昔ながらのVCも悪くないかもしれない──起業家はどんなVCと付き合うべきか

消費者向け暗号資産(仮想通貨)、つまりマスアダプションを実現するユーザーフレンドリーなアプリケーションに特化したレイヤー2ブロックチェーンの創設者として、私は消費者向け暗号資産に投資するよりも、それについて語る方がなぜ人気があるのかについて考えることに多くの時間を費やしてきた。インフラが愛されるだけでなく、お金が集まるというのは、開発者の間でよくある不満だ。

インフラプロジェクトの創始者がこのようなことを言うと、滑稽に聞こえるかもしれないが、我々の成功は厳密には消費者向け暗号資産の普及に依存するはずなので、これは解決すべき重要な問題だ。

考えれば考えるほど、こうした消費者向けアプリケーションに投資する人々のインセンティブを理解するためには、一歩離れて見る必要があることに気づいた。

暗号資産投資家はしばしば、投資するプロジェクトと足並みが揃っていないように思える。それは、トークンがベンチャーキャピタル(VC)全体の仕組みを変えつつあるからかもしれない。もちろん、ベンチャーキャピタルはすべて同じではない。

消費者向けアプリケーションが投資を受けることを望むのであれば、プロジェクトの創設者とその資金提供者が何を達成したいのかについて、より誠実な対話が必要になるだろう。

ベンチャーキャピタルを理解している人に尋ねたり、お気に入りの検索エンジンにベンチャーキャピタルの仕組みを尋ねたりすれば、ほぼ同じ答えが返ってくるだろう。つまり、投資家がスタートアップに資金を提供し、株式を取得し、伝統的には10年以上かけてリターンを期待するプライベートエクイティファイナンスだ。これまで、ベンチャーキャピタルはほとんどそのように機能してきた。

そうなると、暗号資産におけるベンチャーキャピタルも、同じことを期待するだろう? ところがそうはいかない。トークンの登場がすべてを変えた。

トークンのインパクト

イーサリアムを考えてみよう。イーサリアムは最も有名なブロックチェーンの1つであるだけでなく、開発者の大半が集まっているブロックチェーンでもある。

しかし、イーサリアムの真のイノベーションは、誰でも消費者向けの暗号資産アプリケーションと、それに対応するユーティリティ用のトークンを立ち上げることができるプラットフォームであることだ。

ベンチャーキャピタルはここに新たなチャンスを見出し、いわゆる 「イーサリアム・キラー 」のために数十億ドルを投資した。これらのプロジェクトの多くは失敗し、使われなくなったゴーストチェーンを残したが、資金をつぎ込んだ投資家の多くにとっては有益な試みだった。そして、これがトークンの仕組みの本質に関わっている。

トークンが登場する以前、ベンチャーキャピタルは株式のみを受け取るビジネスに投資していた。メタ(Meta)、Airbnb、ロブロックス(Roblox)などを考えてみて欲しい。

投資した資金を回収する方法は、投資したスタートアップが他の企業に買収されるか、新規株式公開(IPO)を行うことだった。これが、ベンチャーキャピタルが投資に見合うリターンを得るまでに時間がかかった理由のひとつだ。

ブロックチェーンベースのトークンの登場以来、暗号資産プロジェクトへの出資に意欲的な投資家たちは、リターンを得るための新しい手段を発見し、多くの場合、より早くリターンを手にすることができるようになった。

最近のWeb3スタートアップとのベンチャーキャピタル契約の仕組みは、投資契約に応じて、投資家がトークン、株式、またはその両方の一部を受け取るというものだ。

投資家が解決しなければならない主な問題のひとつは、トークンの割り当てがどのように行われるかだ。これは、従来のベンチャーキャピタルでは見られなかった新しい問題だ。

主に考慮するべきなのは次の2点、すなわち、トークンの権利確定(つまり、売却)を行うまでに、ローンチから何カ月待たなければならないかという「ロックアップ」期間と、権利確定期間の長さだ(トークンの割り当てはトークンの総供給量に対する投資額に基づき、権利確定は徐々に段階的に行われる)。

最後に考慮すべきことは、投資家が手にするトークンには流動性があるということ、つまり、オープンマーケットで簡単に売って現金にすることができることだ。これは、売却がはるかに難しい株式のみのモデルとは対照的だ。

せっかちな資本

冒頭の話に戻ると、かつての投資家は投資が成功したかどうかを知るために10年近く待たなければならなかった。だが、現在ではトークンによって1年以内に現金化できるようになった。

ベンチャーキャピタルのあり方を見直す時期に来ているのかもしれない。つまり、どの投資家が10年かけて100〜1000倍のリターンを得ようとしているのか、どの投資家が短い期間で小さなリターンを得ようとしているのかを検証すべき時なのかもしれない。

前者こそ、消費者への普及につながるものだ。なぜなら、なぜブロックチェーンが消費者にとって良いものなのかを広く伝え、製品を作り、発売し、規制当局を味方につけ、実際にブロックチェーンがトラフィックを処理できる状態にするまでには時間がかかるからだ。

後者は、すでに裕福なベンチャーキャピタルをさらに裕福にするだけで、我々が必要としているものではない。

ベンチャーキャピタルの進化する性質について正直に話し合うことで、暗号資産における適切なインフラと消費者向けアプリケーションへの投資が増える道が開かれることを願っている。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Money Knack/Unsplash
|原文:Maybe Old-Fashioned Venture Capital Wasn’t So Bad After All