ミームコインは、かつてのDeFi(分散型金融)の「ワイルドウエスト(西部開拓時代の無法地帯)」というイメージを再現している。ドージコイン(DOGE)や柴犬コイン(SHIB)の飛躍的成功のおかげで、ミームコイン市場は544億ドル(約8兆5400億円、1ドル157円換算)という、これらのトークンが誕生した頃には考えられなかった時価総額を誇っている。
ミームコインの取引高は2024年3月、2022年末に暗号資産(仮想通貨)バブルが崩壊する直前の水準に達した。復活は、見慣れた傾向を浮き彫りにしている。トレーダーは盛り上がりとFOMO(機会を逃すことへの恐怖:Fear of Missing Out)に簡単に振り回され、純粋に本能と欲望に基づいて衝動的な投資判断を下している。
ハッシュキー・キャピタル(HashKey Capital)のチームと私は『Digital Asset Valuation Framework(デジタル資産評価フレームワーク)』と題した本の中で、市場特有のボラティリティに対処し、ミームコインブームの落とし穴を回避するために、ファンダメンタル評価フレームワークと高度なテクニカル分析を適用する根拠を提示している。
率直に言うと、この最も激動する市場で真の価値を見極めるためには、これまで以上に強固なフレームワークを導入し、冷徹な目で判断しなければならない。このことは、デジタル資産において持続的な優位性を獲得し、長期的な価値向上を目指す機関投資家にとりわけ当てはまる。
ファンダメンタル分析の重要性
どのような金融市場でも、投機的な盛り上がりが合理的な投資戦略を霞ませてしまうことがある。ドットコム・バブルの崩壊、サブプライム・ローンのメルトダウンなど、数え切れない例を考えてみてほしい。
暗号資産では、投機的な盛り上がりがとりわけ盛んで、ソーシャルメディアでの膨大なやり取りと、次の有望トークンがすぐそこにあるという感覚に後押しされている。
フィナンシャル・タイムズ特派員のジョシュア・オリバー(Joshua Oliver)氏は、サム・バンクマン・フリード(Sam Bankman-Fried)氏とFTXの教訓を中心にこの現象について新しい本『Hype Machine』を書いた。
ファンダメンタル分析は、巧妙なマーケティング担当者、思い上がったプロジェクト創設者、自己中心的なエアドロップファーマーなどによって流布された宣伝やプロパガンダの数々を乗り越え、デジタル資産の本質的な価値を理解するために必要な基盤を提供する。
Web3への投資の是非を検討する際に考慮すべき重要な要素には、プロジェクトチームの実績、使用されている基盤テクノロジー、開発されているものの実用的なユースケース、現実世界での普及の具体的な証拠などがある。
このような昔ながらの、本質的な分析によって、投資家は市場の一時の盛り上がりではなく、プロジェクトの長期的な持続可能性を評価できる。
これは、短期的な売買益を越えた持続可能な価値創造に基づくアプローチ。とはいえ、長期的な持続可能性がゼロのプロジェクトでも、一部の投資家を潤わせることができる。
ミームコインを超えて
メディアによる絶え間ないニュースやバイラルマーケティングを差し置いても、ミームコインの魅力は理解できる。実質的な価値がないと揶揄されることも多いが、ミームコインはそのパフォーマンスで世界を驚かせている。
2021年の最初の5カ月間でドージコインの価値が1万2000%上昇したのは、その一例だ(ただし、12月中旬までに価格は80%下落した)。最近では、ドッグウィフハット(WIF)とぺぺコイン(PEPE)が同様の結果を出しており、前者はリキッドファンドのStratosが2024年第1四半期に137%のリターンを記録することに貢献した。
ミームコインは一般的に、基本的な価値や実用性に欠けるが、投機に参加するトレーダーの信念によってその運命は揺れ動く。しかし、だからといって、単に念じるだけでミームコインを価値あるものに変えることができるわけではない。徹底的な分析とリスクの明確な理解なしにミームコイン市場に参加することは、投資ではなく、事実上ギャンブルだ。
ファンダメンタル分析の重要性は、特にボラティリティの高い市場においては、いくら強調しても良い。これらのツールは、奇跡の急成長を遂げる次なるトークンを追い求める無謀な衝動に駆られることなく、綿密な調査と確かな証拠に基づいて意思決定する力を投資家に与えてくれる。
ミームコインの評価にも使用可能なものを含めた、有意義な評価フレームワークは、ボラティリティの高い時期の市場ダイナミクスをより深く理解することに役立つ。これらのテクニックを使えば、盛り上がりの正体を見抜くことができる。
盛り上がりは、幸運な一部の人にとっては魔法のようなものかもしれないが、それ以外のほとんどすべての人にとっては効果がないもので、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でマシュー・マコノヒーが演じたキャラクターのセリフを引用すれば「妖精の粉」だ。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ドッグウィフハット(Know Your Meme)
|原文:In Defense of Fundamental Analysis Amid Memecoin Mania