天然資源、美術品、プライベートエクイティ(未公開株式)などのオルタナティブ資産は、伝統的資産(株式や債権)よりも高いリターンと低いボラティリティが期待できるため、人気の投資対象になっている。
しかし、これらのオルタナティブ資産には、最低投資金額、流動性の制約、透明性の欠如など、多くの制限がある。
トークン化(ブロックチェーンテクノロジーを通じて伝統的資産をデジタルトークンに変換するプロセス)は、こうした制限の一部を克服できる可能性があり、その成功はオルタナティブ資産を一変させる可能性がある。
トークン化がもたらすメリット
ブロックチェーンがもたらす透明性の高い、変更不可能な台帳によって、トークン保有者は投資に関する情報にリアルタイムにアクセスできるようになり、従来不透明だった市場の透明性が向上する。
この可視性は、クレジットポートフォリオのキャッシュフローとパフォーマンスを監視するうえで画期的なものだが、トークン化は商品の基本的な特性を変えるものではない。オンチェーンであろうとオフチェーンであろうと、資産の根本的なリスクとデューデリジェンスの重要性は変わらない。
トークン化の最も有望な側面の1つは、価値の高いオルタナティブ投資へのアクセスを拡大する可能性だ。トークン化によって所有権が分割されれば、参入障壁は低くなり、従来は機関投資家や超富裕層に限られていた投資機会に、より幅広い投資家が参加できるようになる。
かつては流動性の低かった資産が取引可能になり、流動性が高まることで、トークン化は市場のダイナミズムを再構築し、ブロックチェーンを活用した流通市場を生み出す可能性がある。
コスト削減も大きなメリットだ。トークン化によって発行プロセスが合理化され、投資家と資産運用会社の双方にとってコストが削減される。
資産運用会社は浮いたコストの一部を投資家に還元できるため、効率化によって得られる利益は投資家にとってリターンの向上につながる可能性がある。
証券会社などの販売会社にとっては、管理負担や経費が減ることで、顧客との関係深化や新商品のイノベーションに集中できるようになる。金融業務にAI(人工知能)を組み込むことで、効率性と正確性が向上し、メリットがさらに拡大する可能性もある。
トークン化によってプライベートマーケットの透明性は向上するものの、そこには限界もある。ブロックチェーンテクノロジーは可視性を高めるが、完全な透明性は期待できない。
プライベートマーケットの資産運用会社は、投資先に関する情報を一般公開されているものよりも多く持っているため、情報の非対称性を市場機会に活用し、より高い利回りを得ることができる。
このようなプライベートマーケット固有の特性は、トークン化がもたらす進歩があったとしても、今後も続く可能性が高い。
トークン化されたオルタナティブ資産はすでに活発に取引されている。伝統的金融機関は、プライベートエクイティやプライベートクレジットへの投資のトークン化版を、プライベートブロックチェーンやパブリックブロックチェーン上のフィーダーファンド(マスターファンドに投資することを目的としたファンド)を通じて提供し始めている。これらのトークン化ファンドは、従来のものよりも最低投資金額が大幅に低く設定されており、より幅広い投資家に新たな道を開いている。
分散型金融(DeFi)では、プラットフォームがスマートコントラクトを利用してプライベートクレジット取引を促進しており、ブロックチェーンテクノロジーとオルタナティブ投資の接点が拡大していることを浮き彫りにしている。
リスクと現状打開の鍵
しかし、トークン化されたプライベート資産への投資には新たなリスクがある。規制や法的な不確実性は依然として大きな障壁であり、トークン化の多くの側面はまだ法的なグレーゾーンにある。
投資家はこうした不確定要素を乗り越えなければならず、トークン化された取引の利回りは、追加リスクを補うために従来の市場よりも高くなる可能性が高い。
技術的な課題も依然として残っており、特にオンチェーンとオフチェーン間のシームレスな統合が必要だ。信頼性の高いデジタルキャッシュの選択肢がないことや、様々なブロックチェーンプラットフォーム間の相互運用性の問題が、堅固な流通市場の発展をさらに妨げている。
規制の明確化、技術の進歩、業界全体の協力が、これらのハードルを乗り越える鍵だ。これらの問題が解決されれば、トークン化はオルタナティブ資産市場にアクセシビリティ、透明性、効率性をもたらし、より幅広い投資家に価値を解き放つ可能性を秘めている。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:The Promises and Perils of Private Asset Tokenization