ビットコインマイニングがAIで逼迫する送電網を安定させる

マイクロソフトはアリゾナ州とウィスコンシン州に巨大なAIデータセンターを建設し、AIを支えるインフラを提供しようとしている。AIは文字通り、アツい。

このようなデータセンターは、膨大な電力を必要とするため、電力網に深刻な負担をかける。ある試算によると、2026年までにAIは、2023年の総需要49GWから増加が見込まれるデータセンターの電力需要96GWのうち、約40GWを消費すると予測されている。

このような電力使用は大量の熱を発生させ、データサーバーを冷却するために大量の水を必要とする。アリゾナ州グッドイヤーにあるマイクロソフトのデータセンターだけで年間5600万ガロンの水が使用されると推定されており、地元の砂漠地帯のコミュニティでは、電力を大量に消費する新しい隣人を受け入れるために水が不足する危険性がある。

柔軟な電力消費

その一方で、ビットコインマイニングは「電力を大量に消費する」と批判されることも多いが、実際には電力網の安定と効率化に役立つ素晴らしい方法だ。ビットコインマイナーは、ほぼリアルタイムで電力使用量を調整できるためだ。

送電網を適切なレベルに保つために、送電網の運営者はユーザーの需要に合わせて発電量を調整することで送電網の「バランスをとる」必要がある。

このプロセスは 「負荷追従」と呼ばれる。歴史的には、発電量を増減させることが、送電網運営者が利用できる唯一のリアルタイム対応策だった。

しかし現在では、電力需要が高い時期あるいは低い時期に、ビットコインマイナーは電力消費を素早く調整し、送電網運営者がバランスを取るために使用できる第2のリアルタイ対応策を作り出すことができる。

再生可能エネルギーの生産は天候によって変動し、送電網のバランスを確立するために増加または減少させることは難しいため、ビットコインマイニングは、スケーラブルで経済的に実現可能な負荷変動ソリューションであることが証明されている。

ビットコインマイニングによって可能になったこの新しい送電網バランス確立パターンは現在、より大規模だが柔軟性の低いAIによる電力使用の道を切り開いている。

しかし、なぜAIも同様にエネルギー使用量をリアルタイムで調整できないのだろうか? ビットコインマイナーのエネルギー使用には、AIデータセンターと比較して独特な側面がある。

ビットコインネットワークは、マイナーが機器の使用を抑えたり、電源を切ったりしても悪影響を受けない、不変の顧客だ。しかし、AIデータセンターはAI計算を抑制するためにサーバーの一部をオフにすると顧客に悪影響が及ぶ。

こうした柔軟性により、ビットコインマイニングは電力需給の変動に迅速に対応でき、送電網を安定させる効果的な方法となり、特に大規模なAIデータセンターからの電力消費に対処することに役立つ。

オクラホマ州のような州は、ビットコインマイニングとその送電網へのメリットを奨励することで、このモデルを受け入れている。5月30日、同州議会は、マイナーが地元の発電事業者に調整可能な負荷を提供している場合、マイニングに使用されるマシンや設備を免税とする法案を可決した。

テキサス、スカンジナビア、アイスランド

テキサス州は風力発電に多額の投資を行っており、エネルギー供給が地域の需要を上回ることが多いため(特に夜間)、送電網に余分な負担がかかる期間が生じている。

ビットコインマイナーは、電力使用量が低下するオフピーク時に稼働を活発化させることで、需要がないために通常であれば未使用となってしまう、風力発電による余剰電力を消費している。マイナーのエネルギー消費は、電力需給の微妙なバランスを安定させ、停電などの混乱につながる可能性のある送電網の過負荷を防ぐことに役立つ。

2021年2月の破壊的な冬の嵐で、テキサス州は電力需要の急増に対応できず、深刻な停電に見舞われた。その際、テキサス州のビットコインマイナーは迅速に操業を停止し、負荷を減らして送電網の安定化に貢献した。

スカンジナビアも風力発電が点在する地域だ。ここでは、風力エネルギーがオフピーク時に過剰に生産され、リアルタイムの需要調整や電力貯蔵ソリューションがないため、無駄になる。ビットコインマイニング施設はこの余剰電力を動的に利用し、かなりの需要を生み出すと同時に、送電網の均衡と全体的な効率の維持に役立っている。

地熱と水力発電が豊富なアイスランドでは、ビットコインマイニング事業はエネルギー市場に不可欠となっている。同国の再生可能エネルギー源は、国民が使用する以上の電力を生み出している。ビットコインマイナーはこの余剰電力を消費し、同国の再生可能エネルギー産業を支える柔軟で安定した需要を提供している。

再生可能エネルギーの成功可能性を高める

ビットコインマイナーが送電網を安定させる効果には、再生可能エネルギープロジェクトの採算性を向上させるという、もうひとつの興味深いメリットがある。

風力発電や太陽光発電は、石炭のような化石燃料に比べて低コストの電力を提供することが多く、これは収益性を最大化しようとするビットコインマイナーにとって極めて重要な要素だ。

しかし、再生可能エネルギーは、発電の断続性や需要と供給のギャップのために、しばしば課題に直面する。例えば、ソーラーパネルは需要が比較的少ない日中に最も多くのエネルギーを生産し、風力タービンは夜間に多くの電力を生産することもある。

しかし、予測可能な一定の需要を提供することで、ビットコインマイナーはこのギャップを埋めることができ、テキサス州やスカンジナビアの風力発電所やアイスランドの水力発電所は安定した収益源を確保することができる(ノルウェーは2020年、エネルギーのなんと98%を再生可能資源から得ており、うち92%を水力発電から得ている)。

さらに、ビットコインマイナーによるこのポジティブな経済的影響は、再生可能エネルギープロジェクトをより経済的に魅力的なものにし、世界中で持続可能かつクリーンなエネルギーソリューションの利用を促進する。

今後の可能性

ビットコインマイニング、AIデータセンター、再生可能エネルギープロジェクトは交差し、エネルギーマネジメントにおけるイノベーションのチャンスとなる。

リアルタイムデータ分析を使って発電と送電を最適化するスマート送電網ソフトウェアは、いずれビットコインマイニングにシームレスに統合されるだろう。この統合により、特に人口が急増している地域や大規模AIデータセンターがある地域では、送電網の効率性と信頼性がさらに高まるだろう。

世界の発電と送電は非常に複雑で、競争が激しく、政治的、経済的、規制的な力に大きく左右される。そのため、送電網を安定化し、最適化する力によってビットコインマイナーは、特に再生可能エネルギー資源やエネルギー集約的なAIデータセンターが多い地域では、再生可能エネルギー生産の拡大や全体的なエネルギーマネジメントにおける貴重なパートナーとなる。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Matthew Henry/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:Bitcoin Mining Stabilizes Power Grids Strained by AI Data Centers