザーを増やす可能性もある。

1つのシナリオとしては、SECがファンドマネジャー(資産運用会社)にイーサリアムのステーキングを許可しない可能性が高いため、新たなイーサリアム投資家は追加利回りを得るために、自分自身でステーキングを行いたいと判断する可能性がある。

関連して、暗号資産ベンチャーキャピタルのヴァリアント・ファンド(Variant Fund)の最高法務責任者であるジェイク・チャービンスキー(Jake Chervinsky)氏がXで述べたように、現物ETFの承認は、イーサリアムが証券に当たるのかという長年の疑問に対する答えとなりそうだ。

チャービンスキー氏によると、もし現物ETFの取引が許可されれば、特にステーキングされていないETHは、SECでは証券とは見なされていないことになる。規制が不透明なため、現在多くの機関投資家が取引を控えていることを考えると、このこと自体が多くの機関投資家を市場に参入させる可能性がある。

より技術的なレベルでは、イーサリアム現物ETFがビットコイン現物ETFと同じくらいの人気を博すると仮定すると、現物ETFがビットコインと同じくらい膨大な量のイーサリアムを買い占める世界は、イーサリアムにとってどのような意味を持つのか、多くの疑問が残っている。買い圧力はネットワークと周辺のレイヤー2にとって、大きなものになるだろう。

イーサリアムは、取引のたびにトークンを破壊するバーン(焼却)メカニズムを導入し、長い間、イーサリアムをデフレ的資産にしてきた。しかし、ソラナ(Solana)のような代替チェーンの人気が高まるにつれて、イーサリアムの取引高はその供給量が再び増加するほど低下しており、これは資産の価格と需要に長期的な影響を及ぼしている。ETFは、イーサリアムの経済性を支える一助となる可能性がある。

最後に、ETFがステーキングエコノミーにどのような影響を与えるか興味深い。リド(Lido)のようなアプリケーションを使えば、少量の暗号資産でも簡単にステーキングできるため、ステーキング量に警鐘を鳴らす人もいる。ETFによってさらに多くのイーサリアムが流通から引き上げられる可能性があるため、こうした懸念はさらに大きくなるかもしれない。

疑問3:ソラナのようなチェーンにとっての意味は?

前述したように、イーサリアム現物ETFの承認はイーサリアムに対するお墨付きのようなものであり、チェーンにとってはすでに支配的なそのブランドポジションを固めるチャンスとなりそうだ。

「イーサリアムETFに、ビットコインETFで見られた機関投資家のフローのほんの一部でも見られると仮定すると、イーサリアムが少なくとも市場シェアと評価の点で今後数年間、分散型アプリ(Dapp)プラットフォームの文句なしのリーダーとして確固たる地位を築くことは十分可能だと思う」とアンダーソン氏は述べた。

しかしこの動きは、カルダノ(Cardano)、ソラナ、リップル(Ripple)のような代替チェーンが大規模金融の世界にさらに参入する道を開くかも可能性もある。

もちろん、ビットコインとイーサリアムは、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)のような既存金融大手がすでに受け入れていたため、より有利なポジションにあった。イーサリアム先物はCMEですでに3年間取引されているが、他の暗号資産は検討されているかどうかさえ明らかではない。

また、SECはイーサリアムは証券であると考えていると示唆していたが、ソラナ(SOL)、カルダノ(ADA)、アルゴランド(ALGO)のような暗号資産が投資契約に当たるかどうかを判断するために使用される「ハウィーテスト(Howey Test)」によって定められた定義に適合していると積極的に発言していることも注目に値する。これは、ソラナETF誕生に向けたハードルとなるかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長(Jesse Hamilton/CoinDes)
|原文:3 Questions About the SEC’s Abrupt ETH ETF Approval